5の5話
「ふわふわ絶品パンケーキとイチゴのパンケーキなのじ……です」
チャラッパー店員に窓際の席へと案内された。
席に着くなり、待ちきれないといった勢いで注文するランコちゃん。
「スペサルパンケーキとぅイチギョパンケーキっすねぇ。
スペサル、焼きゃぁがりに20分ほどかかぁーりゃすが、いーぇすかあ?」
どうやらふわふわの方は、焼き上がるのに20分位かかるらしい。
イチゴが先に来てしまうって事か。
まあ、どうせどちらもランコちゃんがほとんど食べるのだろう。
却って時間差で、出来立てが食べられるのかもしれない。
「はい、いいですよ。お願いします」
「かーしこまりぃーぁしたー」
口先だけの応対をして、チャラ男君は踵を返した。
「すっごい楽しみなのじゃ」
「スペシャルだもんね」
ランコちゃんは目を輝かせて、周りの客が食べている品をチェックする。
アレっぽいのじゃ、と小さく指差す方を見れば、確かにふわふわふんわりしたパンケーキだ。
なるほど、母上の焼くホットケーキとは別物の、空気でふっくら膨らんだ感じ。
なんだっけ……スフレってやつだったか。
「あれってスフレパンケーキってやつじゃない?」
「ふわわわわ~。
スフレパンケーキかぁ、楽しみなのじゃぁ」
ははは、ヒトゥリデ様よりもランコちゃんの方が満喫してないか?
斯く言う僕も、そんな君の笑顔に癒され満足です。
おっと、また僕とか言ってしまった。イカンイカン。
「お待とぅせしゃあすぃたー。スペェサルでぇッス」
「「えっ!」」
まだ5分と経ってないぞ。
いやいやいやいや、速すぎるだろう。
いやいや、これはダメなやつだろう。
「なんじゃ、早いのう。別の客と間違えたかの?」
あ、そうか、そういうパターンもあり得るか。
「じゃが、間違える方が悪いのじゃ~」
「ちょ、ちょっとランコちゃん!」
僕が止めようとするより早く、ランコのナイフとフォークは獲物を的確にカットした。
彼女の瞳は爛々と、雀を狙って尻をフリフリッとしている時の猫のに似ていた。
まあ、悪いのはあの店員だもんな。
「いただきま~す。なのじゃ」
パクッと頬張った瞬間、ランコは目を見開いた。
あまりの美味さからか? いや違う。
口にした一拍の後、その瞳から生気が失われ、立ってた耳がペタンと萎えた。
「ううう……ガッカリなのじゃ……」
ナイフとフォークを握りしめたまま、両手をテーブルに置き落胆の表情で俯いた。
「ちょっとごめん」
僕は皿を引き寄せ一口食べた。
柔らかめではあるが、ふわふわには程遠い。
第一、冷めて固くなりかけている。
僕は念のため、パンケーキの回りに配置したフルーツもひとつ食べてみた。
やはり常温に近い。
これらのフルーツが熱を奪ったと言い訳するかもしれない。
でもそれだとこのフルーツが温かくなっているはずだ。
「おい! 店員!」
頭に来た俺は、厨房の奥まで届く様にチャラッパーを呼んだ。
他の客の視線が一斉に俺へと集まる。
「ふわぁーい、なんスかー」
静寂に包まれた店内に、間の抜けた返事が響く。
こっちはかなり声を荒らげたのだが、こいつはどこ吹く風らしい。
なんすかじゃないだろ。
「おい! お前はさっき焼き上がりに20分かかると言ったよな」
「はぁ」
「俺はそれでいいと言ったよな」
「はぁ」
「じゃあこれは焼き立てか?」
「ちゃぃまスよー」
「はあ?」
違いますよだと?
「早いほぅがいいっしょー、サービスっスよー」
「ふざけんな!」
何がサービスだ!
もう我慢の限界だ。
おおかた受注ミスして余ってた皿を捨てずに置いていたんだろ。そこらのテーブルみたく。
「ワン太、もうよい。もう出るのじゃ」
ランコは周りに気を遣って、気落ちしたまま俺を宥める。
さっきはあんなに喜んでいたのに。
あんなに楽しみにしてたのに。
「俺のランコはなあ、ふわふわ絶品パンケーキを注文したろうが!
なに勝手な事してやがんだ!」
「俺のっ!!」
「俺の彼女はここのパンケーキを!
ふわふわで絶品なのを楽しみにしてたんだぞ!」
「ワン太……」
「あー、じゃ、焼き直しゃすねー」
この男……
「HEY! まずはテメエ謝れYO!」
き、斬り殺したいいいっ!
思わずバカやった頃の口調で怒鳴ってしまった。
だが、おかげでわずかに落ち着けた。
「ちょっとお客さん、困りますねえ。
大声は、他のお客様に迷惑でしょうが」
今度は厨房から2メートルを越す大男が、地面を揺らす様な雰囲気で現れた。
「あ、店長、クレーマーっス」
「あんだと、ケチ付けんのかてめえ」
ふたりでこちらを睨んで来る。
この店員に、この店長ありって事か。
ここは一戦やむ無しか。
「ワン太! もういいのじゃ!」
ランコが俺の腕にしがみつく。
「でも……」
「妾のために怒ってくれて嬉しいのじゃ。
だからもう心が満腹満足じゃ」
「ランコちゃん……」
「ありがとう、ワン太。ううん、椀太郎」
ああっ、ランコちゃん!
あああ、ランコちゃん!
もう、もう、こんな店、どうだっていいや!
「そうだね、時間が勿体無いね。
ダイヤ先輩には最低評価を提出しよう」
「そうなのじゃ。次はきっと美味しいのじゃ」
こんな下らない事に僕達の時間を浪費したくない。
さっさと次のお店でこの流れのまま、ふたりでイチャラブしたいっ。
「出るのはぁー、構ぁーないスけどぅー、金払ってくどぁさぃ」
はああ?
こんのチャラッパラッパーああっ。
せっかく回復した気持ちが一気に悪化する。
隣のランコちゃんも僕の腕を離してしまった。
「コロス……」
俺から少し離れたランコちゃんがピクリとも動かない。
やや顔を俯けて物騒な呟きを繰り返す。
よく見ると、頬にうっすら金のうぶ毛が生えている。
獣化!?
しようとしてるのか、堪えているのか。
どちらか分からないけど、徐々にうぶ毛が濃くなっている様な。
いやいやいやいや、獣化はまずい。本当に死ぬ。
「ランコちゃん! 落ち着いて!」
今度は俺が、止める方になってしまった。
俺と僕が統一されてないので読みにくかったと思います。
彼が自然と俺と言えるようになるまでご辛抱を。
でもそんなに長くワン太視点は続かないので今回は無理かなあ。
読んでいただきまして、ありがとうございます。
次話もどうか、よろしくお願いいたします。




