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オーブ!~fighting spirits~  作者: 天界音楽
チャプター5:王都とゴリラ女 
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第8話

 アウストラルの貴族たちにとって、王都に屋敷を持つことは一種のステータスである。それと同様に子弟を大学に通わせることも、それが可能な財力を持っていることを見せつける意味で重要なのだった。


 大学は国内に一ヶ所、王都にしかない。建前上、男女家柄の区別なく誰にでも門戸を開いていることになっているが、その授業料の高さから一般市民の子弟にとって通うのは難しい。だが、政治に携わる上で重要になる基礎知識を効率的に得られるため、成人前後の者だけでなく、ある程度年齢が行ってからの入学も認められており、決して生まれながらの貴族だけが通う場所ではないのだ。


 ちなみに、女子の進学率はとても低いと言わざるを得ない。グリセルダが特殊なのだ。


「それにしても、お前、女子大生かぁ。改めて言葉にすると破壊力がすげえな……」

「お、なんだどうした? やっと私の魅力に気づいたのか?」

「それはない」

「なんだよ! これでも教授からは褒められてるんだぞ。お前は勉強はてんでダメだが、力があるし扱いやすい、ってさ」

「それ、褒められてない気がするけどな」

「いやいや? めっちゃ褒められてるって。すげぇ感謝されてるんだって!」


 大学へのレンガ道を歩きながら、グリセルダは大学についてグレイルに教えていた。所々説明が曖昧だったり適当だったりするのは、グリセルダの頭の出来のせいなので仕方がないだろう。彼女は興味がない事柄についてはからっきしだが、記憶力は悪くないらしく、声をかけてきた老若男女すべてに名を呼びかけて返事をしていた。


「私の先生はな、民俗学と言って昔の物を集めたり、昔話を聞き集めたり、暮らしに密着した学問を修めているんだ。私も先生を手伝って市井(しせい)の人々に昔のことを聞いて回ったりするんだぞ」

「考古学者みたいなもんか」

「多分な。先生は博学だから、きっとグレイルの知りたいことについて教えてくれるぞ。じゃなきゃ他に詳しい人を紹介してくれるだろう」

「じゃあ、とりあえずその教授に話を聞いてみるか」

「おう」


 しかし、生憎とサビーン教授は留守だった。空の研究室で二人途方に暮れる。


「どうすんだよ」

「どうすっかな。あれか、メシ時だから帰っちまったのかなぁ。今日はもう戻ってこないぜこりゃ」

「なんでそんなことがお前にわかるんだよ」

「だって名札がひっくり返ってんだもん」


 グリセルダが示した先の壁には、名前の書かれた木片が鉤に引っ掛かっていた。


「……出直すか」

「いや、サイネールならまだいるはずだ。研究室に行ってみよう」

「ったく、今度は誰だよ」

「お前はもう会ってる相手だぜ? 午前中、路地裏で。せっかくデートに誘おうとしてたのに、お前が邪魔したんだからな、グレイル」


 そういえばグリセルダと出会ったきっかけは、こいつの強引なナンパをお節介してぶち壊したからだったなぁ、と思い出すグレイル。


 しかし、礼も言わずに逃げていった男については、グリセルダより背が低くてグリセルダより細い、いわゆるインテリ系の男だったという記憶しかない。


「邪魔したのは悪かった。だが、あんなにしつこく嫌がってて、悲鳴まで上げているような状況なら勘違いされても仕方ねえだろ。しつこい男……あ、女は嫌われるぞ?」

「男じゃねえし!」


 と、漫才しながらそのサイネールという男の研究室へと向かうグレイルとグリセルダだった。何やら怪しげな薬品の臭いがこもる別棟に入り、不気味なほど静かな廊下を抜け、二階の角部屋の前に立つ。


「お~い! 邪魔するぜ~?」


 グリセルダがドアノブに触れた瞬間、小さな爆発が起こった。


「あっち! ったくよ~」


 火傷した右手をプラプラさせながら、ノブの無くなった扉を蹴り開けるグリセルダ。その様子はまるで犯罪者のアジトに乗り込む特殊部隊のように勇ましい。というか、蛮勇だ。罠があると知ってあえて掛かるとは。


(うーん、やっぱり男だ)


 リアクションとか、言葉遣いとか、どう考えても乙女の部類には見えない。見えて欲しくない。だがもう一度言うがこれで女子大生なのだ、このゴリラは。


「ごほ……何の実験してるんだ?」

「違ぇ、こりゃ私のために仕掛けられた罠だぜ。このドアもダミーで、奥にもう一個本物があんだ……よっ!」


 ドアノブの小爆発に続き、グリセルダがドアを蹴破ったことでさらに爆発が起こる。グレイルは咄嗟に腕を上げて顔を守った。現れた「本物のドア」もダミードアの爆破によってガタついており、グリセルダがちょんとつついただけで部屋の中へ倒れていった……ガタンごとんガチャンと破滅の音がする。


 煙が充満、物は散乱、ゴリラの態度はそりゃもうやる気満々。


 そんなラップがグレイルの頭に流れる光景である。そこへ奥から若い男が咳き込みながら、よろよろとした足取りで出てきた。眼鏡のひょろっとしたインテリ優男だ。麦藁色のサラサラした髪の毛を七三に分けている。どうやら彼がサイネール――グレイルがゴリラの魔の手から救い出したイケメンらしい。


「わかってるなら入ってくるなよ! そしてドアを壊すな! おかげでぐちゃぐちゃだ……」

「爆発するように作ってるのならそれくらい想定しておかないと駄目な気もするけどなー」


 物凄く真面目な顔でグレイルが言う。その横槍に腹が立ったか図星だったのか、トゲのある声で誰何されてしまった。


「誰だお前は。バカ女の新しい手下か?」

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