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第16話 お嬢様と後片付け


 それからしばらくして。

 俺と朝宮さんは相変わらずソファにくっついて座っていた。

 ようやく俺が朝宮さんとキスをしてしまった衝撃の余韻から覚めた頃。



 ピンポーン。



 ん? 来客のようだ。

 ここは先生のマンションだし、どうしたものか。


 俺とくっついている朝宮さんは、どうやら眠くなってきたのか、うつらうつらとしていた。

 気持ちよさそうだし声をかけるのもかわいそうだし。


 と思っていると、ぱたぱたと歩く音が廊下から聞こえる。

 誰かが玄関に向かったようだ。




「こんばんは——」

「これはこれは……初めまして……」



 来客は女性のようだ。

 聞いたことがある声だな。


 このままの状態だと色々マズイし、申し訳ないけど朝宮さんには起きてもらおう。



「朝宮さん、朝宮さん」

「…………。あ、竹居く……ん!? あっ、ご、ごめんなさい」



 意識がはっきりとした朝宮さんは、少しだけ俺と離れた。

 同じタイミングで、俺たちがいる部屋のドアが開く。

 セーフだ。


 部屋の入り口から顔を出したのは……朝宮さんのお手伝いの夕凪さんだった。

 久しぶりだ。

 彼女は花束を二つ抱えている。



「もう一人の女の子……暁星さんでしたか? 彼女は眠っていらっしゃるようですね」

「はい、そうみたいでして——」



 先生はいつのまにかキチンとしていて、夕凪さんの応対をしている。

 どうやら夕凪さんは朝宮さんを迎えに来たようだ。



「竹居様。こちら、どうぞ」

「ああ、このような……ありがとうございます!」



 俺は体に染みついた動作でそつなく花束を受け取った。

 やっぱ、花というものは嬉しい。

 それはプレゼントしてくださった人の気持ちの塊だと俺は考えている。


 そうやって考えていると……夕凪さんが俺の耳元でささやいた。

 前にもこんなことあったな——。



「あの、お嬢様、そして皆様の演奏を妨害した者、つまりレーザーポインターを使っていた輩ですが、先ほど確保し、拘束しております」

「ええっ? 確保? 拘束?」



 物騒な言葉にドキッとする。

 それって、捕まえているってことだよね。

 両手をロープとかで縛ったりするやつを使って。


 頭の中にテレビドラマで見たような光景が浮かぶ。

 怖い人たちが一般市民を拘束して尋問するシーン。



「恐らく前に竹居様もご覧になられたことがあると思うのですが……私どもの関係者が大変怒っておりまして……」



 もしかしてゴールデンウイークに俺たちを探していた、執事さん派——あの武闘派っぽい人たちかな?

 怒らせたら確かに怖そう。



「手荒なことはしておりませんが……いかがしたものかと。素性も分かっております。今後を、決してお嬢様や竹居様、暁星様など関係する方々に手を出そうなどと思わないように、制裁を加えておきましょうか?」



 ひいいいぃ。

 制裁ってどんな制裁?

 海にすまきにされて沈められたり?



「いやいやいや……怖いこと言わないでください」

「それでは開放しても?」

「はい……お願いします」

「分かりました。では、()()()にさせていただきます」



 ……。

 怖い。怖すぎる。

 きっと、何もするなと言ってもきっちり、何かするんだろうなぁ。

 俺は……こんな人たちのボス(朝宮さんのお母さん)と対決しようとしているのか。

 下手したら命を賭けないといけないかもしれない。


 ま、朝宮さんからのご褒美を前借りしたようなものだし……諦めるつもりはないけど。



「あの、それと一つお聞きしたいことがあります」

「はい、何でしょう?」

「お嬢様と……何かございましたか?」

「え」

「気のせいかも知れませんが、何かご様子が以前と異なっているご様子でして」

「い、い、いえ、これと言って」



 大事件があったけど、俺はそう言うしかなかった。

 朝宮さんは今、夕凪さんと目を合わせないようにどこか遠くを見つめている。

 何かあったことはたぶん、既に夕凪さんにバレているし、朝宮さんは問い詰められたら隠せなさそうだ。



「もし万が一……お嬢様が傷つくことがありますと——」



 夕凪さんが喋った後半のこと、何かすごく怖いことを聞いたような気がするが恐怖のあまり耳に入ってこなかった。



 その後、少しぽーっとした朝宮さんは夕凪さんと一緒に帰って行った。

 暁星はこのまま先生の家に泊まるらしい。

 俺は、それほど家から遠くないので、歩いて帰ることにする。



 その日は、俺にとっていろいろな意味で、忘れられない日になったのだった——。




お読みいただきありがとうございます。

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