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オーブ!~fighting spirits~  作者: 天界音楽
チャプター7:突撃軍団Aチーム
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第9話

 教授の問いかけに、グレイルは鼻を鳴らした。


 「マレビトを触媒に」と言ったこの男に、グレイルはとっくに愛想を尽かしていた。グリセルダには悪いが、サビーン教授に対して嫌悪感しか湧かない。


 結局、この男も自分たちが地球に帰還する方法について、今まで出た情報以上のものは持っていなかった。しかも、どうやらグリセルダも気づいたようだが、教授は聖堂騎士団を襲撃しようとしているガイエンと繋がりがあるようだ。確たる証拠はないが、それを匂わすような出来事なら多々ある。


 まず、今までの会話の中で教授が「オーブ」という単語を選んだこと。その言葉の響きはガイエンがよく用いるものだ。


 次に、教授が王都から姿を消したタイミングと情報のなさだ。教授の失踪はあまりにも完璧で、「どうせいつもの研究旅行だろう」と、誰にも疑われていなかった。しかも追跡しようにも念入りに痕跡が消されており、教授がどこへ行ったのかすら掴むことが出来なかった。


 聖堂騎士たちが守っている炎の宝珠、“太陽の雫”が狙われていると知っていたグレイルたちだからこそ分かる。一度は教授がガイエンに拉致されたのではないかとまで考えたのだから。


 しかし、事実はその逆、サビーン教授は襲撃の主犯、もしくはそれに近い協力者だった……。


「こういうことなんだろう、教授。あんたはオーブを使って実験がしたかった、だが、アウストラルという国はそれを許しちゃくれなかったんだろ。だから、あんたは、国を売ってガイエンに協力したんだ」

「な、グレイル、君は……自分がいったい何を言っているのかわかってるのか!?」

「わかってるさ、もちろん」

「馬鹿なことを。何の証拠もないくせに、このワタシを犯罪者扱いするとは! グリセルダ、君もなんとか言いたまえ」

「証拠なんざなくたって、俺にはわかる。あんたがテロリストだってな。なぜって? あんた、どうだこうだと言いながら、一度だって否定してねぇじゃねえか! 本当に違うならゴリラの前で言ってみろよ、自分はテロリストじゃないってなあ!!」


 グレイルの啖呵に、サビーンは目許をひくつかせた。いつの間にか立ち上がっていたグリセルダは、哀しそうな目をして、黙って教授を見下ろしていた。


「違う……違うんだ、グリセルダ……。これは長い目で見れば必ず皆のためになる、アウストラルのためにもなるんだ……」

「…………」


 震える手を伸ばし、グリセルダへと歩み寄るサビーン。それはまるで彼女の許しを得るかのように。助力を乞うかのように。


 だが、グリセルダは首を横に振った。サビーンは一瞬、雷に打たれたかのように身を硬直させると、よろよろと後退った。そして早口で言い募る。しかしそれは醜い、見苦しい言い訳だ。


「だいたい、おかしいじゃないか。どうして国の発展のために研究をしてやろうと言っているのに、オーブを差し出さない! わざわざ言ってやっているのだ、ワタシがだぞ!

 あいつらは大馬鹿だ、秘匿し続けて何になる? 知識は、学問は常に開かれていなければならないのだ! あの愚かな王は何もわかっていない! ヤツがあくまでオーブを独占しようと言うのならば、それはワタシが阻止してみせる……たとえ他国に渡ったとて人類の役に立つならそれは逆に正しいことではないか! むしろあの若造にとっては良いお灸になるわ!!」

「ハッ、まるで子どもだな。あんた、『あいつから玩具を取り上げたら、お前にも遊ばせてやるぞ』って言われてそれに乗っかったのかよ。プロフェッサーの名が泣くぜ、いっそ返上しちまえよ、くそジジイ!」

「教授……」

「違う! ワタシは……ワタシは悪くない! グリセルダ、君ならわかってくれると思っていたのにな……ワタシを慕っていたのじゃないのか!」


 喚き立てるサビーンにグレイルはひと言、


「馬鹿言え。この女は見てくれこそゴリラだが元騎士だぞ? お前みたいな売国奴なんぞにつき従うか!」


 ピシャリと言葉を叩きつけた。


「ぐっ、……ぐぅうううう!! このっ、蒙昧(もうまい)の輩がぁっ! お前たち、やってしまえ!!」


 サビーンの叫びに応えて、男たちが部屋になだれ込んできた。そう、グレイルがサビーンを疑わしく思っていた最後の理由は、常に彼の周囲にまとわりついていた暴力の匂いのせいだった。


 ディールとグレイルはすでに戦闘体勢に入っていた。だが……、


「おいゴリラ、何をボサッとしてるんだ、さっさと逃げるぞ!」

「っ……!」


 グリセルダだけが、この事態に対応できずに立ち尽くしていた。


 教授を捕まえてその身柄をサイネールに引き渡すのが最善、頭ではそう分かっていても、彼女の心と体が動かなかった。恩師であり、尊敬してやまない教授の裏切りに、グリセルダは戸惑うことしかできなかった。


 その間にも、男たちはディールとグレイルに襲いかかる。教授と睨み合ったまま動かないグリセルダに、グレイルが叫ぶ。


「グリセルダ!!」


 殴りかかってくる男の顎に強烈なアッパーカットを決めつつ、退路を確保したグレイルから先に窓に飛びつく。窓ガラスなどない、ただの四角い穴である窓からは容易に出ることができる。下には無造作に積み上げられた木箱があり、クッション代わりとしては少々固いが、やってやれないこともない。


「くそ、先に行くぞ! 絶対追いついて来いよ!」


 グレイルとディールはほとんど同時に飛んでいた。

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