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4の13話

 古臭い言い回しではあるのだが--

 男には、身命を賭してもさねばならぬものがある。

 なんて言ったりする。


 何の為に?

 家族、友情、スポーツ、仕事……

 中には健康って者もいる。

 それは人によって様々あるのだろう。

 要は自分にとってそれがどれ程に重要なものなのか、という表現だと思う。


 今目前で相対あいたいしている者達の時代では、主命がそうであった。

 あるじの命令の為に、文字通り身命を賭ける。

 それが彼等の矜持きょうじ、プライドだったのだ。

 

 彼等にとってはその矜持こそが、自らの命よりも重いものだったのである。




「さあ、行くでおじゃる!

 ヘル・ファイア!」


 ゴオオオオオーーーッ!


「なんの、マジカルバリアー!」

「うおりゃあああああっ!」


「フィジカルバリアー!」


 ギャリギャリギャリッ!


「剣歯虎! スキル、攻撃力増大っ!」

「わりい椀子」


「ズルいでおじゃるよ!」


「わはははは」

「うおりゃあっ!」


 ドゴーーーン!


「ズルいでおじゃるよ!」


 ギャリギャリギャリッ!

 ドゴーーーン!


「わははははは」

「ガハハハハハ」

「おほほほほほ」


 ゴオオオオオーーーッ!

 ドゴーーーン!

 ギャリギャリギャリッ!

 ちゅどーーーん!





 もう……いいんじゃないですか?

『もう……いいわよね。放っとこ』


 なにがなんだか……

 今や竜王山最奥の間は、擬音だらけのやかましい部屋になっていた。


 結局この人達は暴れたいだけなんだろう?

 まあ、片や4千年も残業させられ、片や4千年振りに現世シャバの空気。

 そりゃあ羽目も外すさ。


 僕はヒトゥリ様に流れ弾が当たるなんて事がないように、さりげなく祭壇から連れ出し、みんなと一緒に部屋を出た。

 部屋の壁には魔法防御の加工がしてあるらしく、一歩外に出ると平和そのものだった。


 もう正直帰りたいのだが、そういう訳にもいくまい。

 何せ中で騒いでいる元忠臣ふたりの依り代は、現忠臣候補である獣人ふたりの体だからだ。

 可愛い後輩を見捨てて帰る、なんて選択肢はないだろう。


「アケミ、ほら、横になろう」


 ミィンナデとナツキの肩を借りて部屋の外まで出てきたダイヤ先輩は、地面にゆっくり寝かされる。

 ミィンナデは自身が羽織っていた薄手のコートを脱ぎ、孫娘の身を包んでやった。

 ダイヤ先輩が身に付けていた衣服は、業火のせいかほぼ焼け落ちていたからだ。


「回復魔法をかけるからな、すぐ楽になる」


「いや、おばあちゃん、大丈夫だ。怪我はない」


 ぐったりした様子の孫娘を手当てしようとするミィンナデ。

 だがそれを即座にダイヤ先輩は断った。

 

「それに、かけても弾いて効かんのだ」


 一瞬、周りの者は意味がよく分からなかったが、ミィンナデと勘のいいカヨさんはハッとした顔をする。


魔法効果無効マジカルバリアーか!」


「横っ飛びの後、直ぐに詠唱を始めてギリ間に合った……

 最初から使うと回復魔法も弾くだろう?

 だが不死身君と分断された時点で、私に来ると思ったのだ」


 ダイヤ先輩の判断は正しいだろう。

 悪魔人形との開戦直前を知っている者は、あのスピードは脅威に感じたはずだ。

 お婆様の、いや、ミィンナさんの登場が遅ければ使っただろうが、回復魔法をかけてもらえる状況下ではギリギリまで温存しておきたいだろう。


「アケミ……

 あんなに魔法を嫌がってた子が……」 


 ミィンナデは感極まったのか、目にいっぱい涙を溜めてダイヤ先輩を見詰めている。


「言っただろう。ちゃんと覚えるって。

 最初に習った1個だけだったけど」


「アケミ!」


 ミィンナデは強くその胸に、愛する孫娘を抱き締めた。

 コウカ東美術部の連中も、側で感動したり、ホッとしたり。


 どうやら業火に包まれたダイヤ先輩は、バリアーを張った直後MP切れになって少し気絶していたようだ。

 魔力が高くとも、相当使い続けないとMPの総量は増えないのだ。

 

 とはいえ体は無事だった先輩だが、服が燃えた所で詠唱が完了したのでほぼ全裸なんだとか。

 因みに、その時負った火傷レベルだと、すぐに再生するらしい。

 どんだけ鍛えてんだか。


「ミチとナツキには悪かったな。好きな服を買って返そう」


 と、謝る先輩。

 そうだった。

 Yシャツはミチル君、ブリーフパンツはナツキ君からの借り物だった。


「あ! いえ、その事なんですけど……」


「おおお、ミィンナデーっ!」


 ナツキが何か言おうとした時、階段を上がって来る者がいた。

 ドゲン爺ちゃんだった。


「おじいちゃん!? 

 ヒトゥリデはそこだもんな」


 ミィンナデは振り向き確認する。

 側には杖を片手のドゲン爺ちゃんがすでに居るが、それはヒトゥリデである。

 という事は本物がやって来たようだ。


「ミィンナデ~!

 お前は、なんで全く顔を見せん!

 おじいちゃんは心配で心配で……」


「おじいちゃん!

 もうこれどういう事っ!」


「ん? ぶふっ! ヒトゥリデか?」


 わあっはっはっはっは、と豪快にドゲンお爺ちゃんは笑う。


「もう! 笑いごっちゃない!

 何でおじいちゃんになんの? 

 私、元、戻れるっちゃろねっ!」


「ああ、すまんすまん。

 1時間もすりゃあ戻れるばい」


 ひとしきり笑った後、問題無いと笑い続けながらそう言った。

 

「それと杖の能力な、それはわしの影武者用の杖じゃ。

 誰が使っても儂になる」


「「「えええええええーーっ!」」」



 ドゲン爺ちゃん曰く--

 人間族に世界を「大禅譲だいぜんじょう」した直後だと、ドゲン爺ちゃんに爺ちゃんの能力込みで変身できる杖は確かに脅威だった。

 ホー王国の世に未練があり、一戦やむ無しと考える者はエルフのみならず、人間族も含め全種族に多数いたのだ。


 そういった者の手に渡れば、ドゲン王は最高の旗印になる。

 せっかくのナンバ様の努力を、最悪な形で潰しかねない。

 そこで爺ちゃんは己が忠臣に頼んで、密かに杖を護らせたのだ。


 杖はその用途が影武者だったため、その能力は秘中の秘。

 しかも爺ちゃんの性格上近しい者を影武者にする訳がなく、また、必要とする状況すら起きなかった為、全く世に知られる事は無かった。

 杖を片手の御老公って姿自体、みんな知ってはいたのに、だ。


「どうりで文献を漁っても、杖の逸話が見当たらんのか」


 ダイヤ先輩の探した物語は、ミィンナさんが身内だからこそ知り得た情報だったのだ。


「おう、そうじゃ。そろそろアヤツらを止めんとな」


 ホッホッホ、と世直し旅のご隠居ホンモノはそう言って話を区切ると、騒音の漏れる半開きになった扉へと足を向ける。

 やれやれ、この騒動もようやくこれで幕を下ろす事となったのである。

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