7の4話
「頼もーう!」
太陽が真上を通り過ぎる頃、エルダ山中腹の正面玄関に訪問客の声が響く。
凛とした良く通る大声が長い廊下を通過し、ロビー吹き抜けから2階奥の客間まで届いた。
「おばあちゃんだっ!」
その部屋のベットでゴロゴロしていたふたりの内の片方は、ギャアッという風な声を上げると、急ぎ飛び起き身仕度を始めた。
その様子を見ていた小さい方も、どうやら状況を理解したらしい。
釣られる形で服を替えねばと、着ている浴衣を脱ぎ散らかした。
ズカズカズカズカ……
無遠慮な足音がふたりの部屋に近づいて来る。
勝手知ったる他人の家で、躊躇などを感じない。
心なしか、足音ですら苛立っている。
バン!
と派手に扉を開け放したミィンナデの目前には、澄ました顔でベッドに座る親族ふたり。
いや、澄まし顔というよりキョドり顔。
それでも白々しく、
「あれ、お、おばあちゃん……どしたの?」
なんてダイヤ先輩がとぼけて言ったもんだから、ミィンナデのこめかみ辺りがピキッてなった。
「こんな日が高くなるまでゴロゴロしてんの、貴様ら俺の身内だけだろがあっ!」
「「ひいいっ!」」
結果ごまかしは、怒りの火に油を注ぐ事となり……
孫アケミと妹ヒトゥリデは、ミィンナデからお尻ペンペンを受けてしまう羽目になる。
まあ、何か言わなくても愛の鞭だったのだろうけれども。
魔力感知の達人には、目や耳で気づく範囲から対処しても手遅れなのだ。
『どうして早く教えてくれないっ!』
だってヒトゥリ様寝てたでしょ?
ずっと無反応だったじゃないですか。
もう2話分スルーですよ。
『それはそうだけど……』
向こうでオジャルマが色々あったの、聞かないで寝てるからでしょ?
オジャルマに何かあったら、ミィンナデ様が動くの想像つくじゃないですか。
全部自分のせいです。
『むぐぐぐぐ』
「ヒトゥリデ、諦めよう。
時空間を別にされ……どうかしたか?」
「今念話があって。
お姉ちゃん来るの、アイツ知ってて黙ってたって」
「なに!
テルオの奴めえええっ」
ちょっとちょっと、なに言ってんの!
これふたりとも八つ当たりの言い掛かりだよね。
自堕落にしてて怒られんの自業自得だよね。
「さあお前達、死ぬ準備は出来たか?」
「「出来る訳ない!」」
直後ふたりの悲鳴が客間に響いたのだが、その声は屋敷に漏れる事は何故か無かった──
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あらあらあらあら~。
ミィンちゃん、久し振り~」
尻を押さえて歩くダイヤ先輩とヒトゥリデを連れてミィンナデが大食堂に現れると、エルダは満面の笑みで彼女に抱きついた。
「エルダママ、ご無沙汰してます」
やはり旧ホー王国王家とエルダさんは旧知の仲らしい。
それもかなり親密な間柄の様だ。
「近くに用があって顔を出そうとしたら、うちの妹と孫娘がグータラな魔力を出してたんで。
どうも失礼しました」
「まあ、アケミちゃん、お孫ちゃんだったの!
そういえば雰囲気そっくり」
エルダさんは嬉しそうに改めてダイヤ先輩を見詰めた。
「でもふたりには昨日疲れさせちゃったんで、あんまり怒んないであげてね」
さすがは優しいエルダさん。
昨日痴話喧嘩に巻き込んだ事を言ってフォローしてくれるのだが、時すでに遅し。
折檻は終了しておりますので、言うならもっと前にして下さい。
食堂では丁度お昼の支度が済んで、上の寝坊助ふたりを起こしに行こうかってタイミングだったらしい。
もちろんエルダさんはミィンナデ様の来客には気づいていたので、真っ直ぐ2階に向かった時点で行動を理解する。
そして手際良く、もうひとり分の席の用意をしていたのである。
「さあ、取り敢えずごはんにしましょ。
ミィンちゃんも食べるでしょ」
「はい。喜んで」
エルダさんに乞われて食事中、ミィンナデ様はホーの家を出てからの事を話してくれた。
それはもちろん先日の話ではなく、何十年も前の昔話の方だ。
まあ、聞いた側と語る側ふたりにとっては、つい先日なのかもしれない。
だがミィンナデ様からは孫、妹、弟子の手前、恥ずかしがって話そうとしない。
もっぱらエルダさんが、
「これは私が聞いた話だけど、どうだったの?」
とグイグイ攻めて仕方なく話す。といった感じの流れだった。
ふたりの会話を要約すると……
100年しない位前にミィンナデ様に男がデキた。
お相手はニンゲン族の青年実業家。
ナンバ様、ドゲン様は大反対。
ミィン様は半ば強引に、家族を無視して嫁いでいったとの事。
ドゲン様は、家を出てすぐ許したらしい。
許すから顔を見せに時々帰って欲しいと。
ナンバ様は孫、ひ孫が出来て、やっと認めてくれたらしい。
認めてからホー国の手伝いも頼まれるようになったとの事。
「でも意外です。
ナンバ様でしたら、結婚にそこまで反対されない様な」
一通り話を聞いて、僕は素直な気持ちを口にした。
頭の柔らかい革新的なナンバ様が他種族を理由にして、頑なに結婚を拒絶するのだろうかと。
何か深い意味が、そこにはあるのではなかろうかと。
などと言いつつ、ほんとは全部知っているのだが。
知りつつ上手く誘導して、みんなに説明しようという腹だ。
栗原テルオは語り部である。
前章に名前が全く出なくとも、栗原テルオはナレーターなのだ。
『はいはい。
あんた前に私に言われた事、根に持ってんでしょ』
…………。
「まあねえ~、恋愛云々じゃないのよねえ」
やはり何かしらの理由があっての反対らしい。
まあ、僕には全て分かってますよ。本当は。
栗原テルオは語り部ですから。
ナレーションの特殊能力者、栗原テ……
『あーもう、ウッザイ!』




