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5話

 

 この世界は物語である。


 おそらくは小説、しかもウェブ小説だと思われる。

 つまりは何処の馬の骨とも分からない人間が書いている作品だという事。

 だから誤字や脱字があったり、表現や語彙ごい力が乏しくても、そういう所は全て作者のせいなのであって僕には関係ない話。

 ……なハズだ。


 自世界の病弱な僕は、たしかに小説漬けだった。

 もちろん、マンガやアニメも大好きだ。が……

 如何せん、長い入院生活には間が持たなすぎる。

 必然、長い時間楽しめる小説にどっぷりって事になる。


 最初は映画やアニメの原作文庫本を。

 RPGブームからは海外ファンタジーから日本の某有名ファンタジーも。

 そうこうしてたらラノベってジャンル、そしてウェブ小説と現れた。


 玉石混淆(こんこう)なれど自由な発想。膨大な創作の波。

 僕の退屈を凌いでくれる素晴らしい時代がやって来た!

 ちょっとした幸福感を味わっていた、まさにそんな時……


 僕は異世界──物語の世界に転移した。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「えっ!? えーーっ!」


 赤い髪の美少女セシリーは驚愕に声を発した。

 目の前で平然と歩いている少年を見詰めながら。

 まあ、無理もない。 

 豪快に車へ体当たりしてブッ飛び、きり揉みから土手を転げての川ダイブである。


 主な感情が超ビックリ! 

 で、テル坊君良かった! 

 とか、テル坊君大好き!

 とかいう感情がそこには有ったり無かったり、なんて思ったりしちゃったり。


 チッとまた舌打ちをひとつヒトゥリ様。

 続けてセシリーに顔を向けた。


「テルオには私が咄嗟に精霊魔法の結界を施したのよ。

 え~っと、ウィルス・0・ウィップスだったかな」


 ヒトゥリ様がフォローのつもりで適当な知識を披露する。

 彼女は魔法については努力家だ。

 努力はするが残念な事に、センスも知力も皆無なのだ。

 ウィルオー・ウィスプだっつーの。

 何そのウイルス対策用ムチみたいな奴。


「すごい! ヒトゥリちゃん、すごーーい!」


 セシリーは納得出来た様で、尊敬まで含めた笑顔でヒトゥリデの両手を握って跳び跳ねる。


 あ、コイツも残念系か……

 いやいや、今世代の子供達が持っている魔法に対する知識はこの程度だという事だ。

 まあ、お陰で上手くごまかせた。

 ので、ヨシッ! としましょう。



 さてこの物語世界は、主人公視点の一人称で語られている訳ではない。


 僕がついラフな口調になったり、変に思考を覗いたヒトゥリデがアホな事言って……

 また睨んできた。

 と、そんな風なので誤解させるが、僕は断じて主人公ではない。

 あくまで主人公はヒトゥリデ・ショルトカ。


 実際この世界は三人称神視点で語られる。

 登場人物全ての感情も、行動も、それによる結果も知っている存在……

 途中退場が出来ない為、何があっても死ぬ事はない(痛いけど)という存在……

 それがこの世界の語り部、栗原テルオ。僕の能力であり存在理由、ナレーションだ。

 


 セシリーは喜びそして安堵した。

 危うく自らが原因でかけがえのない友人を失ってしまう、そんな光景を目の当たりにする所であった。

 彼女はそれを十分に理解していた。

 だから不可解な事が多々あったとしても、この現状に満足している。他は些末なもの。


「さあ、ヒトゥリちゃん、行きましょう!」


 セシリーは喜びの感情を全面に押し出し、友人であり恩人となったエルフの王女に右手を向けた。

 ヒトゥリデも苦笑なのか、ぎこちなく笑顔を浮かべつつその手をとる。

 テルオもそんなふたりを見やり破顔する。

 そして3人は土手道を、脱兎のごとく駆け出した。


 やがて中学校のグラウンドに続く階段を下り、その先に見える校舎へと急ぐ。

 最早一刻の猶予も待たない。

 何時チャイムが鳴ってもおかしくない時間なのだ。

 気が付くと駆けている人数も増えて来ている。

 すでに全員全力疾走。


 自然に笑顔は必死の形相へと変わっていくヒトゥリデ一行なのであった。

 

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