01
何枚もある高級シーツを全部固く結んで繋ぎ合わせる。
シーツをこんなことに使う日が来るとは………人生って何が起きるか分からない。
仕上げに長いシーツの片端をベッドの足に括り付ける。
ベッドも有り得ないくらいデカくて豪華だから、ひっくり返ることはないでしょ。
ふとわたしは自分の部屋を見回した。
広い部屋の割に、物は少ない。
窓際にさっきも言った豪華なベッド、本がぎっしり詰まった本棚、真ん中の方にはガラス製のセンスを感じるテーブル、ふかふかのソファー、床には埃一つ落ちていない高価なカーペットがある。
クローゼットを開けば、溢れんばかりのドレスがズラッと並んでいる。
……………絶対こんなに着ないでしょ。一生かかっても着れないって。
見る度に呆れているけど、今日はそれもそこそこにドレスの中から動きやすそうな物を取り出す。
髪を適当に一つにくくって………準備オッケー。
必要な物を詰め込んだカバンを肩にかけて、長くしたシーツを窓から垂らす。シーツの先は地面に着きそうになっている。
うむ、理想通り!
ここは二階の部屋。
閉じ込められているわたしが脱出するためには、これしか方法はない!………多分。
何かの漫画で読んだことある気がするな〜。
窓から長いロープを使って脱走するやつ。わたしはロープを持ってないから、ベッドシーツを代用。
走りやすいがウリの靴を履いて、窓枠に足をかけた。
────落ちたら、死ぬ。
今更ながら、恐怖が襲ってくる。
二階と言えど、高さはそこそこある。頭から落ちれば最悪な結果も有り得るだろう。
「でもずっとここに軟禁されてるなんて冗談じゃない……っ!」
ドアの前にいるだろう見張りの騎士に聞こえないように小さく呟く。
深呼吸をしてから、垂らされたシーツに飛びついて、ほとんど皆無に等しい筋肉を総動員させて、壁に足をつきながら、少しずつ下降して行った。
き……っっっつ!
ドレスの裾のヒラヒラ邪魔!
袖のフリフリもいらん!
歯を食いしばって一歩ずつ地面に近付いていく。
半分くらいまで来て、ベッドがわたしの重さでひっくり返るかもという心配が杞憂だったことに安堵する。
大した重さじゃなかったのに、今はカバンがとてつもなく重く感じる。重力………。
「きゃぁぁぁあっ、聖女様っ?!」
上から叫び声が聞こえて見上げると、一人の女性が窓からわたしを見下ろしていた。わたしの専属侍女だ。驚きと恐怖でか、顔を手で覆っている。
─────ちっ。見つかったか。
「何をなさって…………っ、誰かぁぁっ、早く来て!」
「何があった!」
次に顔を見せたのは、騎士団の制服を着た青年達。
下降中のわたしを見て絶句する。
「聖女様っ、何をしてるんですか!」
「おいっ、早くそれをほどけ!」
「バカ! ほどいたら聖女様が落ちてしまうだろうが!」
「はっ、確かに! ならどうすれば………」
…………この国の騎士団って、アホなの?
普通に着地点に仲間配置すれば良くない?
まぁそうされると困るのはわたしだから言わないけど。
皆が混乱中の今のうちに、とわたしは一心不乱で腕と足を動かし続けて、やっと足を地面につけた。
達成感ハンパない!
と、こんなことしてる場合じゃない。さっさと逃げないと。
実はこの脱走、今回で二回目だった。
一回目は見事に失敗して、だからわたしの部屋が二階になった訳なのだが。
裏門を目指して、走る。足が痛すぎる!
町に出てからもしばらく走り続けて、人気のない路地裏で一度足を止めた。…………うん、ついてきた人はいないみたい。
肩にかけたカバンから、カツラを出す。
長い茶髪のカツラは、わたしの金髪を隠してくれた。
お店に入って、新しい服を買う。着ていたドレスはその場で売っぱらった。伊達眼鏡をかければ完成。
鏡を見て、笑顔を作る。
これなら一目見ただけじゃ、わたしだとは分かんないでしょ!
わたしは脱走成功を確信した。