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4の8話

 このバカあるじ! なにやっとんじゃ!


 僕、栗原テルオは思わず心の中で、主人であるヒトゥリデ・ショルトカを怒鳴りつけた。


 打ち合わせでは僕が悪魔人形に組み付いて、なるべく遠くに押し退ける。

 その隙にヒトゥリデが部屋に入り、先ずは王家の血でこの悪魔を従わせられないか試してみる。

 もちろんヒトゥリデの前にはランコとワン太の獣人ズが護衛に立つ。


 そうして悪魔人形に対した行動を取っている間に、カーナとセシリーはダイヤモンドさん達を部屋外に誘導する。

 念の為セシリーには、部屋に入ったらマジックキャンセラーを発動させるよう頼んである。


 それがこのバカ主人公の軽挙で御破算ごわさんだ!


『何よ、その言いぐさ。

 こんな好機、見逃す手はないでしょ!』


 そりゃあ今完全に、ヒトゥリ様ノーマークですよ。

 でも言ったでしょ、ゴーレムに近づくなって。

 今悪魔人形より先はヒトゥリ様達3人だけなんですよ。


『分かってるって。

 でも私は信じてるから。

 テルオは絶対にその手を離さないって』


 当たり前でしょ!

 仕方ないからさっさと取ってきて!


『まっかせなさーい』


 俯瞰ふかんで見るとヒトゥリデを追う獣人2人は必死の形相。

 相談なし、考えなしに飛び出したのが一目で分かった。


「いかん! 全員跳べ!」 


 ダイヤさんが叫ぶと、カヒガシ美術部の連中は全員横っ飛びして伏せた。

 そういえば悪魔人形がさっきからブツクサうるさい。


「その手を離せ、下賤げせんのゴミめ」


 ん? コイツ光って……


業火インフェルノ


 ぎゃあああああああっ!

 熱い熱い熱い熱いっ!


 これが魔法っ! 体の内側から焼かれているみたいだ!


「は、離さぬかえっ」


「あ!?」

 しまった、振り払われた。


 初めて体験する魔法の、あまりにも激しい痛みに気が逸れてしまった。

 なんたる失態。このままでは……


「ヒトゥリ様、宝から離れてっ!」


「そなたも燃えよ、ドロボウ猫。飛火球ヘル・ファイア!」


 悪魔人形は右手をヒトゥリデに向けて魔法名を口にした。

 悪魔に詠唱は必要ないらしい。攻撃が速い。

 万事休すか?


 だが、その右手からは何も出ない。


「んぬっ? 

 またでおじゃるか……忌々しい」 


「マジックキャンセルです」


 遅蒔きながらセシリーがマジックキャンセラーを発動させたらしい。

 部屋に青い光が充満している。


 よし、時間は稼げた。

 奴が魔法でなく、直接ヒトゥリデに向かっていたら詰んでいた。

 結果オーライだが反省は後だ。


 僕はヒトゥリ様の盾になるべく駆け出した。

 悪魔人形も魔法が使えぬとなると、直接止める為杖に向かって走り出す。

 くそっ、奴が少し前に出ている。


 だがこれでヒトゥリ様が杖から遠ざかれば……


 って、おい!

 何で杖の脇に居る!


「だ、だってもう、着いちゃったんだもん」


 ダメだ、逃げて! 杖なんてもういいから……


 って、おい!

 手を離せって!


「も、もう取っちゃった……よーっ!」


 だ、ダメだダメだダメだダメだっ!

 そんなの放って早く逃げろって!


 僕はすぐ前にいる悪魔人形に手を伸ばす。

 もう手が届く直前。

 だのに、あと一歩が遠い。


 思考速度を何倍速にもする事で時間を遅くしているのに……

 能力を全開にして追っているのに届かない。


 非常事態ではあるが、主人公のピンチは小説世界には必須なのだ。

 僕が危険回避で守られるのと違って、ヒトゥリデは世界に守られてはいないのか。


 時間は長く、もどかしさだけが募って行く。

 もっと、もっと、速く動いて……

 同時に思考速度も上がり、回りの動きが更に遅く、静止世界に近づいて行く。


 ついに獣人ズもかわされ、悪魔人形はヒトゥリデの眼前に。

 そこで完全に世界の動きは止まった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 静かだ……


 世界のすべてが、時間すらも止まっている。


 正直、思考だけ働いて、現状は何ひとつ変わらない。


 だが考える事は出来るんだ。


 このどうしようもない状況を打破するには……




 ショルトカの名を出してみては?


 おそらくヒトゥリデは能力を試していないだろう。



『テ…………ル……………オ………………………?』



 ヒトゥリデはここまでの思考速度にはついてこれない様だ。



 ……ん?


 な!?


 部屋の中に誰か入って来た!


 しかも普通に歩いている? 静止世界で?


 どういう事だ。


 エルフ……いやあの耳はハイエルフの女性だ。



「まったく……危ないな。

 ギリギリだったではないか」



 思考だけでなく、普通に喋ってる!



「このレベルの悪魔か。

 ヒトゥリデの前にでも立っときゃいいか。……ん?」



 あ、こっち見た。



「おおっ! 

 君は意識があるのか。珍しい」



 ええ!? そんなの分かるのか?


 何でだ?



「あはははは、俺の魔力は特別だからな。

 君の思念を感じて、覗いているのだよ」



 俺? どう見ても美しい女性なんだけど。

 まあ、ハイエルフですから美しいのが標準でしょうが。



「驚くのそこか!

 下らん事を言う奴だな。

 しかし見込みがあるからな、後で鍛えてやろう」



 何か強引な人だなあ。



「うーむ、アケミはこの世界には来れていないのか。

 ……だから魔法の修行もやれと言ったのだ」



 ああそうか、何か似たような感じだと思ったら。

 なるほど、ナンバ様が打とうとしていた手はこれか!



「よし! 時間停止タイムストップを解除するぞ」



 僕も思考速度を戻しておこう。

 どうやら彼女が時間停止したのと、僕が静止世界を作ったのがシンクロしたんだろう。

 いやシンクロというより、他次元に変わるのかもしれない。



「そして時は動きだ……」


 わあああああーーっ!

 普通に「解除」でいいだろうが!



「フン、細かい奴め。解除」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 

 ドドドド!


 駆け寄ってくる悪魔人形。


「その杖に触る……な!?」 


「ムン!」


 謎のエルフ美女は悪魔人形の顔面にこぶしをめり込ませ、そのまま振り抜く。

 人形は来た方向に10メートル程吹き飛ばされた。


 その場にいた者は何が起きたのか理解できない。

 急に人が現れて、状況をひっくり返したのだ。

 一体何者だ、と皆の視線が彼女に集まる。


「お、おばあちゃん!?」


 アケミ・ダイヤモンドが素頓狂すっとんきょうな声を上げた。

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