5の4話
僕、いや、俺、椀子椀太郎は今、ちょっと気まずい状況だ。
あ、ランコちゃんの当たりが強いというのは、最近やっと解消されたので違うんだけど。
あ、いやいや、当たり自体は今現在非常に強いんだけど。
こないだまで、俺が浮気して(本気だったとは口が裂けても言えない)ナツキさんにフラれちゃった事件を根に持っていたランコちゃんだが、そちらは何とかほとぼりが冷めた。
今の彼女が不機嫌な原因は別にある。
「ちぇっ、何で妾とワン太なのじゃ?
あんな、仲良しこよしで居てたのに……」
「仕方ないだろう。
ヒトゥリデ様の護衛に、不死身のテルオさんは確定なんだから」
「分かっておるのじゃ!」
そう。
ランコはヒトゥリデ様と行動を共に出来ない事で、苛ついていたのだ。
いくらランコが仲良しでも、所詮我らは新参者。
あのふたりの間に割って入るなんて、とてもとても。
「ランコちゃん、機嫌直してよ。
次の店、ランコちゃんの好きなのを2つとも選んでいいよ」
「ふん! 当たり前なのじゃ!
ワン太には貸しがたんまりじゃから、それくらいなっ!」
言うと歩く速度を上げて前へ出る。
う~ん、ちょっとは和らぐかと思ったが甘かったか。
まあ、こんな提案じゃあな。
ん?
肩を怒らし歩いてるクセに、尻尾がピンと伸び上がり、ゆっくり左右に揺れている。
なんだ、結構喜んでるじゃないか。
『ププッ』
思わず吹き出しそうなのを、寸でのところで耐えられた。
うん。
今日の僕は運がいい。
「星はまあまあじゃが、ここにするのじゃ」
表のふわふわ絶品という看板に引き寄せられ、ランコが決めたお店はパンケーキ屋。
おい!
さっきの奴、半分以上は食ってたろ。
キャンベル・アイリーンでの事。
ヒトゥリデ様と同じく、全員ひと口ふた口ずつ味を確かめただけだった。
もちろん、ランコを除いて。
あいつは皆がセーブしたのをいい事に、残りを綺麗に平らげた。
まあ、モグモグタイムの観賞に、わざと食べさせてたみたいだけど。
まあ、超、可愛かったけど。
と、とにかく、パンケーキとパフェを合わせて3人前以上。
あんだけ食べて、またパンケーキ?
それに……
シンプルパンケーキランドコウカ店、ってチェーン店?
星3つでチェーン店……絶品ってあり得るの?
これ、入る前からガッカリ感が溢れてないか?
いやいや、決めつけは良くない。
美味いからこそ、店舗が増えているハズだ。
そう信じよう。信じたい。
「さあ、早く入るのじゃ~」
意気揚々なランコ。
仕方なくそれに続くと、ちょっと驚いた。
店内に入ると結構混んでいたのだ。
いい意味で予想は裏切られたかもしれない。
レジ前のちょっと広くなったスペースに、立っている客5人。
隅の椅子で座って待っている客5人。
あ、名簿に記入し終えたカップルが加わって、立ってる数は7人になった。
「ぃらあっしゃっせー。
名ーえ書いてお待っしゃっせー」
前言撤回。
何だこの、エプロンだけ着けたラッパーみたいな店員は!
ヤル気の欠片もないチャラ男の案内に、僕の、いや俺の不安が再び鎌首を持ち上げて来た。
どうする? このまま名簿に名前を書いていいものか……
「ワン太! ふわふわ絶品、楽しみじゃの!」
右手にボールペンを持ったまま一瞬フリーズした僕の空いている左手に、テンション高く腕を巻き付けて来たランコちゃん。
耳をピンと立て、頬をほんのり染めながら、僕の瞳を見詰めて来る。
「超ぉ~楽しみだね」
もう、光の速さで名前を書いた。
待っている間に選んでもらおうと、名簿脇に数冊刺さっているメニューをひとつ取り、ランコちゃんに手渡した。
嬉々として開く仕草が堪らない。
中はファミレスの様に明るく広い。
よく見てみると、空席がいくつかある。
厨房入り口近くのテーブルなんか、汚れた皿が山積みになっている。
そこも片せば座れるだろうに。
何で立った客がいるのに遊ばせてんだろう。
「ねえワン太。いっそふわふわ絶品2つってどう?」
真剣な顔しておバカな事を言って来た。
苛ついた心が癒される。
「あはは、主命に背く発言だよ」
と言ってやると、
「ハッ! そうじゃった」
と我に返って……可愛いかったりする。
「美味しかったら、また来ようよ」
「分かったのじゃ。
今日は身命を賭さねばなのじゃ」
下心たっぷりのフォローを入れると、否定はされなかったのでちょっと嬉しい。
やっぱり今日はラッキーデーだ。
「にめーぇお待ちのー、ワンコさまー、どぞー」
待ち時間15分程度で席に案内された。
このチャラッパー、袈裟斬りしたい……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あらあら、いい感じじゃないの?」
まあ、もともと両想いでしたからねえ。
ナツキの色仕掛けのせいでギクシャクしてただけです。
「あんたさあ、本当に根に持つタイプよね。
しかも逆恨みだし」
いえいえ、冗談ですよ。
その方が面白いと思いまして。
「その割りには、テルミーナ出てこないわよね」
ヒトゥリ様がやらせなきゃ、僕がやる訳ないでしょうが!
「はいはい。
そういう事にしといてあげる」




