4の14話
「全ては儂から出た言葉が元で、偉く皆に迷惑をかけた。
本当に済まんかったな。じゃが、ありがとう」
竜王山最奥の間にドゲン様の声が響く。
ほんの先刻までの喧騒が嘘の様に、静寂が訪れた部屋ではそう張らなくてもよく通った。
「「滅相もありません!」」
「我らは殿の配下におじゃる」
今ドゲン様の前には、3人の忠臣、2つの隠れ里の長と精鋭十数人が跪いている。
「如何にも! この身命に賭けて。
と言いたい所でござるが……」
「ガハハハ、とうに死んでござる」
わはははははは、ドッと吹き出す一同。
「笑えないわよね」
「笑えませんね……」
僕らヒトゥリデ、ダイヤ両パーティーは、ドゲン様の後方扉付近で静観中。
思わず小声で突っ込むミィンナデさんに、僕もそっと小声で返す。
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3人を止める、とドゲン様が部屋に入ったその直後、中の騒ぎは収まった。
流石は忠臣。気配で主本人と気付き、すぐさまその場に平伏した。
同時に、階下からドカドカ騒がしく2村の連中が駆けて来る。
扉脇からドゲン爺ちゃんの様子を見ていた僕に、
「御免」だの……
「かたじけない」
だの口々言いながら、慌てて室内へ入って行った。
僕らはもう問題無いだろうと、少し遅れて連中に続いたのだった。
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「儂の影武者の杖は、かつて世界をひっくり返し兼ねんアイテムじゃった。
じゃがもう、人間の世は定着しその心配ものうなった」
ここで「その様な……」なんて社交辞令で話を遮る俗物などいない。
「もう随分前から、皆を儂の言葉の呪縛より解放してやりたいと思うておったのじゃ」
「滅相も御座りませぬ!」
「呪縛などと!」
「我ら主命を預かるは誉れにござる」
思わず村の精鋭たちが声にする。
そこはスルー出来ないんだ。
そりゃそうだ。
彼等はその背後に、時空を越えた無数の人々が連なっている。
4千年の想いを繋げて今があるのだ。
「うむ、大儀であった。
皆の忠義確かに受け取った!」
ドゲン爺ちゃんは皆の前で暫し黙想する。
目を閉じ黙って思案する主を、息を飲んで見詰める忠臣一同。
やがて1分程で瞼を上げると、家ではけして見せない締まった顔を爺ちゃんは見せた。
「では其の方等に新たな頼み事をしてもよいかな?」
「「「ハハッ! 仰せのままにっ!」」」
爺ちゃんの新しい主命とは--
今までの経緯を新たなドゲン王シリーズとして発表し、その上で、このダンジョンを中心にレジャーランドとして開業しようとの事。
開園後、ケンシ口、ワンコ口となる両村も、観光客に対応出来る様に整備する事。
ダンジョン内には今までのゴーレムに、ラスボスのオジャルマも採用する事。
等である。
「オジャルマじゃないでおじゃるよ!」
やはりそこは突っ込む悪魔人形セバスチャン。
「おお、そうじゃった。
世間ではヒョットコのオジャ丸じゃったな」
「な、なんでおじゃるかー!」
「「「ワハハハハハ」」」
笑う一同。
また何か変な呼び名増えてる。
「おおおお、貴方はオジャ丸さんだったのか!」
ダイヤ先輩だけ、何故か感動していた。
どうやらドゲン王の世直し旅から登場する、おっちょこちょいキャラとの事。
あんな悪魔が? と思ったら実は気のいい奴で、僕らを本気で殺す気などは無かった様だ。
爺ちゃんは竜王山へ入る時に結界を解いたのだが、結界には状態保存の魔法が同時に掛けてあったらしい。
結界内に入った時の状態を保存して、万が一の時は結界外で再生復活するんだとか。
時空魔法を使って巻き戻しているのでかなり難しい術式らしい。
マジックキャンセラーや魔法効果無効が気になったが、時空魔法には他の魔法が効かないとの事。
例えば時間停止状態で動いたり喋ったり出来る者も、魔法攻撃を行うのは無理なのだそうだ。
「ワンコよ」
「「ハッ! あっ!」」
爺ちゃんの呼び掛けに応える新旧の椀子椀太夫。
そうだった。
まだワンタロウは初代椀太夫だった。
「おお済まん。
現村長よ、其方はコウカスターレイ運用のノウハウをケンシコにも教え、ふたり協力して盛り立ててくれ」
「「ハハッ!」」
「トラさん、ワンコさんや」
爺ちゃんは両家の初代村長に優しい笑みを向けた。
「「ハッ」」
「其方等の子孫はよう出来た者たちよ」
「はい、まことに」
「儂らには出来すぎた子孫にござる」
控え目に、しかし自慢気な御先祖様たち。
だが少しずつ、姿が曖昧になってゆく。
「忠孝に篤く、礼節を重んじておる。
よいと言うに、折々顔を見せてくれる」
「かたじけのう……」
「ござりまする……」
身命より重い主の言葉に、胸を詰まらせる忠臣ふたり。
それを受け、感じ入るその子孫たち。
所々にすすり泣きが聴こえる。
「もう儂もエルフの老齢期に入っておる。
いずれ逝くゆえ、暫し待っておれ」
「はい。
ですが、まだまだのんびりしとうござる」
「当分来なくてもよいかと」
「殿、エルフの老齢期は1万年以上でおじゃるよ。
あと何千年先でおじゃるか?」
わはははははと、何度目になるのか、室内に男達の声が響く。
皆の笑い声に送られて……
初代剣歯、椀子の笑顔はぼんやり霞掛かって、若い男女の泣き顔に変わっていった。
向ける忠義の対象は違へど、その想いは確かに若い胸に芽吹いていた。




