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オーブ!~fighting spirits~  作者: 天界音楽
チャプター4:合流
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第3話

 サエリクスの待つ部屋まで案内されたディールは、そのドアの前でトムを振り返った。


「悪いんだが、しばらく二人で話せないか?」

「……それは、ちょっとな。アンタらは別に、ここでの扱いは犯罪者じゃないんだが、誰かが同席するルールになってるんだ。聞かれたくない話があるんだったら、俺はよそを向いてるから、小声でしてくんない? ……これでも大譲歩なんだぜ、そもそも俺じゃなかったらこんな提案しない」

「なら、仕方ないな」


 ディールはそれ以上食い下がることなく、さっさと部屋に入ることにした。聖堂騎士を警察と同じだと考えれば、見張りというか護衛というかが立っているのも、まぁ頷けない話ではない。それがトムなら邪魔されないだろうし、どうしても二人で話さなくちゃならなくなったら、サエリクスが抗議するだろう。面倒なことはあっちに任せようとディールは思った。


 ノックもなしに入ったとき、サエリクスはその長い足を机の上に投げ出して椅子に座っていた。全身から出る不機嫌なオーラ。以前に出会ったときより、やさぐれているなぁとディールは思った。サエリクスは浅黒い顔の中にある切れそうなほど鋭い目で、ディールとトムを一瞥すると、さっと立ち上がった。


「ハクロ・ディール……変わりねぇよな?」

「そういうお前は、ちょっと疲れてるみたいだがな、サエリクス」


 二人の男たちはガッチリ握手をした。サエリクスの険も少し和らいだように見えるのは、やはり知り合いと互いに無事な姿で再会できたことが大きいだろう。「まずは座るか」と椅子を勧めるサエリクスに、ディールは今気づいたというように口を開く。


「そういえば、お前の奢りでメシ食いに行く約束があったな。何にする?」

「は? あ、いや、それは覚えてるけどよぉ……今は帰るのが先決だろうが」

「いやほら、だから帰った後の話だって。今すぐは無理に決まってるだろ? 何言ってるんだ?」

「ぼぉぉけぇぇがぁぁぁ!! 何言ってるんだ、は、こっちのセリフだぁ!」


 どこまでもマイペースなディールに、カッとなりやすいサエリクス。本来ならここでジェイノリーか誰かが止めに入るのだが、生憎とここは異世界、しかも行動を共にしていなかった彼はここへは飛ばされてきていないだろう。


「くっそぉ……とっとと帰りてぇ~!」

「そうだな。早くグレイルと合流して帰る手段を見つけよう」

「あ!? グレイルもいるのか!?」

「こっちに来るとき、一緒に巻き込まれたんだ。だが、正確にはこの世界に来ているかもしれないっていう情報があるだけだ。だだ、外見の特徴や名前からして間違いないと思う。向こうも探してくれてたみたいだしな」

「そうか……だったらやっぱグレイルなんだろうな」


 ふっと視線を落としたサエリクスは、そういえば、とトムを振り返った。


「で? おめーはいつまでいるんだよ? こちとら感動の再会なんだ、わりぃけど二人っきりにしてくれや」

「……そういうわけにもいかないんだよなぁ。なるべく邪魔にならないようにするんで、そっちはそっちで勝手にやってくれ。あと、俺を追い出しても、別の融通利かないのが来るだけだぞ」


 サエリクスが反論しようとしたところを、トムは言葉を畳みかけて黙らせた。そして、寝台と四人掛けのテーブルくらいしかない小さな部屋の隅へ行くと、壁に体を預けて目を閉じた。腕組みまでして、完全に居眠りの姿勢だ。サエリクスは納得のいかない顔でディールを見やったが、青い髪の男は無言で頷くとそのまま黙って椅子に腰かけた。その左腕が一部赤くなっていることにサエリクスが気づく。


「あ、おい、ここどうした?」

「ん? あー……今朝、エルボーを受け止めてちょっとな。そういえば冷やしてなかった」

「なんだってそんなことになってんだよ? こっちの世界で怪我したら、俺たち治らないんだぜ?」

「知ってる。そもそも魔術が効かないのも、やっぱり同じなんだなぁと思った」

「ったく、つくづく厄介だぜ……。あ、おい、アンタ。聖堂騎士さんよぉ、氷持ってきてくれよ」


 サエリクスの言葉に、トムは考えるように天井を見上げ、それならと頷いて部屋を出て行った。「勝手にいなくならないでくれよ?」と釘を刺すのは忘れずに。トムが出ていくと、サエリクスはすぐさまテーブルに身を乗り出して早口でディールに囁いた。


「なぁ、ディール。お前がこの世界に呼ばれた理由は何だ? ここで何してる?」

「別に。何も」

「何もってこたないだろ! ヘルヴァナールんときも妙なミッション強制されて、今回も無茶苦茶言われてんだ。オーブを盗んで来いだとかな!」

「オーブ?」

「馬鹿、声が大きい!」


 一層声を落としたサエリクスにディールが聞き返すと、鼻先が触れそうな距離まで詰め寄られ、ディールは仰け反った。


「オーブってのは、聖堂騎士たちが守ってる、目ん玉くらいの宝石のことだ。俺にはわかんねーけど、魔法の品物らしい。俺を召喚した、フードのクソ野郎が世界征服のためにそれを欲しがってるみてぇでな……地球へ帰るためにそれを奪って来いっつー交換条件を押しつけられたんだよ!」

「だったら聖堂騎士は敵なんじゃないか?」

「誰が素直に盗みをやるかよ! と……言いてぇとこだが、下見に行ったらあるべき場所にオーブがなくて、代わりにニセモノが置かれててな。監視も外れたタイミングで逃げてきた。どこにあるかもわからねぇもんを探し回って泥棒するより、別の手段を探す方がマシだと思ってな」

「ふむ」

「王都へ行くつもりだったんだよ。下からのルートでな」

「偶然だな、グレイルも王都にいるらしい」

「んじゃ、決まりだな」

「ああ。どうやらそうらしい」


 サエリクスとディールの行動は決まった。後は……


「ところで旅費はあるのか? 俺はまったく金を持ってないんだが」

「マジか! 俺も自分の分しかないぞ。ったく、ここでどんな生活してきたんだよ、ディール」


 呆れた表情でぼやくサエリクスに、ディールは肩をすくめてみせた。

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