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俗世の陰に蠢いて   作者: G1ft
ワインの国にて
1/2

プロローグ

“エルフ達との長きに渡る戦いの末、ついに人類は世界を我がものとした。

 だがそれは同時に、人類同士による終わりなき争いの始まりでもあった。”

                      

           ―アデニン・グリス著 「人類の栄華の軌跡」

                        

――どの時代でも人間は身勝手なものだ。


人類は支配者の下結託し、恐怖心や偏見から他の種族を追いやり、彼らから奪った領土で生活の基盤を固め、繁栄し、更なる豊かさを求め見境なく侵攻を仕掛けてきた。


しかし次第に貧富の差や思想の違いにより人間同士で争うようになり、世界中を巻き込む戦争へと発展した。


権力者の周りにはそのお零れにあやかろうとする者達が溢れ、権力や金を手に入れるための黒い思惑が横行し、些細なことですぐに争いを起こす。


その火種は住処を追いやられた他の種族へも飛び火し、彼らが奪われたものを取り戻すため反撃を開始するとまるで自分達が被害者であるかのように徹底して弾圧や迫害を行った。


今となっては人間は支配者として我が物顔で大地を闊歩する。他の種族や己より階級の低い人間から搾取し、せっせと私腹を肥やしている。自分たちがあらゆる生物の頂点に立つと信じて疑わないのだ。


だが実際はそうではない。一歩外に出れば怪物達の前に成すすべなく喰い散らかされ、彼らの権力の中枢に“人ならざる者”が紛れ込み、知らず知らずのうちに掌で踊らされていることにも気づかない。


彼らは頑なに認めないが人間より遥かに“上位なる者”がこの世には存在し、その者達にとって人間は餌でしかない。彼らはただ“喰われるもの”でしかないのだ――。



「北方のとある国で権力闘争をしていた貴族が一族諸共何者かに殺害されたらしい。なんとも奇妙な殺され方だったんだとよ。」


「南の街道の近くに怪物が住み着いたみたいだ。もう何人も襲われて喰われちまってる。軍に掛け合っても全く取り合ってくれないんだ。」


今日も街はそんな話で持ち切りだ。毎日毎日よく飽きないものだ。そんなことを思いながら荷馬車に荷物を積み込む。毎日聞こえてくるそんなくだらない話とも今日でお別れだ。


「なんだ先生、もう出発するのかい?」


そう言いながら一人の男が近づいてくる。


――ああ、もうすぐ出発するよ。


「そうか、そいつは残念だ。まぁあんたほどの薬草医になると世界中の人間が必要とするだろうしな。次はどこへ行くんだ?またここに立ち寄ってくれるかい?」


――デルリー・ガンスに向かう予定だ。長期間そこに留まる事になるだろうな。


「デルリー・ガンス?こりゃまた遠いな。それに長期間留まるって...あんたにしちゃ珍しいな。」


――少し...訳ありでね。ここにまた立ち寄るのはしばらく先になりそうだ。


「そうか...でも訳ありなら仕方ないな。またきっと立ち寄ってくれ。この街の皆があんたには感謝してるんだ。あんたならいつでも大歓迎だ。」


――ああ。きっとまた立ち寄るよ。


それじゃ、と言って荷馬車に乗り込み馬を走らせる。背後から聞こえる見送りに来た者達の声が段々と小さくなり、そして聞こえなくなった。


一つ大きく息を吐き、頭を掻く。


――どれだけ長く生きても感謝される事には慣れないな。


穏やかな日差しを浴び、荷馬車に揺られながらそう小さく呟いた。

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