実は私、〇〇なの!
回想回です。主人公がとてつもなく上から目線でウザいです
ルイス様との出会いは伯爵家の娘として更に教養を身につけるために編入したアイリス学園だったわ。この学園は全寮制で、王族だった初めの学園長の方針で『身分は重要視せず文武両道を目指し、貴族と平民が机を並べて学び共に協力して切磋琢磨する』っていう珍しい学校だったの。
クラス分けは高成績順にAクラス〜Eクラスに振り分けられるんだけど私はCクラスだったわ。つまり中間の成績ね。
Cクラスに入った私は伯爵令嬢として慣れない礼儀やマナーに四苦八苦しながらも友人に恵まれて充実した学園生活を送っていたわ。自分で言うのもなんだけど、元々ピンクゴールドの髪に新緑のような緑色の目と白い肌で大きな胸の魅惑的な体で愛らしい容姿のお陰で人を惹きつけていたんだけどね、社交的な性格だから男女問わずクラスの全員から好かれていたの。
◆◇◆◇◆◇
ある日の放課後、クラスメイトの男爵の家のミシェルに学園を案内してもらっていたの。
「分かってはいたけどこの学園ってホント大きいなぁ」
「うふふ。初めは校内図を見ながらでないと確実に迷子になってしまいますわ。アマリリス様は慣れるまで誰かと行動した方がよろしいと思いますわ」
なーんて話しながら校内図とにらめっこして歩いていると学園長室とは少し違う豪華な扉を見つけたの。ミシェルにここは何?って聞いたら
「生徒会室ですわ。………私の婚約者が副会長をしておりますの」
って教えてくれたんだけど、始業式から3ヶ月経って結構ミシェルと仲良くしてたのに婚約者がいるなんて知らなくてビックリしちゃったの。
(教えてくれても良かったのに。もしかしたら私に紹介したら私の事が好きになっちゃうと思ったのかしら?心配しなくてもミシェルの婚約者って普通の顔だろうから好きになるわけないのに。だってミシェルは私に比べたら可愛くないんだもん。そんな人のところにイケメンなんて来ないでしょう?婚約者って言うの凄い戸惑ってたからもしかしたらブサイクなのかも?)
そんな事を考えていたら、ミシェルが中に入って挨拶されます?って聞いてくれたから私はもちろん!って答えたの。だってどんな人か気になるじゃない?
「では参りましょうか」
そう言って生徒会室へ向かうミシェルの後をワクワクしながらついて行ったわ。生徒会室で素敵な出会いがあるなんて知らずにね
◆◇◆◇◆◇
コンコンコン、とミシェルがノックすると中から「はいはーい。どうぞー」と軽い声が聞こえてきたの。それを聞いてミシェルが私に入ることを伝えて、扉を開けて中に入ってから
「失礼致します。ミシェル・モンクレスです。」
ってカーテシをして挨拶したから私も
「失礼します。アマリリス・オデットです。」
ってミシェルのように挨拶をしたの。その後顔を上げたらビックリしたわ。だって、目の前には見目美しい男性陣がいてたんですもの!私、ついつい整った顔ぶれの生徒会の人達に頬を染めて「素敵」って呟やいて一人ひとりの顔を見ちゃった。
2つの長机に座ってたのは茶髪で癖っ毛のある甘いマスクの人と、銀髪でメガネを掛けたいかにも真面目でインテリですって人と、短い赤毛の髪で筋肉質な人と、黒髪で他の人より幼い顔をした人達で本当にイケメンだったんだけど、私、高級な机に座ってた金糸を編んだようなキラキラと光る金色の髪に澄んだ湖のような紺碧の目の優雅に微笑んでいる男性に目を奪われてしまったの
「久しぶりだな、モンクレス嬢。今日はアルに会いに来たのか?」
「ご無沙汰しておりますルイス殿下。それもありますが本日は新しく入られたクラスメイトを紹介しようと思いまして。こちらオデット伯爵家のアマリリス様ですわ。……アマリリス様?いかがなさいましたか?」
「……、………ハッ!し、失礼しましたっ。アマリリス・オデットです!あ、伯爵家です………」
私ったら、ついついルイス様に見惚れてしまってミシェルに名前を呼ばれるまで気付かなかったの。そのせいで滅茶苦茶な挨拶になっちゃった。
(殿下ってことは王子様よね?うぅ、最悪…。よりによって王子様の前で。不敬だと思われた。絶対無礼だ!って怒られる……)
この時、王族に対する挨拶じゃなかった恐怖と恥ずかしさで目頭が熱くなって体が震えてきたの。とても逃げたくなったわ。でも、返ってきた言葉は罵倒じゃなくて私が予想していたのとは正反対のものだった。
「ううん。全然構わないよ。そうか、君が編入してきたオデット嬢か。コホン。改めてようこそ、アイリス学園へ。僕はこの生徒会の会長をしているルイス・サンセントだ。よろしく頼むよ」
そう言って私に向けて笑った顔はこの世の者とは思えない程とても綺麗で眩しくて、まるでおとぎ話の世界から出てきた王子様みたいだったわ。そんな顔を見ちゃったら惚れない筈ないでしょう?私はもう、ルイス様から目が離せなくなってしまっていたの。
◆◇◆◇◆◇
「はぁ〜ルイス殿下素敵だったぁ…」
ルイス様に他のメンバーを紹介してもらって生徒会室から出た私はうっとりしてさっきの夢のような出来事を思い出していたの。
「そうでしょう?さすがこの国の第一王子ですわ。ですが、解っていらっしゃるかとは思いますが決して言い寄ってはなりませんよ?身分はもちろんの事ですがあの方には幼少の頃よりお決めになった婚約者がいらっしゃるのですから」
「えっ…婚約者?」
分かってたけどやっぱりルイス様には婚約者がいるんだ。そうだよね、相手は王子様。婚約者なんて当たり前だよね…って思ったんだけど、ルイス様に一目惚れして恋をしてしまった私にとったら知りたくないことだったの。一気に現実へ戻されて気分が落ち込んじゃったわ。
「あの、大丈夫ですか?」
ズーンと言う効果音が付くくらい悲しんでいるとミシェルの声とは違う私を心配している声が聞こえたの。誰だ?って思って顔を上げたらシルバーグレーの髪をした美人な女性が心配そうに私の事を見てたわ。
「生徒会室の前で暗い顔をなさって、どうしました?何かありましたか?」
「えっと……」
「いいえ、何もございませんわユリエラ様。先日編入して来られたオデット伯爵令嬢のアマリリス様を生徒会の皆様に紹介してきたところでして。殿下含め高爵位の錚々たる顔ぶれでしたのでおそらく緊張が解けたのでしょう。アマリリス様、ご挨拶を」
私が喋る前にミシェルがユリエラと言う子に説明しちゃったの。だけどそれ、半分違うからね。なんか嘘ついてまで私がルイス様に恋していることをユリエラには知られたくないみたいだけどどうして?って思ったわ。だけどミシェルに挨拶しろって言われたから考えるのを止めて挨拶したの。そうしたら心配そうにこっちを見てたユリエラの顔がホッと安心したものに変わって
「そうだったのですね、安心しました…。申し遅れました。私は3年Aクラスのマルトラン公爵家のユリエラと申します。ミシェルさんが案内されているという事は同学年なのですね。これから行事等でお会いすることもあるかと思いますので、短い期間ではありますがよろしくお願いしますね?」
それでは失礼します。って言ってとっても綺麗なカーテシをして生徒会室へ入って行ったの。ユリエラのとても丁寧な言葉遣いに見惚れる程綺麗な所作。未だ貴族社会に疎い私でも何者か嫌でも分かったわ。そりゃあ知られたくないよね
「………今の人って」
「あの方こそルイス殿下の婚約者であるユリエラ様ですわ。誰もが羨むぐらい殿下ととても仲睦まじいのですよ。そして、先程殿下から紹介されたルーク様のお姉様でもあります。あ、そうそう。生徒会は副会長である私の婚約者を含めて皆、婚約者がいらっしゃいますの。アマリリス様は大丈夫だとは思いますが殿下同様、決して役員の方々に言い寄ったりお近付きになろうなどとは考えないでくださいね?もちろん他の婚約者がいる方達にもです。婚約者のいる方にそういった態度を取ることはご法度ですから。それでは校内の案内を再開いたしましょうか」
そう言ってミシェルは歩きだした。ミシェルに置いて行かれないように私も歩きだしたけど頭の中はルイス様のことでいっぱいで、校内を覚えるどころじゃなかった。
◆◇◆◇◆◇
ミシェルに校内の案内をしてもらって寮に帰る途中で生徒会室の窓が見えたの。電気が付いているから誰か残っていると思って誰がいるのか気になって窓の方を見ると、とても仲睦まじく談笑しているルイス様とユリエラが見えたの。ああ、やっぱりミシェルの言っていたことは本当だったんだってズキンと胸が痛んだわ。だけどね、綺麗で完璧な婚約者がいても私はこの恋を諦めるつもりはなかったの。だって、
だって私は…
私はヒロインなのだから――――って
◆◇◆◇◆◇
私には前世の記憶があったの。生前の自分はチキュウという星のニホンという国で生まれ育って、大きい箱や薄く小さな板でヒロインと呼ばれる女性になって様々な男性との恋愛を楽しむ『乙女ゲーム』というものや、『転生』という分類の小説をよく好んで楽しんでいたわ。でも覚えているのはそれだけで、前世の自分がどういう人物で何時どうやって死んだのかは覚えていなかったの。
それでね、私が前世を思い出したのはまだパパとママが生きていた子どもの頃だったの。母親譲りのピンクゴールドの髪に庇護欲をそそる愛くるしい容姿の私は物心がついた頃には既に人気者で、常に周囲には女の子と男の子の友達がいてたわ。私自身も自分の愛くるしい容姿を自覚していたから頼み事があると可愛く首をコテンと傾けて、困り事があると上目遣いで目を潤ませて相手の目をジッと見つめて、どちらの時も舌足らずに「おねがい?」と言うの。すると皆いつでも私の希望を叶えてくれたわ。それはまるでお姫様になったような気分だった。でもね、事あるごとにそうやってお願いを聞いてもらっていたからバチがあたったのね。原因不明の高熱を出して生死を彷徨ってね、その時に前世の記憶を思い出したの。
熱が下がって色々考えれるようになって、前世の記憶持ちであることを受け入れてから思ったの。死にかけて前世を思い出して可愛い仕草と言い方でチヤホヤされるなんて、まるで前世で読んでた転生物の小説のヒロインみたい。よくヒロインに転生した人物が、自分はヒロインだからって暴走やあざとい振る舞いをして最終的に周囲から嫌われるけど、私だったらそんなヘマは絶対にしないって。だから私決めたの。同性の敵は作らないで誰からも好かれる愛され系を目指すって。
そう決めた私は“お願い”を封印したの。このままじゃあ同性から嫌われると思って。それが正解だったみたい。誰にも嫌われることなくお祖父ちゃんと親になってくれた叔父さん、叔母さんに可愛がられて楽しい生活を送ってこられたわ。
ここからが本題なんだけど、私がヒロインだと確信したのは放課後の生徒会室での一件だったの。だって今日起こった事が乙女ゲームの展開に酷似していたんですもの。
生徒会のメンバーが乙女ゲームにありがちな爽やかな王子、堅物な王子の護衛、真面目な宰相の息子、少し軟派な性格の大臣の息子、秀才な王子の婚約者の弟で全員婚約者がいる美形集団。そして副会長の婚約者による校内案内で生徒会室へ行き、メンバーへのお披露目かつ自己紹介というイベントを発生させたヒロインのテンプレを詰め込んだ愛され系美少女の私……。どう考えても乙女ゲームの世界で間違いないでしょう?まぁ、欲を言えばせっかくなら自分の知っているゲームの世界に転生したかったと思ったわ。殆どの乙女ゲームを遊んだけどアマリリスもルイスもユリエラも知らなかったの。きっと私が死んだあとに出たゲームなんだと思う。
(ここはゲームの世界だけど今は現実世界だから選択肢は出ないしセーブも出来ない。フラグや攻略対象がどこで自分を好きになってくれるかわからないけど伊達に色んなジャンルの乙女ゲームで遊んできてない。そこは今まで遊んできたゲームの知識と勘でカバーしよう。もしかしたら生徒会以外にも攻略対象がいるかもしれないから学園と学園外のイケメンと仲良くしてみよう。よし、やる事は決まった。明日から攻略対象との恋愛を楽しみながら本命であるルイス様をユリエラから奪ってハッピーエンドを目指す。その為に“お願い”を解禁しよう。仲良くしてくれてるミシェルには悪いと思ってるけどね。だってイケメンの宰相の息子なんて私より可愛くない男爵家のミシェルには勿体ないもん。
ああ、これからの学園生活が楽しみだ。きっと薔薇色に違いない。ヒロイン最高!)
そう思いながら私は今日の出来事を忘れない為とこれからの為に、明日からの予定やメモとかをノートに書き込んだの。
アマリリスはミシェルのことを可愛くないと言ってますがアマリリスがそう言ってるだけでそんなことはありません。キリッとした顔の美人さんです