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第1話 お嬢様と文化祭と夏休み明け

 バイト漬けの夏休みはあっと言う間に終わり……二学期が始まった。

 教室には、夏休み前と大きく変わったクラスメートたちが数名いた。

 日焼けしたり、急に垢抜けたり。

 何人かの生徒が「夏休みデビュー」を果たしていたようだった。



「よぉ、竹居」

「おう。昼河。久しぶりだ。あのあと大丈夫だったか?」

「ああ、日焼けがとんでもないことになってな……ボロボロになった顔見られて早希に散々笑われたわ」

「そうらしいな」



 昼河は相変わらずである。



「それで、竹居は朝宮さんと進展はあったのか?」

「進展って……別に」



 実は、朝宮さんとは時々会っていた。

 といっても、デートではなく、同じバイト先でだ。

 どういうわけか俺がバイトしているところに彼女が乗り込んできて、一緒にバイトをしていたのだ。


 噂をすれば朝宮さんが教室に入ってきた。



「竹居君、おはようございます」

「ああ、おはよう」

「昼河君もおはようございます」

「おー! おはよう!」



 朝宮さんは学習発表会以降、笑顔でみんなに挨拶していた。

 そのため、朝宮さんに気さくに話しかけるクラスメートが増えている。


 だが、昼河はそれが気に食わないようだ。



「なるほど……竹居と朝宮サンの関係は確かに変わってなさそうだな」



 昼河はつまらなそうに言った。



「そんなに俺と朝宮さんが進展して欲しいのか?」

「そりゃあもう! 甘い話に飢えてるんだよ。ああ、あの幼馴染み……暁星さんだっけ? あの子とでもいいぞ。ドロドロの三角関係に——」

「お前なぁ」



 そういえば暁星とは、祭以降会っていない。

 連絡は時々とっているのだけど、忙しそうなのだ。





 そして放課後……。

 朝宮さんと旧校舎の音楽室に集合する。

 


「じゃあ、文化祭に向けて本格的に練習しないとな」

「はい! そうですね」



 嬉しそうに朝宮さんは準備を始める。

 今日は久しぶりに二人で練習だ。


 俺は休み中のトレーニングなど、朝宮さんに伝えていた。

 彼女は真面目に取り組み、練習を欠かさなかったようだ。

 幸い彼女が住むマンションは、割と防音がしっかりしているらしく、思い切り、というわけではないものの、音を出しての練習ができたということだ。



「ごめんごめん、遅くなった!」



 さて、やろうかと朝宮さんに言ったとき、暁星が音楽室に入ってきた。



「おお、暁星、久しぶり!」

「お久しぶりです。暁星さん」



 彼女もぱっと見、変わっていないように見えた。



「元気だったか?」

「うん。タクヤも、朝宮サンも元気そうね」

「そりゃあもう。それで、これから練習だけど」

「そのことで、話があるの。あたし、しばらく練習に来られない」

「え? そうなんですか?」

「うん。ごめんね。吹奏楽部に復帰することになってて。夏休みも毎日練習に参加してたんだ」



 そうなのか。

 吹奏楽部への復帰。

 あの先輩が良くしてくれたのかも知れない。

 それはそれで、喜ばしいことなのだが……。



「じゃあ、やっぱりそっちの練習で来られなくなるんだな。じゃあ、本番は——」

「ううん、本番は参加できる。でもね、平日は殆ど向こうの練習に出ることになるから……」

「そっか。まあ、でもよかったよ」

「ううん。ワガママ言ってごめんね。せっかくタクヤや——朝宮サンとも練習楽しくやっていたのに」

「しょうがないよ」

「……タクヤ……だから……」

「ん?」



 いつもの暁星の元気さが、すこし萎んでいるように感じた。



「い、イヤ……なんでもない。じゃあ、練習と選曲をしなきゃね」

「あ、ああ、そうだな」



 一通り決めることを決め、練習をして、その日は終わった。

 やっぱり曲は「マイ・ラブ」に決定。

 メインは、朝宮サンのソロ。時々俺がメロディをやって暁星は基本サポートだ。



「じゃあ、先に帰るね。タクヤ、朝宮サン、また連絡する」



 暁星は、そう言ってあっと言う間に帰ってしまった。

 朝宮さんは、暁星の様子に違和感を覚えたようだ。



「暁星さん……大丈夫でしょうか?」

「うん。問題無いとは思うけど、ちょっと気になるな」

「はい。とても良くしていただいていたので……」

「俺からも聞いてみるけど、できれば朝宮さんからもそれとなくラインで聞いてみてよ」

「はい。わかりました」



 俺も朝宮さんも、暁星を心配する気持ちは同じようだ。

 少し嬉しく感じた。



「暁星さんが来られないとなると……しばらく練習は二人きりですね」

「そうだね」

「寂しいですけど、竹居君と二人なら大丈夫ですね」

「そ、そう?」



 頼られて悪い気はしない。

 これからも彼女を支えて行ければと俺は思った。



 その日の帰り。

 朝宮さんと駅で別れ、俺は家に向かったのだが——。



 俺のアパートの前に、黒塗りのSUV車が止まっていた。

 そして、その中から黒い背広を着た男が何人か飛び出して……俺に迫ってきた。



「え? なぜ?」



 俺は身の危険を感じ、後ろを振り返り逃げようとした。

 しかし、そこにも黒服の姿が……。



「えっ? えっ?」

「竹居卓也様ですね?」

「は、はい」

「では失礼して——」



 近づいてきた大柄な男は、俺を肩に抱えSUV車の方向に歩き出した。



「ぐぇッ、一体あんた達は……誰?」

「暴れず、大人しくしていれば大丈夫です」



 男に抱えられたこの状況で何が大丈夫なのか分からないんだが。

 俺はそのまま車に連れ込まれ……拉致されてしまった——。



お読みいただきありがとうございます。

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