6の9話
霊峰ヒコー山──
標高は1200メートルと、それほど高くはない。が、切り立つ崖と立ちくらみそうな魔力で、人間の世になる以前から修験者の山として知られていた。
修験者たちは「山伏」と呼ばれ、このヒコー山には3千もの人数が数百集落に細かく分かれ生活している。
そのヒコー山の山伏を束ねる者こそ、テング族の長「ブゼンボー」である。
テング族とはエルフやドワーフ同様、妖精のような、人間よりずっと原初に近い存在が進化した種族。
よって真なるテング族には寿命がほとんど無い。
しかし他種族との交配や交流で、人間に近づいているのもエルフ、ドワーフと同じ。
今現在、そこまでの長命は族長含めて数人。
霊峰に集まる修験者の種族は多様となり、特に人間族の入山が年を経る毎に増えて行く。
大昔のように山伏=テング族では完全になくなっているのだ。
ブゼンボーは山頂に立ち、朝日を前面に浴びる。
腕を広げ、掌を前に向けて、太陽と山からの力を存分に吸収する。
背の翼は使用せず、両足と錫杖をつきつき登り降り。
晴れた朝の日課である。
村の手前の滝に寄る。
多角形の頭巾、袈裟、篠懸を外し、錫杖とほら貝とともに岩の上へ置く。
夏だというのに滝から落ちる水は、まるで氷水を叩きつけてくる様だ。
「老いて益々盛ん、か。
流石は天狗豊前坊」
滝近くの岩に腰かけ、感心した風に呟く男。
130センチあるかどうかの身長だが、服の上からも岩石の様に引き締まった筋肉が伺える。
浅黒い肌に短く切り揃えた顎髭は、彼の精悍な顔つきを引き立てていた。
弟より絶対にカッコイイ、兄ドワーフのドワルドンである。
「いやいや、老齢期に入っておるだけよ。
かつての師の足下にも及ばぬ」
滝行を終えて、濡れた体のまま岩に腰かけ微笑む老天狗。
人間の60代半ば位に見えるが、優に1万才は超えている。
彼は真なるテング族に近いのだ。
この「テング族」は、日本人が想像する「天狗」と少し違う。
男は酔っ払いの赤ら顔に、高すぎる鷲鼻。といった感じ。
女性は鼻の高い人が、照れてほんのり頬を染めているのに似ている。
更に最近は血も薄まり、もう羽根の生えた者などほとんどいない。
「師匠……役小角……か。
確か御坊は初代の弟子だったな」
「ははは、やっとる事は今と同じだがの。
しかし、直接教えを賜った事は宝だの」
ドワルドンの口にした名の、その顔を思い出そうというように、老天狗は遠い目をして微笑み続ける。
「だが、もうすぐだ」
岩から腰を浮かしつつ、ドワルドンが語気を強める。
「もうすぐ、御坊もその域に辿り着く」
その言葉を受け、穏やかな老人の笑顔からも不敵な香りが漂った。
「いや、師を越える!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ねえ、ドワーフのイメージってさあ」
はい、ヒトゥリ様。
「ビア樽体型に髭モッサリでさ、色白のガサツなオッサンって感じじゃない?」
はあ、まあ、そうですよねえ。
「ドワルゴってさあ、期待通りにそうだよねえ」
まあそれは、そうですよねえ。
「ドワルゴとドワルドンって兄弟よねえ」
やっぱりそこですか……
因みにあのふたり、双子なんですよ。
「えええええーーっ!」
本人が言ってないから秘密ですよ。
「ねえ」
はい。
「絶対うちら、ハズレ引いてるわよね!」
……ヒトゥリさまも充分性格悪いと思いますよ。
陰陽道なんかで人気のある役小角と、今回名前が出たキャラは似て非なるものです。
まあ小説世界が舞台ですから、そんなキャラも出てきますよね。
読んでいただきまして、ありがとうございます。
次話もどうか、よろしくお願いいたします。




