5の9話
「あの店の方でしたか!」
ドワーフおじさんが口にした店舗名を聞いて、意外にも師匠ダイヤ先輩が驚いた。
おじさんのお店は「ドワーフの洞穴」って名前だったらしい。
僕は全く知らないが、師匠は単に知ってるという感じじゃない。
「師匠、知ってます?」
「知ってるもなにも!
私の一番好きだったケーキ屋だぞ、ナツキ!」
鼻息荒く教えてくれるが……
好きだった?
って事は、先輩も店が今はもう無いってのは知ってるんだ。
「おいおい社長、店閉めたのは十年以上前ですぜぃ。
覚えてんですかい?」
あわわ、年齢の話はタブーですっ。
師匠はエルフの血を引くので、本当は70才以上あるとか無いとか。
まあ、僕も最近知って、気を遣っているんですが。
「ああ、私が幼稚園児だった頃の話だよ」
そ、そうですね。
間違ってはいませんね。
師匠は幼稚園児を50年は続けてたんでしょうけど。
「ここのガトーショコラの誘惑ってケーキが一番人気でな。
毎日、店前に行列が出来るのは当たり前だったのだ」
師匠は僕に向き直って、当時の繁盛ぶりを教えてくれた。
目が輝いて、同人誌の事を話している時に似ている。
本当に好きだったんだなあ。
「…………」
自分の店を良く言われてどんな顔してるかな?
なんてドワーフおじさんを見てみると、あまりいい顔じゃない。
ムッとした、不貞腐れた様な顔。
「だがな……」
師匠はそんなおじさんに気付かず続ける。
「私は一番人気のガトーショコラよりも、ショートケーキが大好きだったのだ!」
「なにっ!」
「あの生クリームの美味さったら無かったぞナツキ!
濃厚かつ繊細、芳醇、それでいてイチゴに合わせた甘さ!
食べた後の鼻息まで旨い!」
言いながら興奮する師匠。
言ってる事はよく解んないけど、とにかく美味しかったんですね。
なんか、おじさんが反応してたけど。
「うおおおおおおっ! 分かってんじゃねえかあ!」
うわあ!
びっくりした。
急にドワーフおじさんがカウンターから出て来て、師匠の両手を握りしめシェイクする。
「あのクリームはなあ、秘境ぎりぎり、高原クワルノの牛乳でよ。
それを泡立てんのも技術があんだよ。
糖もそこいらのじゃあ駄目だ、角が立つんでい」
おじさんの話によると──
どうやらチョコレートはおじさんのお兄さんが。生クリームはおじさんの担当だった様だ。
ガトーショコラ目的の行列に感謝はしていたが、本音はやはり悔しかったのだろう。
それでも、お目当て以外の一品にはショートケーキは外せない。
ついででショートケーキを買った次からの来店には、ふたつのケーキ目当てに行列する事にはなるみたいだけれど。
「それがなあ、採れなくなっちまったんだよ」
今まで楽しそうに話していたおじさんが、急にそう寂しく言った。
アイスクリームを売りながら、しばらく昔話を続けていたのだが。
やはり長く話すとそこに行き着く事になるのだろう。
このあとの話は店を閉めた原因になると思う。
「秘境の牛乳かな?」
師匠が先を促すような質問をする。
「まあ、クワルノも減ったが、そっちじゃねえんだ」
「「そっち?」」
「ああ、一番はカカオだ。
魅惑のカカオってのが採れなくなっちまった」
「「魅惑のカカオ!」」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「たぶんこの辺りなんだけど……」
俺とランコはもう1時間近く、この近辺をうろうろしている。
ゴンタの言っていた「ドワーフの洞穴」って店が、ちっとも見当たらないのだ。
この場所も何回通ったんだか。
「謀りおったかゴンタ!
許せんのじゃっ!」
これで何度目になるか、ランコちゃんのこの台詞。
まあまあ、奴もそんな命を捨てる様な事しないよ、と執り成すのも何度目か。
だがもう、彼女の限界も近そうだ。
「あらあら、あなた達、何処かお探し?」
品の良いおばあちゃんが声を掛けてくれた。
ほうきを片手にって事は、目の前にある呉服屋の人だな。
何度も前を通ってるから、心配してくれたんだろう。
「はい。ドワーフの洞穴っていうお店で……」
「ケーキがすごく美味しいのじゃ……です」
地獄に仏で飛び付いた。
「あらあらあらあら。
懐かしいわねえ」
懐かしい?
それって……
「随分前にやめちゃったお店よねえ」
「「えええええーっ!」」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
さてさてヒトゥリ様。
これは、計らずも同じ店舗に辿り着きましたが。
如何せん潰れていたんじゃ無駄ですね。
どうします?
「行きましょう」
おっ、ヤル気出しましたね。
めずらしく。
「フン!
もう、美味しい店探しなんて必要ないわよ。
私達が探すべきモノは、美味しい逸品。でしょ」
はい!
みんなで「魅惑のカカオ」とやらをゲットして、「ガトーショコラの誘惑」を食べてみましょう!
「それとショートケーキもね」
ついでに、ですか?
「ウフフフ、あんたホントに性格悪いわね」




