6の5話
ドワーフおじさんドワルゴと、なんちゃってエンシェントドラゴンのエルダは夫婦だった!
この事実に、思春期真っ只中の探検隊一行は衝撃を受けた。
いや、衝撃的な妄想を一瞬だけ脳裏に浮かべた。ランコ以外。
何を浮かべたのか?
そりゃあもちろん、夜の夫婦生活の事だ!
体長10メートルにもなるかという奥様と……
身長1メートルちょっとの旦那様。
あんたらチョウチンアンコウか!
あ、いかん。
ドラゴンの腹にかじりつく、裸のドワルゴを想像してしまった。
『はあ? 何そのなんとかアンコウ。鍋?』
ムムッ、そうか。
この世界にはアンコウ鍋はあっても、チョウチンアンコウはいないのか。
いれば提灯がなくとも、ウィルオーウィスプアンコウ等に変換されて伝わっているはずだ。
え~っとですねえ、ヒトゥリ様。
チョウチンアンコウってのは、僕の世界にいる深海魚なんですよ。
アンコウ鍋にするアンコウより、もっと深いとこに生息してるんです。
『それが何で今出てくんの?』
その中に、オスがメスの10分の1サイズしかなくて、メスに噛みついて離れなくなる種族がいるんです。
『ええっ、DV夫種族? 嫌ねえ』
違いますよ。
広い深海で二度と離れないように、腹に一生噛みつき続けるのです。
『あれ? ちょっと素敵かも』
やがてオスは脳も心臓も失くなり、完全にメスの一部分となります。
『コワッ!』
まあ、メスのヒレみたくなるために、暗い深海をさまよい続けるんですからねえ。本望なんじゃないですか?
要は幸せのかたちは、夫婦によって様々って事です。
『そうね。ふたりの愛のかたちよね。
夫のサイズがどうのなんて……あっ!』
そうですよねえ、やっぱり考えますよねえ。
『違う違う、サイズってそんな……』
いえいえ、いいんですよう、みんな一緒なんですから。
ほら見て下さい。
特にあのダイヤ先輩の下卑たニヤケ顔。
『あ、あんな顔、私、してないでしょ?』
大丈夫です。あんな顔あの人だけです。
ほら、あれくらいですよ。
ナツキの奴がカマトトぶって、頬を赤らめてやがる。チッ。
『またそうやって……
ま、あんな風に見えてんならいいか』
ワン太はどうでしょう。
あ、すっごい嫌そうな顔してますね。
たぶん僕と似た様な想像してるんでしょう。
『なんで?
種族を越えた愛、素敵じゃない。
てか、こんな会話、高速思考でやる?』
そうですね。
能力使ってやる内容ではないですね。
そろそろ戻しましょうね。
「本当だぞ、うぬら。
珍しく時間を操る能力に会ったというに。
そんなに我の秘め事が気になるかの?」
『!!』
うわ、ビックリした!
ああ、エルダさんですか。
そうですね、エンシェントドラゴンともなればこの程度。
思念伝達も完璧だし。
これが静止世界になったとしても入れますよね。
「うむ、造作ないのであーる!」
むう……
さすがは、神に最も近き存在……
「フハハハハハハッ!
見所のある少年よ」
ありがたき幸せ。
「うむうむ。
我は気分が良いので、イイモノを見せてやろう。
さっさと時間を戻すがいい」
あ、はい。
ヒトゥリ様、戻しますよ。
『え、あ、う、うん』
そして時は正常に動き出す……
「フハハハハハハッ!
皆の者、それほど我と我の伴侶が伽、気になるか」
そしてエルダは直球で切り出す……
「それはそうだろう、気になる!」
そして先輩は品なく返答する……
「そんな体格差!
まるでチョウチンアンコウではないか!」
居るじゃんチョウチンアンコウ!
ダイヤ先輩のお陰で、勘違いしなくて済みましたよ。
ただ単にヒトゥリデが、物を知らないだけでした。
『…………』
「フハハハハハハッ!
よーしよし、我は今、非常に気分が良い。
せっかくなので見せてやろう」
そう言うとエルダは上体を伸ばし、バンザイした形をとった。
するとエンシェントドラゴンの巨体が、淡い魔法の光を発してその全身を包み込む。
次第に竜の体自体が朧になり、光とともに縮小して……
身長170センチ程のヒト型になると、徐々に光も収まっていった。
「普段はこの姿で生活しておるのだ」
皆の前に現れたのは、黒皮のカクテルドレスを身に纏った美女。
見た目年齢は20代後半くらい。優しく大きな瞳で、頭に2本の角がある。
背が高くグラマラスだが、どこかに気品を感じるのは流石だ。
黒皮に見えるドレスは、どうも竜鱗の様である。
「「「おおおおおおーーっ!」」」
ナツキ、ランコ、そしてヒトゥリデは、素敵なお姉さまの出現を素直に歓迎した。
ダイヤ先輩、ワンタロウ、そして僕は、歓迎した直後にやたらとムカッ腹が立ってしまった。ドワルゴに!
羨まし過ぎるだろう!
ドワルゴのクセに!
「フハハハハハハッ!
我の美しさにひれ伏すがいいわ」
うーん。
羨ましいけど、奥さんとして毎日接するのは疲れるかな。
そうか、奥さん放ぽってケーキだのアイスだの売ってるのって、堪えきれず逃げ出した?
数十年だったら、ふたりの感覚では数日レベルなのかも。
「おい、エルダ、もういいって。
それよりだ……」
ドワルゴがもう勘弁って感じで妻を制す。
「ここに兄貴は来なかったか?」
「「「あっ!」」」
そうでした。
すっかり失念しておりました。
我々探検隊は、いったい何をしにこの秘境「ヤバケイ」までやって来たのか。
ドワルゴの兄、チョコレートの天才ケーキ職人ドワルドンの捜索ではないか!
仲間も思い出したらしく、瞬間ハッ! って顔になる。
まあ、ちゃんと軌道修正出来ればいいのです。
それにエルダさんに聞けば、この地の事はわかるだろう。
無駄に探し回らなくて済むかもしれない。
「ああっ! そうだった!」
何故かエルダさんの方も、何かを思い出した表情をする。
そして僕らに頭をペコリと下げ、ドワルゴに手を合わせてゴメンのポーズ。
このタイミングでその行動。
悪い展開しか起きない予感。
「もうひとりの夫、ドワルドンを助けてちょうだい」
「「「えええええーーっ!」」」
ドワーフ兄弟は、2人して嫁いでいたのだった。




