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第10話 水曜日とお嬢様と旅行の予定


 俺は家に帰ると、朝宮さんと日帰り旅行をする際の軍資金の融資を、社会人の姉さんに頼み込んだ。



「姉さん、一生のお願い! バイトして返すからお金貸して!」

卓也(たくや)くん。いったい何度目の一生のお願いかな?」

「だめ?」

「そうね、まずは話を詳しく聞こうか?」



 何かにピンときたようで、姉さんは興味を持ってくれた様子。

 姉さんの髪……ポニーテールのしっぽが揺れている。

 とりあえず門前払いは避けられそうだ。



 両親は東京にいて、俺たちは姉弟でここ鳥取に二人暮らしをしている。

 姉さんが東京で働く気になれないらしい。

 俺も東京にあまりいたくないため、二人でこの田舎に住むことにした。



 お小遣いは親から姉さんを経由して受け取っている。

 臨時に必要な場合も例外では無い。

 そのため、どうしても大阪に行く際の軍資金が欲しい俺は、姉さんに朝宮さんのことをかいつまんで話した。



「ふぅん。卓也が女の子とねぇ。その朝宮ちゃん、写真とかないの?」



 姉さんは興味津々といった風に聞いてくる。

 そういえば、喫茶店でみんなで撮ったやつがあるな。

 なんか暁星のやつ、俺と朝宮さんとの三人のグループをラインに勝手に作っていた。

 スマホを開き、グループに提供された写真を開く。

 そして姉さんに写真を見せるために許可を二人から貰う。



「あら、暁星……恵利ちゃんじゃない。可愛くなったわねえ。しかもこの胸……」

「何見てんの?」

「ごめんごめん。恵利ちゃんも行くの?」

「ううん。こっちの……朝宮さんとだけだよ」

「へぇ。これまためっちゃ綺麗な子ね……なるほどなるほど」

「何がなるほどなん?」



 姉さんは、何か考える素振りをした。

 そしてニヤリとする。

 あ、これは……何か楽しみを見つけたような顔だ。



「一つだけ条件を設ける。ゴールデンウィークの後でもいいから、この朝宮ちゃん、うちに連れてきなさい」

「えー!」

「たくやくん。君に拒否権など無いのだよ」



 朝宮さんみたいなお嬢様が、こんな狭いアパートに来てくれるものか。

 でもまあ、なんだかんだ引き延ばしていれば、姉さんも忘れるだろ。

 とりあえず、今はうんとだけ言っておけばいい。



「分かった。うん」

「メモしたから。連れてくるまで毎日催促(さいそく)するから」



 ……マジかよ。



「それで、どうやって行く?」

「朝宮さんが手配してくれるって言ってた。多分、黒塗りの高級乗用車で連れて行ってもらえるよ」

「黒塗りの高級乗用車って……まさかそういう筋の人じゃないよね? でもまあ、車の方が安心なのかな?」

「そうなの?」

「なんとなくだけど。大人がついていくって事でしょ? はぁ、仕方ないわね。これ」

「ハハー!」



 俺は床に突っ伏して、ありがたく軍資金を受け取った。

 なんと二万円も。ありがたい。



「こ……これが伝説の一万円札……しかも二枚。というか、こんなにいいの?」

「まあ、何かあってもこれでなんとかなるでしょ」

「何かって?」

「帰れなくなるとかね。でも、その代わりさっきの約束忘れないように。それと余ったら返すこと」



 帰られなくなる? そんなことあり得ないでしょ。

 ただ、この家に朝宮さんを連れてくるのは……。

 絶対姉さんは純情な朝宮さんで遊ぶつもりだ。

 姉さんの毒牙にかけないためにも俺が守らなくては。



「だーれが毒牙じゃ?」



 げっ。頭の中読まれた?

 こういう妙に勘が鋭いところが苦手なんだよな。




 時は過ぎ……。

 ゴールデンウイーク直前の、水曜日、旧校舎の音楽室。



「竹居君、いよいよゴールデンウイークがやってきますね」

「うん。楽しみだね」

「はい!」



 椅子に座って俺の演奏を聴いている朝宮さんがいた。

 演奏と言っても、途切れ途切れだったり同じ部分を反復したり。

 時には音階をさらったりする。

 そういう意味で、とても退屈だと思うのだが……朝宮さんは時々目をつぶって聞いてくれていた。



「そういえば、二人で大阪に行くっていうのは、ご両親は大丈夫?」



 俺一人だけなら遠方に出かけることがあった。ライブに行ったりもしたし。

 しかし、相手はお嬢様。

 こんな可愛い子、俺が親だったら心配するね。



「はい。母は別に気にしないでしょうし、父はいませんし……」



 あっ。



「ご、ごめん」

「ううん。いいんです。ただ、一つ……それ以外で問題が」

「えっ? どうしたの?」



 残念ではあるけど、無理してまで行くことはないような気がしている。



「その、身内と言いますか、執事をされている方がいらっしゃるのですが、その一人の耳に入ったらしく反対しているみたいで」

「そうなのか。でもまあ……無理しなくても」

「いいえ。そもそも、私には夕凪さんがいるのに……その執事の方が干渉しすぎだと思うのです」

「そ、そう……?」



 ぎゅっと朝宮さんは拳を握りしめている。

 その拳に強い意思を感じた。

 でも執事の人って……ドラマとかマンガとかで見る、武術の達人みたいな怖い人じゃないだろうか? あと悪魔みたいな人。



「必ずなんとかしますので、竹居君は安心してください」



 俺としては、穏便に話し合いで解決してくれるのが一番だと思うんだけど……。

 一瞬不安が頭を過るものの、遠出の予定はいつの間にか楽しみに変わっていた。


 そして、ついにゴールデンウイークがやってくる。



 しかし、日帰りの予定がまさか一泊することになり、姉さんに感謝することになるとは……。

 この時点で俺は想像すらしていなかった。

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