5の8話
思わぬ所で讃岐うどんを食べる羽目になった僕ら師弟。
まあ、美味しかったのではあるのだけれど。
それでちょっと腹ごなしにと、大通りから一旦離れて大堀公園に向かう事となった。
繁華街からちょっとだけ外れた場所にある大きな公園。
公園のまわりを川の様なお堀が、ぐるり囲んでいる。
たぶんそれが名前の由来なんだと思う。
昔はこの場所にコウカ城っていうお城があったんだとか。
コウカの街は極東連合の中でも有数な大都市だ。
それが一歩離れただけで、こんな森の様な公園がある。
僕はそんな、自然と発展が混在しているこの街が好きだ。
「おっ、見てみろ、ナツキ」
師匠は進行方向にある半分屋台の様な、でも真新しい店舗を指差す。
どうやら最近出来たお店だろう、初めて見る。
噴水広場といった場所の隅に建っていて、辺りにたくさんベンチがあるからか親子連れも多い。
いや、ベンチなんかじゃない。
この店のせいだ。
親子だけでなく、この広場にいるほとんどの者が、手にソフトクリームを持っている。
「ドワーフのアイス屋さん?
聞かない名だが、結構な人気だな」
アイス屋さんって看板なのに、売ってるのはソフトクリームって。
しかもドワーフにアイスのイメージ皆無なんだけど。
でもドワーフってだけで、すごく美味しそうな気がして不思議。
「ねえ、師匠~ぅ」
「ああ、食べてみるか」
「やったあ!」
なんだか、おねだりしちゃったみたいで申し訳ないけれど。
とは言え、一応スイーツではありますし。
美味しければ候補に挙げてもいい訳で。
「おじさん、ひとつ下さーい」
お店に入るなり注文する。
本当に屋台の様な雰囲気で、扉のない入り口から1メートル位でおじさんのいるカウンター。
右側に小さなテーブルが2つだけ置いてあるが使われていない。
かなり狭いので、外のベンチで食べた方が快適だろう。
冷房効いてないし。
「おう、らっしゃい! ありがとうね」
カウンターの向こうに立つのは確かにドワーフのおじさん。
手際よくコーンにクリームを回し乗せていく。
店内にはメニューも食品サンプルもないので、ソフトクリーム以外は扱ってないのだろう。
「へい、お待ちぃ!」
渡されたソフトクリームは高さが10センチ以上あって、手に持つとズシッとくる。
見るからにみっちりとしてキメ細かく濃厚間違いなし。
「おおっ、半分ずつでいいと思ったが、私もひとつ頂こうか」
「へい、ありがとうね!
アイスクリーム、もういっちょう!」
ププッ、アイスクリームなんだ。
あまりに美味しそうなので、師匠は1個ずつ食べるつもりだ。
結構ボリュームあるけど、大丈夫かなあ。
僕としては、一緒に食べる方が嬉しいんですけど。
「おい、オヤジ!
私はアイスなど頼んでおらんぞ!」
あ、師匠が変なとこに食いついた。
あーあ、これは面倒くさいぞ。
この人意固地なとこあるから。
「すいやせん、生憎うちの商品はアイスクリーム一つっきりなもんで」
「いやいや、これはソフトクリームではないか!
わざわざ曲解する言い方をするんじゃない!」
師匠は僕の手にある物を指差し声を荒らげる。
「なんと言われようと、うちにはアイスクリーム一品だけでい!」
あ、この人も頑固だ。
イメージ通りにドワーフは頑固者なんだ。
めんどくさい。超どうでもいい事にめんどくさい。
「ええい、この分からず屋め!
ソフトクリームはソフトクリームだろうが!」
「お前さんも分かんねえ客だな、オイ!
俺っちの店にゃあ、ソフトなんて柔なモン置いてねえんだ、べらぼうめい!」
ダメだ。
これじゃあ引っ込みつかないよ。
こんな調子でどちらも折れる訳ないも……ん?
「ああああああっ!」
「どうした? ナツキ」
「僕のクリームがあっ!」
只今夏真っ盛り。ソフトクリームは溶けない訳がなく。
もはやアイスでもソフトでも、ましてやクリームでもなくなった液体が、ボタボタベタベタと僕の手を汚していく。
もおおおおおおうっ!
「ふたりとも!
食べ物に罪は無いでしょ!」
「「はい。すみません」」
溶けたのは師匠が、
「ナツキ、そのクリームは私が責任持って食べよう」
と食べてくれた。
僕の分はドワーフおじさんが、
「悪かったなお嬢ちゃん。
もちろんこのクリームはサービスだよ」
と作り直してくれた。
うーん、おじさん勘違いしてるけど……
とにかく、ふたりとも妥協してくれたみたい。
まあ、取り敢えず仲直りしてくれて良かった。
では改めて。
あーん。
「はわわわわわ~っ、おいしいいっ!」
おじさんが拘るのも分かる。
よく練り固めてあるのか、柔らかくない。
品のいいミルクの薫りをぎゅううっと凝縮しているみたい。
「これは! たしかにレベルが違う」
「フフン。
まあ、初めて食べたモンはみんな同じ顔をするな」
これは冗談抜きに、僕の候補にしたい一品だ。
興味を持った師匠は、ドワーフおじさんにあれこれ話を聞いた。
ここはヒトゥリデちゃんの企画でなく、組合の調査の顔で。である。
これはこれで間違いじゃない。
「すまねえな、俺ぁソフトって響きが嫌いなんでな」
「いや、私の方も言い過ぎた。
確かにあれをソフトなんて呼ぶのは失礼な話だ」
「おおっ、さすがはアケミ社長。
分かってんじゃねえか」
「「わはははははは」」
この店は期間限定で、夏の間だけ出店しているとの事。
元は兄弟で洋菓子店をやっていたらしいのだが、お兄さんがヤル気を無くして店を閉めてしまったらしい。
アイス菓子の得意なおじさんは、夏だけでも稼いで再起の足しにしようとしているんだとか。
「おじさん、そのお店は何て名前なんですか?」
僕は気になって聞いてみた。
僕でも知っているお店かなあ、なんて。
「ああ、ドワーフの洞穴って店だよ」
「ドワーフの洞穴っ!」
やっぱり僕の知らないお店だなって思ったら……
意外にも、師匠が驚きの声を上げた。




