その2-05
アイラがトイレに入っている間、その場に残された三人は、ついその視線を廉に向けてしまう。
「なに?」
「女生徒を連れ込むとはいけないな、藤波君」
「君ね、親元離れてるらしいけど、そういった行いはあまり奨励できるものでもないな」
廉はちょっとだけ口元を上げるようにして、
「まだ、手を出してないんですけどね」
「まだ――って、手出すつもりなの? 廉って、その顔のまんま、手が早いんだな」
「その顔のまんま? ――それは?」
廉の顔が少々複雑そうに、ひくり、と引きつっていた。
「廉ってさ、遊んでなさそうな顔だけど、でも、裏で女いっぱいいそうな感じだもんな」
「どうして?」
「だって、女慣れしてる感じするしさ。いつも、女子が寄ってきても、全然、動じてないじゃん」
そういう問題ではないだろう――と廉が言い返そうとしたが、あまりに無邪気にそれを口に出している龍之介は、廉が遊んでいる――と疑いもせずに信じているようだった。
訂正するにも、あまりに無邪気なその様子を見ていると、溜め息だけがこぼれてしまう。
「――ねえ、あんた、もう大丈夫なの?」
居間に戻ってきたアイラに、龍之介が聞いた。だが、その瞳は興味津々といった感じがありありである。
なにが珍しいのかは知らないが、その瞳を丸くして、随分、あからさまにアイラを凝視してくる少年である。
「ええ、まあ――」
それに答えるアイラだったが、またじぃっと龍之介がそのアイラを観察している。
トイレで確認したアイラは、自分の顔がかなり青ざめていることに気がついていた。その顔色を見ている限りでは、到底、大丈夫の部類に入るはずもないのは百も承知である。
嘘八百――があまりにしらけているので、アイラは仕方なく藤波という青年に向いて、
「私の――ブレザー、どこですか?」
「ああ、あれね――」
「ここにあるよ。俺の横にちゃんとあるぜ」
アイラのブレザーを取り上げて龍之介が座っている場からそれを持ち上げて見せた。
「それは、どうも――」
さっさと龍之介からそのブレザーを受け取って、アイラはポケットを探ってみる。携帯を取り上げて、皆の前で勝手に電話をかけ出してしまった。
その光景を全員が黙って眺めている。
「――迎えに来て」
相手が電話口に出るなり、アイラの簡潔な一言が出されていた。電話の向こう側で文句を言っているが、アイラはそれを無視して、
「ここどこですか? 住所は?」
つっけんどんに問い返されて、廉はそのアイラをじぃっと見返してはいたが、一応、それを説明するらしい。
「六本木――サンライトマンション305号室」
説明されたままを電話の向こうに繰り返し、
「学校の生徒が運んでくれたみたい。だから、迎えに来て」
グッ、と向こうで詰まっている様子は伺えたが、アイラはそれで会話を終えて、さっさと携帯を切ってしまった。
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