その8-01
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のんびり朝ご飯を食べている龍之介達は、
「食後のデザートよ」
と言って、パンケーキを山ほど自分の皿に乗せて、それと一緒にフルーツサラダを持って帰ってきたアイラが食べ終わるのを待っていた。
「ねえ、今日どうしようか。龍ちゃん、またビーチ行くの?」
「行くぜ。他に、あんまりすることないじゃん」
「そうだけどね。私はスーパーにでも行こうと思ってるのよ。龍ちゃんもついて来たいなら、待っててあげるわよ」
「スーパー? なんの買い物するんだ?」
「まあ、日本のスーパーマーケットほどじゃないけど、商店街の店――程度かしらね、ここだったら。それで、水の補給もしたいし、おやつも買いたいのよね。食べるものもないじゃない? ホテルのご飯だけじゃつまんないもんね。でも、わざわざ街まで繰り出すのも面倒だから、近くのお店よ」
「ああ、そうなんだ。だったら、俺も買い物に行くぜ! 海は帰って来てからでも何回も行けるし」
「俺も行く」
「俺も行く」
廉の隣に座っている双子組みが話に混ざってきた。
ここに着いてからというもの、親戚が多いだけに、ご飯を食べる時間帯も同じとあって、大抵、どこかかしらでアイラの親戚と一緒になっていた。
朝ご飯を食べる時は、あっちの親戚が挨拶で、昼の時はこっちの親戚がいて、話をして、夕食を食べる時はそこらで集まった親戚中がテーブルを回って歩いて――毎回、毎回、違った組でテーブルの席を一緒にしても、まだまだ一緒にしていない親戚もいるというのだから、ものすごいことである。
毎回、のんびり、朝ご飯を食べに来る龍之介組みは、早くに食事を済ませているであろう年配組みや、早起き組みとは顔を合わさないのだったが、寝坊組みの子供達とは、よく顔を合わせているのである。
今朝は、4番目の叔父の息子の双子がテーブルを一緒にしていた。
「なんで? 二人で勝手に行けばいいじゃない」
「なんでだよ」
「出かけるなら、ついでにいいだろうが」
「そうそう」
出会った時からそうだったが、双子同士で交互互いに会話をするのが癖なのか、それでいて、お互いに喋ることを判っているのか、頷いたり、同意したりするのも交互でしているのに、二人とも話の内容が外れたことがない。
「うちら3人なのよ。二人もついてきたら、車に乗れないじゃない。二人で勝手に行きなさいよ」
「だったら、2台にすればいいだろ」
「俺達だって暇なんだぜ」
「そうそう。のけ者だ」
「ひいきだ」
二人揃って交互にそれをやるので、アイラが、シーンと、嫌そうに二人を軽く睨め付けていた。
「暑いのに、それやらないでよ。暑苦しいわね」
「双子なんだぜ」
「文句言うなよ」
「こうやって育ったしぃ」
「長年の付き合いだしぃ」
「うるさいわよ」
「差別だ」
「ひいきだ」
相手にしていられないので、うんざり、といった表情をみせているアイラは、眉間にシワを寄せたまま龍之介に向いてくる。
「ちょっと、このうるさいのついてくるんだって?」
「なんで? いいじゃん、別に。スーパーに行くんだろ? 大したことないじゃん」
「さすが、リュウちゃん」
「話がわかる奴だな」
アイラはうるさそうに、二人を完全無視である。
「こんなの一緒だったら、暑苦しいじゃない。年がら年中一緒にいるくせに、今も一緒だし」
「住むトコが一緒だから仕方ねーじゃん」
「くされ縁だし」
「そうそう」
「ねえ? こんなの暑苦しいじゃない」
「そっか? 俺は全然気にならないけどな。むしろ、双子が揃ってると不思議でおもしろいよな」
「リュウちゃんは、いい奴だな」
「まあ、俺らで余興楽しんでるのは、見てみぬ振りしてやるけど」
「え? ああ――そういう意味で言ったんじゃなくてさ……。ただ――そのな、不思議だなぁって――悪い意味で言ったんじゃないんだけどさ――その……」
「龍ちゃん、この二人、龍ちゃんでからかってるのよ。相手にしなくていいんだから」
「そうなのか? ――いや、まあ……悪口言ったつもりはなかったんだけどさ……」
「悪口だろうと何でも言って言いのよ、この二人には」
「なんだよ」
「お前、失礼すぎ」
「うるさいわよ」
「龍ちゃん、この3人はどうもいつもこううるさいみたいだから、気にしなくていいよ」
一人、淡々とそれを言ってくる廉に、アイラだけでなく双子からも、ジロッと、睨め付けられた。
だが、廉は全く気にした様子もなく、スッと、テーブルの真ん中にあるフルーツサラダのボールを、アイラの前に押し出すようにした。
「早く食べないと、片づけが始まってる」
それで、後ろをちょっと確認したアイラは、ウェートレスがテーブルを片し始めているのに気がついて、自分のスプーンをさっさと取り上げる。
あむ、あむ、と大きな口でフルーツサラダを口に入れていくアイラは、また行儀悪く、そのスプーンを双子の前で振ってみせる。
「Nana とPop の世話はどうしたのよ」
「昼間なんか、そこらに世話役がたくさんいるじゃん」
「俺らは夜だけだもんな」
「それに、俺らは両方喋れるぜ」
「そうそう。昼飯食うことになったら、美味いの話つけれるしな」
アイラが、うーん、と少し唸っている。
「両方? 何が両方喋れるんだ?」
「広東語」
「北京語」
「それって、中国語なのか?」
「そう」
双子が揃ってそれを言う。
「へえ、中国語も話せるのか。日本語も話せるし、すごいな。一杯喋れて、便利だなぁ。俺なんか、英語だってやっとなのに」
「日本語は別だけど、学校はどれかは必ず必修だし」
「周りも混ぜて喋るから、慣れてるだけだから」
「学校の必修で違う言葉習うのか? ――なんで? どこの学校?」
「俺らの母親、半分、シンガポール人」
「そう。だから、子供の時は、結構、シンガポールに住んでたしな」
「それで、なんで?」
「龍ちゃん、シンガポールなんて、英語が必修よ。国語並の扱いなんだから、学校いってるのだったら、ほとんど英語喋れるわよ。アメリカンだけど。それに、華僑も多いから広東語も結構使ってる学校あるみたいだし。北京語に換えるのはそれほど難しいことじゃないんじゃない? 広東語喋れるんだから、北京語を習おうと思えばすぐにできるでしょうよ」
「へえぇ、そうなのか。違う言葉に慣れてるのって――いいな。うらやましいぜ。どこに行っても、ペラペラ、って感じだな。いいよな、そういうの」
「まっ、あんたも勉強すりゃいいんだろ?」
「そうそう」
「そうだけどさ……」
簡単に言われてしまったが、勉強したって、結構、大変なことは大変なのである。龍之介は言語系の勉強は苦手なのだから。
「そういうことで、俺らが一緒だと便利だろうが」
「そうそう。マレーシアだって、中華料理多いじゃん」
「そうそう。マレーシア料理だって、インド系か中国系多いんだからよ」
「どうするんだよ?」
「そうそう。俺らも一緒だろ?」
フルーツサラダを食べ終えたアイラはスプーンを置き直しながら、うーん、と唸っていた。それで、仕方なさそうに、渋々と承諾をする。
「わかったわよ」
「じゃあ、決まりな」
「俺ら、Pop とNana にも言ってくるから、用意できたら、俺らんトコ来いよな」
「タクシー呼ぶんなら、そこでやればいいし」
それだけを言い残して、双子は身軽に椅子から立ち上がっていた。
さっさと支度すれよ、とアイラに念を押して、二人が軽快にレストランを去っていく。
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