幸せじゃないんだけど!
「はぁああああ……」
今ふっかふかのソファに座って大きく深いため息を吐いたのはサンセント王国の皇太子妃――こと私、アマリリス・サンセント。3年前、最愛の夫であるサンセント王国第一王子のルイス・サンセント様と運命的な出会いをして共に困難を乗り越えて夢のようなプロポーズをされて結ばれたの!うふふ、素敵でしょう?
私、子どもの頃に市井で平民として生きていたんだけど両親が流行病で死んじゃって、天涯孤独になった時にオデット伯爵家に引き取られたの。
実はパパがオデット伯爵家の長男だったみたいで、平民だったママと結婚するのを反対されちゃったから駆け落ちしたんですって。だけど、子どもに罪はない。って前伯爵ーつまり私のおじいちゃんが引き取ってくれて、子どもがいなかったパパの弟の養女になったの。
そういった過去があるから出自が複雑で身分が低い私は皇太子妃になるのはパパとママみたいに反対されるだろうな。例えなれたとしても侍女や臣下に辛く当たられてお茶会に呼ばれないし招待されても来てくれないだろうって思ってたの。
だけど成婚パレードの時に大勢の人からめちゃくちゃ祝福されてまったく苛められることもなかったし、お義母様…ううん、王妃様からお茶会に誘われたり王宮に人を招待したら来てくれたの。だから私は認めてもらえたと思ったの。自分は幸せになれる。そう思ったわ。
――――そう、そう思っていたの
2年前、ルイス様との間に子どもが産まれたの。ルイス様とそっくりな金の髪に紺碧のような色をした目のかわいい男の子。子どもの祖父である国王様はとっても喜んでくれて労ってくれたわ。でもね、王妃様はとても冷たかったの。今でも忘れられないわ。だって、初孫の産まれたばかりの我が子を抱かずに憎しみを込めた目でこう言ったんですもの。
『言った筈なのに余計なことをして。わたくしは世継ぎとしても孫としても認めませんから。それは王家と関わりのない家に養子に出します。』
って。子どもを『それ』呼ばわりされちゃって、喜んでもらえると思ったのに、どうして?って泣くよりも先に頭が真っ白になっちゃった。だけど、国王様とルイス様がそれだけ言って部屋を出て行った王妃様にとっても怒ってくれてたからそれが救いだったかな。
その後、王妃様の宣言通り王命として、産まれたばかりの子どもは名前をつけることも許してもらえずに養子に出されてしまったわ。しかも王族の関係者が接触したり、ルイス様の子どもだってバレないようにする為に監視付きみたいなの……。その他にも王族である限り子どもは作っちゃダメ。夜の営みは必ず避妊薬を飲んで、万が一妊娠した場合は堕胎薬を飲むことを義務付けられたの。
いくら王命って言っても王族って跡継ぎが必要でしょう?ルイス様の他に公爵家に嫁いだお姉さんと妹さんがいるけどルイス様は第一王子よ?あまりにも蔑ろにしすぎだってルイス様と抵抗と抗議をしたんだけど、宰相や大臣も合意だって言われてしまってとうとう命令は覆ることはなかったわ。
でもね、王命を守ったら王妃様の機嫌が良くなって前みたいな関係に戻れるんじゃないかって思ってね、本当は赤ちゃんが欲しいんだけど、子どもが出来ないように物凄く不味い避妊薬を毎日飲んで健気に王命に従い続けたわ。え、何で毎日かって?だって毎晩ルイス様が私を求めてくるんだもの。
だけど私の願いは虚しく叶わなかったわ。だって今日まで公式の場以外王妃様と顔を合わせることがなかったんですもの。しかも会っても全く目を合わしてくれないの。それだけじゃないわ。お茶会を開いても誰一人来てくれなくなったの。……これって、やっぱり王妃様がコッソリ陰で糸を引いてる?
◇◆◇◆◇
と言う事が色々あったから王族らしくないため息を吐いてたんだけど、どうしてこうなったのか、一体何がいけなかったのか、全くわからないのよね。分かっているのは、王妃様の私への態度が変わったのは妊娠してからだったと言う事。その時は母になるから強くなるようにわざと冷たくされているのだと思っていたんだけど、どうやら違うかったみたい。
あー思い出したら涙出てきた…
天井の豪華なシャンデリアを見ながら思い出してたから涙がじんわりと目から溢れてこめかみを伝って、朝早く起きて私に似合うようにセットしてもらった美しく結上げた髪が濡れちゃった。でも仕方ないよね。悲しくなっちゃったんだから。
愛するルイス様の為にお妃修行はなかなか進まなかったけどものすごく頑張った。私が招待した人とのお茶会は王族の一員として、また未来の国母として、貧相な姿で王族の顔を汚さないように華美にはせず身の丈に合ったドレスを着て、舐められないように威厳を持って行った。王妃様とのお茶会は会話中に少し顔をしかめて子を作るなと遠回しに言われたけど、ルイス様を盗られたことによる嫉妬からの発言だろうから大したことはないと思う。だって、直ぐに元通りの顔に戻ってたし。
じゃあ、いったい原因は何?
一度ルイス様に相談したことがあったの。彼も王妃様の態度に思うところがあったみたいで王妃様と話をしてくれたんだけどね、話し合いから戻ってきたルイス様が私に「母上は昔、婚約者に好きな人ができてしまったから婚約を破棄されているんだ。だから愛する人に裏切られずに結ばれた君が羨ましいんだよ」と説明してくれた。その時はただの八つ当たりじゃん!って思ったんだけど、今思えば思い当たる事があった。