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脱走する聖女  作者: 颯
3/81

03

 サリーナと呼ばれた女性は、わたしの専属侍女らしい。

 話を聞くうちにそれは分かった。そして。


 今世のわたしは、この国の聖女様らしい。


「わたし…………聖女様なの?」


 わたしの呟きを聞いたサリーナは目を見開いた。


「アイリス様が………喋った?」


 って、あんたもそれ言うんかい!

 専属侍女にまでこう言われる今世のわたしとは一体………。


「サリーナ、さっき君はアイリスがもう目覚めないかと思ったと言ったね。彼女に何があった?」


 微笑みながらも強めの圧をかけてくるカイル様を見て、サリーナは姿勢を正し、暗い表情を浮かべた。


「報告が遅れ、申し訳ありません。先ほど、アイリス様は急に意識を失われたのです。何の前触れもなくお倒れになり、医師を呼んでも原因は不明と診断されました。このまま意識が戻らず食べることも水を飲むことも出来なければ、やがて死に至るだろうと………」


「じゃあアイリスのさっきからの変な言動は、その影響?」

「変、とは?」

「私達に貴方達は誰だと尋ね、自分はなんだと殿下に尋ねたんですよ」


 ルーク様が答える。

 こうやって並べられると、モロ記憶喪失の人だね。


「アイリス様…………?」

「ごめん、貴女のことも分からない。サリーナさん? でいいのかな?」

「なんてこと! 誰か! 早く医師を呼んで!」


 結果、わたしは記憶喪失と診断されました。


「記憶喪失である以外は身体に異常はございません。無理に思い出そうとはせず、自然体でお過ごし下さい」

「記憶がいつ戻るかは分からない?」

「殿下、人間の脳は複雑でごさいまして………何が起こるか医師でも予測不可能なのです」


 カイル様とお医者さんが小難しい話をしている間、わたしはサリーナとルーク様に今世のわたしのことを聞かせてもらっていた。


「アイリス様は十歳の時に聖女様に認定されまして、その際にカイル殿下とご婚約されました」

「聖女って?」

「聖女様は、結界を張って魔物や穢れから民を守り、怪我をした者の傷を癒したり、瘴気を浄化したりすることができる存在でございます」


 サリーナはこの国の常識を教えてくれた。

 ルーク様からはと言うと。


「お前は小さい頃から手のかからない妹だった。父や母の言うことを素直に聞き、ワガママもほとんど言わなかったが、表情の変化が乏しくあまり喋らなかった。首肯か首を横に振るかで会話をしていたと言っても過言ではない」


 アイリスを教えてもらっていた。

 ねぇこれ、最後の方、褒めてる? 悪口?

 絶対、ルーク様の方が表情の変化、乏しいって。


「それにしてもここって、わたしの家なの?」


 調度品が全部豪華な広すぎる部屋。

 日本人だった時に住んでいた一人暮らし用のアパートの一室とは大違い。


「こちらは歴代の聖女様がお住みになっている『聖なる塔』でございます」

「聖なる塔?」

「はい。聖女様の家と言っても良いかと。ここに入れるのは王族と聖女様のご家族、世話係の侍女やメイド、護衛の騎士達だけです」


 聖女、家持ちなの?

 優遇されすぎでしょ。まぁ必要な存在だから仕方ないのか。


「ねぇ、外に出てみたい。ここにいるだけじゃ何も進展しないでしょ? 町とかを見たら何か思い出すかもしれないし」


 わたしが何気なく放った一言で空気が凍った。

 何で全員、黙り込むの?


「アイリス」

「でん、か?」

「聖女がここを出る時は、厳重な警備のもと、先触れを出して、万全の対策をたてなければならない。色々準備もいるし、そんな簡単にはできないよ」


 困ったような顔で、カイル様は小さい子をさとすように言った。ルーク様も続ける。


「それに聖女が外出するのは公務の時のみだ。その他は基本的にこの塔で過ごす。身の安全のためにも、騎士達が聖女を守りやすいここに」

「え、じゃあ、聖女ってほとんどここに軟禁状態?」


 ポロッと言葉が滑り落ちた。


「軟禁じゃない! ここ以外に行かなくてはならない場所がないだけだ!」

「ルーク様、ここは行かなくてはならない場所なんですか?」


 ついルーク様って呼んじゃった。

 アイリスはなんて呼んでたのかな。お兄様?


「それも忘れているのか…………。聖なる塔は、聖女の力を国の端々まで届けることができるんだ。はるか昔の聖女がそのように定めてこの塔を作ったらしい。ただ魔物や瘴気の被害が特段ひどい時は聖女が自ら足を運ぶんだ。それが公務」

「ほぇ〜。でも結局、ここ以外に行けないんですよね」

「まぁそうだが」


「やっぱり軟禁じゃん!」


 断言したわたしに、ルーク様は諦めたように頭を抱えた。

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