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4の14話

「全てはわしから出た言葉が元で、偉く皆に迷惑をかけた。

 本当に済まんかったな。じゃが、ありがとう」


 竜王山最奥の間にドゲン様の声が響く。

 ほんの先刻までの喧騒が嘘の様に、静寂が訪れた部屋ではそう張らなくてもよく通った。


「「滅相もありません!」」

「我らは殿の配下におじゃる」


 今ドゲン様の前には、3人の忠臣、2つの隠れ里の長と精鋭十数人がひざまずいている。


「如何にも! この身命に賭けて。

 と言いたい所でござるが……」

「ガハハハ、とうに死んでござる」


 わはははははは、ドッと吹き出す一同。


「笑えないわよね」

「笑えませんね……」


 僕らヒトゥリデ、ダイヤ両パーティーは、ドゲン様の後方扉付近で静観中。

 思わず小声で突っ込むミィンナデさんに、僕もそっと小声で返す。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 3人を止める、とドゲン様が部屋に入ったその直後、中の騒ぎは収まった。

 流石は忠臣。気配であるじ本人と気付き、すぐさまその場に平伏ひれふした。


 同時に、階下からドカドカ騒がしく2村の連中が駆けて来る。

 扉脇からドゲン爺ちゃんの様子を見ていた僕に、


「御免」だの……

 

「かたじけない」

 

 だの口々言いながら、慌てて室内へ入って行った。


 僕らはもう問題無いだろうと、少し遅れて連中に続いたのだった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「儂の影武者の杖は、かつて世界をひっくり返し兼ねんアイテムじゃった。

 じゃがもう、人間の世は定着しその心配ものうなった」


 ここで「その様な……」なんて社交辞令で話を遮る俗物などいない。


「もう随分前から、皆を儂の言葉の呪縛より解放してやりたいと思うておったのじゃ」


「滅相も御座りませぬ!」

「呪縛などと!」 

「我ら主命を預かるは誉れにござる」


 思わず村の精鋭たちが声にする。

 そこはスルー出来ないんだ。

 そりゃそうだ。

 彼等はその背後に、時空を越えた無数の人々が連なっている。

 4千年の想いを繋げて今があるのだ。


「うむ、大儀であった。

 皆の忠義確かに受け取った!」


 ドゲン爺ちゃんは皆の前で暫し黙想する。

 目を閉じ黙って思案する主を、息を飲んで見詰める忠臣一同。

 やがて1分程で瞼を上げると、家ではけして見せない締まった顔を爺ちゃんは見せた。


「では其の方等に新たな頼み事をしてもよいかな?」


「「「ハハッ! 仰せのままにっ!」」」


 


 爺ちゃんの新しい主命とは--


 今までの経緯を新たなドゲン王シリーズとして発表し、その上で、このダンジョンを中心にレジャーランドとして開業しようとの事。

 開園後、ケンシぐち、ワンコぐちとなる両村も、観光客に対応出来る様に整備する事。

 ダンジョン内には今までのゴーレムに、ラスボスのオジャルマも採用する事。

 等である。


「オジャルマじゃないでおじゃるよ!」


 やはりそこは突っ込む悪魔人形セバスチャン。


「おお、そうじゃった。

 世間ではヒョットコのオジャ丸じゃったな」


「な、なんでおじゃるかー!」


「「「ワハハハハハ」」」


 笑う一同。

 また何か変な呼び名増えてる。 


「おおおお、貴方はオジャ丸さんだったのか!」


 ダイヤ先輩だけ、何故か感動していた。

 どうやらドゲン王の世直し旅から登場する、おっちょこちょいキャラとの事。

 あんな悪魔が? と思ったら実は気のいい奴で、僕らを()()()殺す気などは無かった様だ。


 爺ちゃんは竜王山へ入る時に結界を解いたのだが、結界には状態保存の魔法が同時に掛けてあったらしい。

 結界内に入った時の状態を保存して、万が一の時は結界外で再生復活するんだとか。

 時空魔法を使って巻き戻しているのでかなり難しい術式らしい。


 マジックキャンセラーや魔法効果無効が気になったが、時空魔法には他の魔法が効かないとの事。

 例えば時間停止状態で動いたり喋ったり出来る者も、魔法攻撃を行うのは無理なのだそうだ。

 


「ワンコよ」


「「ハッ! あっ!」」


 爺ちゃんの呼び掛けに応える新旧の椀子椀太夫。

 そうだった。

 まだワンタロウは初代椀太夫だった。


「おお済まん。

 現村長よ、其方そなたはコウカスターレイ運用のノウハウをケンシコにも教え、ふたり協力して盛り立ててくれ」


「「ハハッ!」」


「トラさん、ワンコさんや」


 爺ちゃんは両家の初代村長に優しい笑みを向けた。


「「ハッ」」 


「其方等の子孫はよう出来た者たちよ」


「はい、まことに」

「儂らには出来すぎた子孫にござる」


 控え目に、しかし自慢気な御先祖様たち。

 だが少しずつ、姿が曖昧になってゆく。


「忠孝に篤く、礼節を重んじておる。

 よいと言うに、折々顔を見せてくれる」


「かたじけのう……」

「ござりまする……」


 身命より重い主の言葉に、胸を詰まらせる忠臣ふたり。

 それを受け、感じ入るその子孫たち。

 所々にすすり泣きが聴こえる。


「もう儂もエルフの老齢期に入っておる。

 いずれ逝くゆえ、暫し待っておれ」


「はい。

 ですが、まだまだのんびりしとうござる」

「当分来なくてもよいかと」

「殿、エルフの老齢期は1万年以上でおじゃるよ。

 あと何千年先でおじゃるか?」


 わはははははと、何度目になるのか、室内に男達の声が響く。

 皆の笑い声に送られて……

 初代剣歯、椀子の笑顔はぼんやり霞掛かって、若い男女の泣き顔に変わっていった。


 向ける忠義の対象は違へど、その想いは確かに若い胸に芽吹いていた。

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