第6話(エピローグ)
グレイルとディールが気がつくと、そこはどこかのパーキングエリアだった。いつからそうしていたのか、エンジンはかかったまま、ギヤはパーキングに入っておりサイドブレーキもかけられていた。
「ここは、どこだ……?」
「……芝浦のパーキングエリアだ。見覚えがあるだろ? それよりこれを見てくれ」
「ディール、これ……」
ディールが差し出してきた彼のスマートフォンには、2018年6月10日との表示があった。それは彼らがサエリクスに会うために連れ立って出発した日付に間違いなかった。しかも時刻は異世界にトリップしてしまった時間から少しだけ後ろにずれた午前8時25分。
グレイルもまたスマートフォンを取り出すが、充電がほとんどなくなっていたため、慌ててシガーソケットから伸ばしてあるディールの充電器に繋いだ。
「無事に、戻ってこれたようだな」
「ああ。服もあっちのときのままだ」
「サエリクス……」
「ちょっとトランクを見てくる」
「あ、おい、ディール?」
ディールはイスダールへ向かうときにトランクへ入れておいた鞄を取りに行ったのだった。そこにはアウストラルでは身につけなかった地球での服や靴が入れてあった。鞄には向こうで貰った物もいっしょくたに入っており、トムが描いた木炭画もちゃんとあった。クシャクシャにならないようにわざわざ板に挟んで保護してあったのだ。
もちろんグレイルの物もあり、二人は靴だけを履き替えることにした。
「俺のスマフォ、向こうで充電切れしたのに、こっちに戻ってきたら少しだけ回復してた」
「ふぅん」
「……あのゴリラ、変な写真ばっか撮ってやがる」
指が写って失敗したのやら、自分で自分を覗き込んで撮ったのやら……サイネールの寝顔の隠し撮りまである。それらに混じってグレイルとグリセルダ、ムートを交えて三人で写した物があった。
「記念写真、か。いいんじゃないか?」
「ああ。なんでこのスマフォだけが手元にあったのか疑問だったんだが、もしかしてこのためだったのかもな。別れらしい別れをしてこられなかったからな……」
「あれからどうなったと思う?」
「さあな。あいつらのことだ、死んじゃいないだろう」
ディールの問いにグレイルは軽く笑ってみせた。途中で抜けた形の彼らだったが、後に残してきたグリセルダやサエリクスについてはそこまで深刻に捉えていなかった。
グリセルダは本人の資質に加え、やはり現地で相当の地位にある伯爵の娘である。あの場さえどうにかやり過ごせば、彼女にはいくつものバックアップとセーフティーが働いている。それに、なんだかんだでサビーンは彼女を殺すつもりはなさそうだった。
サエリクスはと言えば、抜きん出た格闘センスと強運で当然今回も切り抜けるだろうと信じていた。テロリスト集団を潰すのはお手のものであろうし、ディールの活躍で雑魚の半分くらいはお寝んねしていたのだから、彼らとしては仕事は果たしたと思っていた。サイネールの協力もあるし、後はフードの男がどれくらいの実力の持ち主か、それだけである。
「サエリクスには悪かったと思うが、やっぱ俺たちのキーアイテムは車だったか。昔の映画でもあったよな、時速88マイルを出せば時空を超えられるってさ……」
「ああ。俺もちょっと考えた。けど、立地が悪くて無理だった」
「……おい。ゴリラとドライヴしてたときの話だったら聞き捨てならないぞ? 俺の代わりにあの女がこっちに来てたら大変じゃねぇか」
「グレイルが伯爵令嬢か。名前も似てるし、何とか誤魔化せないか?」
「おい!」
ディールの笑えない冗談にグレイルは渋い顔だ。もちろん、ディールも本気でそう考えていたわけではない。だが、サビーンからのヒントを得なくても、このY34セドリックが帰還への鍵になるであろうことは何となく予想がついていた。漠然とした予感と言うべきなのか、手持ちの品がことごとく消えていたというのに、これだけが彼の手の中に残っていたのだから。だから、アウストラルの王都で愛車を見つけたとき、しかもそれが最初からグレイルと共にあったと聞いて、なるほどと思ったのだった。
「お、噂をすると影だな。サエリクスだ」
グレイルがスマートフォンの通話を押すと、おそらくイタリア語だろう、サエリクスが興奮した早口で話し始めた。聞き慣れない言葉で捲し立てられ、グレイルは思わずスマホから耳を離す。とりあえずスピーカーにしてから、サエリクス落ち着くように言った。
「Hey,hey,saelicuss.Cill out.We'll pick you up at the hotel,okay? (おいおい、サエリクス。ちょっと落ち着け。今からホテルまで迎えに行ってやるから……わかったか?)」
「Ah……yes,yes I am.I want to talk to you a lot.So……so many things about.Thanks you.After later. (えっと……はい。わかりました。お前らに話したいことがたくさんあるんだ。そうだな……色んなことについて。サンキュー、また、あとでな)」
電話が切れると、側で聞いていたディールが言った。
「やっぱり、第二言語挟むと性格違って聞こえるだろ?」
「はは、考えて喋るからな」
「今回一緒に過ごして、あいつが普段どんだけ考えてないかが良くわかった」
「俺も。しっかし、今回も大変だったな」
「ああ。だが、それなりに悪くなかった……かもな」
二人は顔を見合わせて笑うと、青のセドリックに乗り込んだ。つい昨日別れた友人と、久々に日本で会うために。
――了――
このたびはコラボレーション小説『オーブ!』をお読みくださり、ありがとうございました。
執筆している時間がとても短く感じられるほど、書いていてとても楽しかったです。読んでくださった皆さまにも、少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。
マッハ! ニュージェネレーションさんからのメッセージ
かなりの長編となり、色々なキャラが出てきましたが、最後までお読み頂きありがとうございました。
この後は第2部となります。