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5の6話

 俺やランコちゃん、獣人タイプの()は皆が皆、獣化できるって訳じゃない。

 というより、ほとんどの者が出来ない。

 うちらの村は特殊なのだから仕方ないのだ。


 大昔、獣人族、なんて言っていた時代は普通の能力だったらしい。

 今では外見以外、かつての人間族との間に差はない。

 それだけ2つの種族で交配が進んだって事だ。


 因みに、人間って言わないのはエルフ族やドワーフ族くらい。

 いやいやそれももう、そうでもないんじゃないのかな。

 それこそこのコウカには、ドワーフのパテシェが結構いる位なのだから。



「コロス……

 テメ……ゼッタイコロス……」


 いかん!

 現実逃避してしまったのか、どうでもいい事を考えているうちに、ランコちゃんがさっきよりもオレンジ色になっている。


 俺らは一般人に獣化を見せぬよう、幼い頃から厳しく教えられて来た。

 今のランコちゃんは、溢れる殺意と染み付いた理性とがせめぎ合っているのだろう。

 こうなったら俺が……


 俺は、やれやれといった雰囲気をあからさまに出しているチャラッパー店員に向かって一歩を踏み出す。

 少し抵抗はあるがやむを得ない。

 俺がこいつをぶん殴って、ランコちゃんの怒りのガス抜きをしよう。


 ジリッ……


 俺が利き脚に体重を乗せた時だった。


 バキーッ!


 店内に打撃音を響かせて、急にチャラッパー店員が横方向へ吹き飛んだ。

 顔は正面に向けたまま、まるで反復横跳びの最中に足を滑らせた様な消え方だった。ので、本人も何が起こったか分かんないんじゃなかろうか。


「ワンタロウさん! さーせん!」


 犯人は店長だった。

 店長は何故か、部下であるチャラッパーを殴り倒し、更に奴の頭を地面にプレスしつつ自らも土下座した。


 ムムム、俺の名前を知っててその態度……

 これは、やはり、先日なりたてホヤホヤの、黒歴史絡みの人物なのではなかろうか。

 できれば思い出したくないんだけど。


 こっぴどい失恋にヤサグレた俺は、辺りの暴走族やら不良グループだかを、ことごとくシメていった。

 本当にみっともない。本当に俺らしからぬ行動。

 穴があったら入って埋めたい。


 おそらく、その時配下にした連中の一人だとは思うんだけど。

 あー、2メートル超える身長の奴いたなあ。

 族の幹部にグラサンとモヒカンが印象的なデカイ奴。


 俺がちらと店長の頭部へと視線を移したのが、丁度顔を上げた当人にも伝わった様だ。

 店長はパンケーキ屋なのに、フランス料理店のシェフがかぶる様な白く背高いコック帽。

 これって、やっぱり……


 店長はバツが悪そうに、

「アハハ、これですよね」

 と言いながらシェフ帽を少し持ち上げて中身を見せた。

 モヒカンが帽子を突き刺していた。

 どうりで土下座しても帽子が落ちない訳だ。


「ああ、すまない、全然気付かなかった。……YO」


「恥ずかしながら、普段はここの店長やってます。

 ワンタロウさんも堅気カタギになったんですから無理に変な喋り方はいいですよ」


「あはは、そうだな、そうする」


「それより、そちらは彼女さんですか?」


 という店長……たしかゴンタ君だったか、の言葉に慌ててランコちゃんを見る。

 さっきまで獣化中のランコちゃんは土下座効果か、どうにか落ち着きを取り戻した様だ。

 ゆっくりと頬に生えていた黄金色のうぶ毛は消えていった。

 俺は心底ホッとした。


「あ、ああ。許嫁だ」


「そ、それは失礼いたしました!

 ゴラッ! テメエも!」


「サ、サーセンッシターッ!」


 チャラッパーも自分で地に額をつけながら謝罪した。

 俺は恐る恐るランコちゃんに顔を戻す。


「いいのじゃ。反省した者は赦すのじゃ」


 ランコちゃんは2人に笑顔を向けて、俺には横目でニタッと微笑む。

 はい。ありがとうございます。

 分かっております。

 ちゃんと反省しておりますよ。


 僕は一生彼女に頭が上がらないだろう。

 でもそういう人生は悪くない。

 そう思う。

 ……事にしよう。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「腕によりをかけて用意します!」


 とゴンタ君が張り切って言うので、仕方なく焼き直してもらった。

 出てきたスペシャルパンケーキはふわっふわで、さっきのとはもう別の作品。

 今度はランコも大喜びで、ウマイのじゃ、絶品なのじゃと叫んでいた。


 あまりにも可愛い反応だったが、うるさいかなと思いチラと周りを窺う。

 先程は店内のお客さん全員に迷惑をかけてしまったのだ。

 だが見ると、どの顔も小動物を愛でる表情だった。

 俺は心底ホッとした。




「そう言えば、ダイヤ先輩がどうのと仰有おっしゃってましたが。

 それはアケミ・ダイヤモンドさんの事ですか?」


 会計の時にゴンタが出て来て挨拶する。

 その際、意外にもこの男の口から先輩の名が出て驚いた。

 ダイヤ先輩はコウカの飲食店ではちょっとした顔らしい。

 俺が同じ高校なのを思い出して気になったみたいだ。


 俺は軽く今回のイベントを話してやった。

 一瞬ゴンタの表情が凍りついた後、また「先程は失礼しました」と謝り出した。

「大丈夫、ちゃんと後の品で提出するから」と約束してあげた。


 その代わりと言っては何だが。

 コウカで一番のスイーツ店を、スイーツ店店長にオススメしてもらった。

 うちです! とボケるかと思ったら真面目に答えてくれた。


「ドワーフの洞穴」って店の「ガトーショコラの誘惑」です──


 その言葉を聞いて、俺とランコの耳がピンと立ち上がった。

 これだ。

 次のターゲットは決まった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 こちらは「クイル・フェボン」の喫茶スペース。

 ふた口しか手をつけないヒトゥリデのせいで、まだタルトは半分以上残っている。

 ゆっくり僕はそれらを処分しながら、ランコちゃんの様子をナレーションしていたのだ。


 ヒトゥリ様、ドワーフですってよ。

 エルフとドワーフは犬猿の仲っていいません?


「あんたいつの時代の話してんの?

 そんなん、おじいちゃんの頃じゃない」


 じゃあ5千年以上前?


「そうなるわね。

 お父さんの時代に仲良くしようとしたの」


 おお、さすがは賢王ナンバ様。


「それをあの短足モグラども!

 影で文句ばっかり言ってやがんのよ!」


 嫌いなんじゃん。

作中にフランス料理と出てきますが、この世界にフランスって国はありません。

似た世界なので、この世界にも同様の言葉がありますが変換されてます。

魔法の名前に英語等がふってあるのも同じです。

魔法の言葉の理解力が、日本人の英語と同じくらいだからです。

このあたりは機会があれば、テルオがナレーションすると思います。


読んでいただきまして、ありがとうございます。

次話もどうか、よろしくお願いいたします。

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