6の2話
この世界は僕の世界とよく似ている。
僕のまわりで言えば、けも耳、エルフ耳がいる位で、目に入る景色はそう変わらない。
異世界ファンタジーも4千年経てば、結局は同じ様な環境に辿り着くのかもしれない。
あ、化石燃料を多用してないせいか、空気はうまい気がする。
もちろん、それ以外にも違う点は多々ある。
似てはいても、ファンタジー世界の延長線上の世界。
今回の舞台となる「秘境」といったエリアは、僕の世界に無いもののひとつだ。
いや、これも何だかんだで似た場所はあるのか。
こちらの世界で文化的に暮らしていける者は、僕の世界と大差ない環境だ。
だが知的レベルが獣並や、それよりちょっと上くらいだと共棲出来ない。
自然とそれらは追いやられ、隔離される事になる。
それがオーク、コボルトそしてゴブリンといった種族の生き物たちだ。
僕の世界で秘境、ジャングルといわれる場所には危険な野生動物が多数いた。
それに似た地に封じ込められ、そんな生物を狩って反人間種族は棲息している。
しかし、こちらの世界での秘境は、僕の世界で山岳地域くらいな身近さで存在する。
熊や山犬感覚で、オーガやコボルトの群れを見ている感じだ。
やはりこの2つの世界、根本的な危険度が全く違うのである。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ヒトゥリデ様と探検隊」一行は秘境手前の村、クワルノにて軽く装備を整えた。
前述したように、この世界には秘境という地が多数点在している。
僕の世界の、ハイキング出来る山岳地域ほど多くはないにしろ、それなりの数はあるようだ。
今回向かう秘境の名はヤバケイ。
実にヤバ系な香りの名前である。
クワルノは秘境産食材がギリ収穫出来る農産地であると伴に、秘境「ヤバケイ」に一番近い村としてハンター組合の支部が置かれている地でもある。
ハンター組合とは元冒険者ギルドで、秘境に魔物を封じ込める役割を担っている。
ここでいう魔物とは、人間と共棲できない生き物の事だ。
この「ハンター組合」に登録しないと秘境には原則立入禁止なのである。
という事で、我々探検隊はチャチャッと登録を済ませた後、最低限の防具も速やかに買い揃えた。
本当はダイヤ先輩のフィジカル能力に測定器が壊れたり……
僕の測定に機械が反応しなくて壊れたのかと騒いだり……
めんどくさいので登録イベントは省略する。
「さあ、こっから先がヤバケイだ。
一歩先にも危険がある!
てな具合に気ぃつけてくれ」
我々探検隊一行は、延々と続く鉄条網にポッカリ開いた口の様な門……「ヤバケイ第一ゲート」をくぐった。
この見えなくなるまで続く鉄条網の内側には、2、300メートル程の草もない地面を挟んで密林、その奥に高くそびえる山々。
その山脈の更なる奥に見える一番高い山、たぶんあれが修験山「ヒコー山」だ。
この秘境「ヤバケイ」の中にあるヒコー山は修験者「山伏」の修行の地として有名である。
秘境にハンター以外原則立入禁止の原則の部分は、この修験者がいるせいもあるのだ。
我々は慎重に荒地を進み、森へと近づく。
この荒れた、いや、荒らした地面はこれ以上の森の拡大を防ぎ、魔獣の脱出を防ぐ。
森から出て鉄条網に近づく魔獣は、問答無用に駆除対象となる。
うっかりハンター組合の認識票を外して近寄れば黒コゲだ。
もう森は目の前。
巨大な木々の塊に一ヶ所だけ、これまたポッカリ穴が空いている。
ゲートから真っ直ぐ歩いたこの場所は、皆が入るからだろう、自然と植物の幅が広がって入口みたいになっていた。
「なんだか妾の村に似てるのじゃ」
「あ、ほんとね」
「俺達の村も秘境みたいなもんですかね」
「おっ、じゃあ楽勝ではないか」
「もう、師匠、死にかけてたでしょ!」
「「「あはははははは」」」
なんともお気楽な探検隊一行。
大丈夫か?
まあ、大丈夫な気はするけど。
「お前たちっ!」
先頭を歩いていたドワルゴが、森の一歩手前で立ち止まり振り返った。
「大切な事はもう一度言うぞ!」
あ、ドワルゴおじさん怒ってる。
秘境経験者の前で、緊張感無さ過ぎだ。
道案内のおじさんからすれば、お前ら、秘境ナメんな! って気持ちなのだろう。
「いいか、ちゃんと聞けよ。
一歩先にも危険があ……」
そこまで言った瞬間。
森から伸びた灰色の首が、ドワルゴを一瞬で連れ去った。
いや、凶悪な牙の並んだ巨大な口に「捕食」された。
「ぎゃあああああああっっ!」
咥えられたドワルゴは5メートル程の高さまで持ち上げられている。
まだ飲み込まれてはいなかった。
遅れて両脇から伸ばされる大きな漆黒の翼。
バサッ! バサッ! バサッ!
凄まじい強風とともに巨体が空に浮き上がる。
僕らを風で押さえつけ、森の上へとその全貌を現す。
全長10メートルはありそうな、黒い小山の様な巨躯がゆっくり、ゆっくりと上昇を続ける。
「ドワルゴさーん!」
ナツキが大声を上げるだけで、僕らには他に為す術もない。
「エルダー、ドラゴンだと……」
ダイヤ先輩は歯噛みしながら呟いた。
そう。
今ドワルゴを咥え遠ざかっているのはドラゴン。
古龍……エルダードラゴンだ。
秘境へ踏み込む直前に、いきなり道案内を失う探検隊であった。




