表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オーブ!~fighting spirits~  作者: 天界音楽
チャプター7:突撃軍団Aチーム
75/122

第8話

 グレイルは丸テーブルの上でゆったりと指を組んだ。頭の中でどんな風に話を運ぶか組み立てながら口を開く。教授に不要な警戒をさせないよう、あくまでも学問的に興味があるというスタンスで。


「あー、始めたのはつい最近のことなんだが、ちょっとした興味本意から、個人的に民間伝承(フォークロア)を集めているんだ。その中でも、あんたはなかなか、面白い話を知っているとこいつに聞いてな。珍しい話を教えてもらえると思ったんだ」


 グレイルがグリセルダを手で示しながら言うと、サビーン教授は目を輝かせて何度も頷いた。グレイルの思った通りの反応だ。教授の広長舌が振るわれる前に、グレイルはさらに続けた。


「あんたが王都を留守にしていたんで、あんたの弟子でもあったサイネールにも話を聞いたんだ。マレビトについて詳しく教えてくれたよ。……あんたならきっと、もっと詳しいんだろうな、先生」

「ほぉ! サイネール君にも聞きに行ったのかね。そりゃあ随分とこの分野に入れ込んでいるようだ! マレビトの何がそんなに君を惹き付けるのか、聞いてみたいものだなぁ!」

「まぁ、そうだな。マレビトと言うよりは、別の世界ってやつが気になっているんだ。お伽噺だがな。もしもそちら側に渡る手段があるとしたら、俺は行ってみたいね」

「おお、おお……! いいね、いいねえ!」


 グレイルの言葉にサビーン教授は喜色満面だった。同士が見つかったのがよほど嬉しかったのだろう、ひとりで喋り始めた。興奮からか喋るにつれて声も大きく早口に、饒舌になっていく教授。そこに口を差し挟める者など誰もいやしない。


 異様なほど目を輝かせた教授が、捲し立てれば捲し立てるほど、グレイルたちとの温度差が広がっていくようだった。周囲の空気がねっとりと変質していくように感じながらも、グレイルはポーカーフェイスを貫いていた。


「別の世界があることは確かなのだ。残っているのはマレビトの話だけではない、我々の世界にいながらにしてあちらの世界を覗き、 我らに異界の知識と恩恵をもたらす『夢渡り』たちの手記など、断片的にではあるが様々な時代、様々な場所にあちら側の痕跡がある!


 グレイル君と言ったか。別の世界は実在するよ。ワタシとしても、世界を渡る方法があるのならば是非とも行ってみたい。しかし、本物の魔術師ならばともかく、ワタシには魔力がないし、そもそもそんな優れた能力を持つ術の使い手はこの時代にひとりも聞いたことがない。

 ならばどうする? そう思ったとき、より大きなエネルギーを持つ物からそれを取り出し、目的のために使えないだろうかと考えたのだよ。オーブ……あれはもっと、大衆のために役立てるべきだとは思わんかね?」

「!!」


 グレイルの横で、グリセルダが鋭く息を吸い込んだ。彼女の膝の上で拳が握りしめられている。


「オーブ、とは?」


 話が妙な方向に転がってきたと思いながら、グレイルは教授に質問した。オーブという言い方は、ガイエンのものだったはずだ。この国の人間は、同じものを「宝珠」と呼んで区別していた。


 グレイルたちにとってはただの言い方の違いだが、ちゃんと違って聞こえるということは、彼らにとっては「宝珠」と「オーブ」は別物、もしくは別の言語を用いて表されているということになる。


 もしくは、オーブというのは彼らが仲間内で使っている隠語なのかもしれない。ならば、ここで「オーブ」が何かということを理解しているように振る舞うのは得策ではない。


「オーブ! 宝珠、もしくは“魔王の心臓”……。様々な呼ばれ方をしてきた超エネルギーの塊だよ。それを扱えるのは、国の代表、国王だけだと言われている。

 だが、そんな事を、いったい誰が決めた。誰が証明した?  あれは、時の為政者が己の権威を高めるためだけに振り回して良い玩具ではない! 王が本当に民のためを思うなら、あれはもっと開かれた場所で学問のためにこそ使われるべきなのだ!」

「教、授っ……!」


 立ち上がろうとするグリセルダを、グレイルは片手で制した。


「オーブがあれば、研究は大いに進むんでしょうな? マレビトのいるあちら側の世界とも行き来ができると? だが、これまでのマレビトが皆、オーブを持っていたとは思えないんだが」

「マレビト、か……」


 ヒートアップしていた教授だったが、グレイルの発言で最初のテーマを思い出したのか、ふっと言葉を切って考え込んだ。


「そうだな……、マレビトたちの行き来は特殊なものだ。勝手にやってきた者、招かれた者、様々なマレビトがいたと聞く。彼らは招いた者によって送り返されるのが常だ。

 しかし、彼ら自身の役割を果たせばそのまま帰っていくこともある。彼らが現れるタイミングは、何か大きな事件の岐路に差し掛かっていることが多い。そして、彼ら自身があちら側から持ってきた(なにがし)かが帰還の鍵になっていることがほとんどだ。元いた場所へ戻るための鍵、と言えばわかりやすいかね。

 マレビトたちこそ、どんな理屈で世界を渡ってきているのかわからん。まったく不明だ。だが、何かしら意味があってそういった現象が起こっているのだろうな。近年、マレビトが渡ってきたという情報はない。だがもし、マレビトを見つけることが出来れば、オーブのエネルギーとそのマレビトを触媒としてあちら側の世界に渡れるかもしれん。

 グレイル君、君はなぜマレビトに惹かれた? なぜあちら側の世界に興味を持ったのだね? わざわざワタシを訪ねてくるほど、何が君をそこまで駆り立てるのだ。もしや、何か重大な事実を知っているのではないのかね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ