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オーブ!~fighting spirits~  作者: 天界音楽
ステージ2チャプター1:人生最悪のホワイトデー
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第18話.うるせー変態

 サイネールはグレイルの車に、ジェレミアとフレデリックはディールの車に同乗し、4台に分かれて阪神高速5号湾岸線の入り口を目指した。いなくなってしまったグリセルダの居場所をいち早く察知して先導するために、助手席にジェレミアを乗せたディールのY34セドリックが一番前を走っている。


 舞洲スポーツアイランドで走り詰めの上、フレデリックと決闘までやらかしたディールが休息なしに走り続けられるかと言えば、実はそんなことはなかった。


 仮眠を取ったグレイルはともかく、ハールやアレイレルの疲労も溜まっていた。だから、出発してすぐサービスエリアかどこかで仮眠を取ろうと計画していたのだが、その問題は異世界の魔法によって解決されることになった。


「一時的にだが、心身の疲労を回復しておこう。眠気も取れる」

「へー、便利なもんだね」

「魔術……何でもありなんだな」


 ジェレミアの言葉にハールが感心の声を上げた。残る面々も、ボソリと呟いたディールと同じような感想を抱いているようだ。


「魔術か。実際こうして疲れが取れてるっていうのは不思議だな。いつになくよく寝た朝みたいな清々しさがある」

「へぇ。仮眠は取ったが、一応俺にもかけておいてもらおうか」

「もちろんだ」


 いつでも冷静なアレイレルは、自分の拳を握ったり開いたりしながら魔術の効果を実感している。グレイルとサイネールも同じく魔術で回復し、フレデリックとジェレミアは互いに術を掛け合った。


「いつもこうやって魔法で疲労回復をしてるのか?」

「まさか! これは緊急手段だよ。私たちだって、これが無茶だとわかっているさ。だが、今はこうするのが一番手っ取り早い」


 ディールの言葉に、フレデリックは笑って答えた。そんなわけで無理やり魔術で体を動かし、彼らは夜の街を駆け抜けていった。


 グリセルダの行く先はジェレミアの探知魔術だけが頼りである。そのジェレミアがどうやって魔術で彼女を探しているのかと言えば、同じ「血」を持つ者同士の波長を感じ取るのだという。フレデリックは端正な顔をしかめ、辛そうな声で言った。


「根気のいる作業だ。探すべき場所は広く、また、慣れない土地だ。ずっと集中していなくてはならないし……。ああっ、なんということだ! 愛しいジェレミアが苦しみの中にいるのいうのに、私にはどうしてやることもできない。代わってやることも、額に滲む汗を拭いてやることも! ああっ、ジェレミア!」

「うるせー変態だな」

「フレデリック。頼むから黙っていてくれ……」


 運転しているディールも、助手席のジェレミアも、後部座席で己の体を抱いて身をくねらせている変態(フレデリック)を止めることはできない。


「身内同士でセクハラか……御前は俺の事を野蛮人だって言っていたが、人の事を言える立場じゃないだろ。とりあえず殴り倒されない様にしろよな」

「なぜ私が殴られなければならないんだ?」

「もう、本当に黙っていてくれ……」


 ジェレミアはとうとう両手で顔を覆ってしまった。

 そんな馬鹿なやり取りの間にも車は進む。宮島のサービスエリアに差し掛かるあたりでジェレミアの様子が変わった。


「この道は真っ直ぐにしか進めないのか?」

「ん? そりゃ車は道しか……とりあえず止まるぞ」


 ディールのY34はサービスエリアへ進入し、グレイルたちもそれに続く。もう夜中近くのこと、めいめい自動販売機で買ってきたコーヒーや緑茶を啜りつつ、額を寄せて地図を見ながら話し合う。


「弟クンの勘が指し示してる方向はおそらく、厳島神社がある場所だな」

「ジェレミアの探知魔術は勘じゃないぞ」

「まぁまぁ。ともあれ、宮島へ渡るにはフェリーじゃないと」

「フェリー?」

「船だよ、船」

「船、だと……!」


 グレイルの指摘とそれに噛みつくフレデリックと、それに割って入るハール。時刻はすでに十時を回ったところだ。当然、フェリーは動いていない。それでも近くまでは行こうと、インターを降り一般道を通ってフェリーポートを目指すことにした。カプセルホテルでも見つかれば幸運、そうでなければコインパーキングで車中泊だ。


「すまない、迷惑ばかりを……」

「馬鹿、それはもう良いと言ったはずだ」

「だが……」


 頭を下げようとするジェレミアをアレイレルが止める。なおも言い募ろうとするジェレミアの肩を、サイネールが叩いた。


「もう! 君は責任を感じすぎ! いいんだよ、こういうのはさ。僕たちだってずいぶん迷惑かけられたんだもん、これはお返しをさせてあげてるんだよ!」

「おう眼鏡君よ、お前は態度がデカすぎるぞ、何もしてないのに。……いや、何もしてないことはないか。泣きごとは言ってたもんな」

「なんだとぅ!!」


 茶化すグレイルを殴ろうとするサイネールだが、うまくはいかない。


「ところで、ひどい顔色だよ? 着くまでちょっと寝てたら?」

「……ありがとう。そうさせてもらおう」

「じゃあジェレミア、私の膝に!!」

「ハール、この黒いのそっちに載せといてくれ」

「えっ、嫌だよ」

「しょうがねぇなぁ。じゃあお前、こっち来い」

「待ちたまえ、どういうことなんだ!」


 ディールとハールは同時にフレデリックから目を逸らした。それに対してさらにヒートアップするフレデリックと、冷たい対応のふたり。ジェレミアは思わず吹き出していた。サイネールたちも笑っている。むしろ、わざと明るく振舞っている節もあった。――決戦の時は近い。

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