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第9話 水曜日とお嬢様と幼なじみ(3)


 暁星のことはよく知っていたつもりだけど、中学以降、何を考えているのか分からないことが増えた。

 今だってそうだ。



 その後、落ち着いて戻って来た朝宮さんと少し話をして、暁星は帰って行った。



「暁星さんって、とても、格好よくて可愛い人でした」

「そうかな? そういわれると、いいやつだし……それこそ彼氏の一人や二人いそう」

「……羨ましいです」



 少し不満そうに朝宮さんは言う。

 だいたい、羨ましいって朝宮さんも負けず劣らず可愛いと思うんだけど。



「確かにモテると思うよ。昔から」

「昔から——じゃあ幼なじみということは、暁星さんは竹居さんの小さい頃を知っているんですよね?」

「そうだね。両親も仲が良くて、うちに泊まりに来たりしてた」

「お、お泊まり……!?」



 あ、なんか誤解してる?



「小学生の頃の話だよ。子供だったからさ」

「そ、そうなんですね」



 なんか、急に朝宮さんの機嫌が悪くなったような気がした。

 お風呂も一緒に入ったことがあるけど、だからどうだって話だし、さすがにここで言うのはアホすぎるな。

 とりあえず話題を変えよう。



「まあ、ともかく買い物の続きをしようか? 付き合うよ」

「…………はい。そうですね! ありがとうございます」



 ぱっと花が咲くように笑顔になる朝宮さん。

 やっぱり、彼女には泣き顔よりこういう笑顔がよく似合う。



 俺たちは楽器店にもう一度移動する。

 店を出るとき、先ほどのリア充カップルが喧嘩をする声が聞こえた。



「何よ! ずっと他の女ばっかり見て!」

「いや、ほんとゴメン……」



 それを聞いた朝宮さんが「修羅場ですね……」と言ったのが印象的だった。




「済まないねぇ。今、丁度楽器を切らしていて……大阪の店ならたくさんあるんだが」



 楽器店のおっちゃんが、眉を下げて言う。

 最近立て続けに売れてしまったらしく、今は在庫がないということだった。



「残念です」



 朝宮さんが溜息をつく。

 せっかくマウスピースを買うのだから、お店にある楽器に付けて試し吹きをしようと思ったのだけど。



「大阪のお店には、楽器はどれくらいあるのですか?」

「常時十種類くらいは置いている。ジャズ用からクラシック向け、初心者用からプロ向けまで。もちろん試し吹きができるよ」



 朝宮さんの質問になぜかおっちゃんがドヤ顔で答えた。

 いや、あんたのとこのお店じゃないだろ。



「あの、行ってみたいです。楽器が欲しくなりました。今までのお年玉を全部使えばなんとか——」



 親がぽんと出してくれないのかな?

 お年玉って……なんか親近感湧く。



「高い買い物だから、慎重にね」

「そうですね。あの、相談なのですが……竹居君、楽器買うのに大阪まで着いてきて頂く事って……できますか?」

「ええ?」



 大阪って、ここからだとバスで四時間くらい。JRでも同じくらいだ。

 割と気合い入れて行く距離になる。

 まあ、日帰り旅行みたいになりそうで楽しそうだけど。



「確かに経験者がついて行ってくれるなら心強いだろう」



 店のおっちゃんが俺に謎のウインクをしてきた。

 なんだ? 目にゴミでも入ったのか?



「うーん、いつくらいを考えてる?」

「来週からのゴールデンウィークとかいかがでしょう?」



 うん。もちろんヒマだ。



「分かった。予定空けておくよ」

「やった……やりました! ありがとうございます。あの、お礼は何がいいでしょうか? なんでも言ってもらえると」

「なんでもって……お礼なんて気にしないで大丈夫」

「そ……そうですか? ありがとうございます……私は負けませんから」



 さっきから暁星といい、いったい何と戦っているんだろう?



「負けない……? 何に?」

「いろいろです」



 朝宮さんからは強い決意を感じる。

 そんなに楽器が欲しいのか。

 確かに、俺もそうだったかも。


 俄然ゴールデンウイークが楽しみになってきた。

 とりあえず、姉さんに軍資金を借りなくては……。



「じゃあ、交通手段は私が準備しますね!」



 朝宮さんは、いつか見たキリッとした顔で言った。

だ、大丈夫かな?

 それにしてもどうして急にここまで楽器が欲しいと思ったのだろう?

 どうも、暁星に会ったことが影響しているように見えなくもないけど。



 それでも俺は、朝宮さんと遠くに出かけることがとても楽しみになっていた。

 女の子との二人だけの小旅行だ。

お読みいただき、本当にありがとうございます!


【作者からのお願い】


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