4の7話
どうします?
『どうしよう?』
ヒトゥリデ、テルオの主従ふたりは困っていた。
とてもじゃないが、行っても勝てる気がしない。
とは言え、見捨てるには忍びない。
もちろんこれは、今ダンジョン最奥部で戦っているアケミ・ダイヤモンド率いるコウカ東高校美術部に加勢すべきか、という事だ。
僕らふたりには、彼女らの窮地が手に取るように分かっている。
正直、族が自滅するだけの話。
自業自得、それだけの話ではあるのだが……
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ヒトゥリデ一行は神社の拝殿から中に入って本殿へと進んだ。
拝殿正面の引き戸は既に開いていたからだ。
その先の本殿奥へと進む道筋も、先刻人が通った跡を残す様に、扉の類いは全て開け放たれていた。
「なんだか神罰が当たりそうなのじゃ」
ランコが不安そうに呟く。
ワン太もあまり大丈夫という顔じゃない。
このふたりには古風な面があるので、神社を土足で踏みにじる様な行為は抵抗を感じるのだろう。
「うふふ、族に杖を盗られるほうが、よほど祟られるわよ」
カーナは微笑みながらランコにそう言った。
「ううっ、そうなのじゃ、杖をぜったい守るのじゃ」
「ふたりとも、ドゲン様まだ生きてるぞ!」
僕がそう突っ込んであげた。
「「そうだった」」
「「「あははははは」」」
少しは気が紛れただろうか。
壁は途中から岩肌へと変わり、建物から洞窟へと移動した事が分かる。
直ぐに広い空間に出て、中央付近には土クレの山があった。
おそらく1体目のゴーレムとの対戦場所であり、そのなれの果てであろう。
皆一瞥だけして先を急ぐ。
洞窟を進む先々に、似たような空間が何度も現れる。
土クレの量が徐々に増えているのが分かる。
このゴーレムをひとりで倒しているダイヤ先輩は間違いなく達人クラスだ。
皆と先を進みながら僕は能力でその光景を目の当たりにし、それをヒトゥリ様に伝えている。
そして間もなく追い付きそうだという高い天井と階段のフロアで、悪魔と苦戦する連中のナレーションをしたのだ。
戸惑うヒトゥリデ。
それはそうだ、仕方がない。
達人のダイヤ先輩が手も足も出ない。
王家の血でゴーレムを操作出来るらしいが、果たしてあれをゴーレムと言えるのか。
一歩間違えば命に関わる。
引く事も出来ますが。
『う、うん……』
これが極悪非道で、この世を地獄に変えようって人間なら自業自得と放っぽっとく。
だが僕らは知ってしまったのだ。
彼女らの日常を。人となりを。
正直、突き放せない程には好きになっていた。
『そうね。放っておけないよね』
そうですね。
確かにあの悪魔には勝てる気はしません。
でも、負けない様には出来なくもありません。
『え?』
みんなと作戦を立て、絶対危険にならない様に行動しましょう。
基本僕が抑え、ヒトゥリ様は獣人ズと一緒に奴から距離を取り続けて下さい。
もちろん、王家の血が効けば問題ないのですが。
僕らは階段を上がりながら、最後の間に入ってからの事を打ち合わせる。
さすがにナレーションだの見透し能力だのは言わないが。
ヒトゥリデのプチ魔法を使い、先の部屋にてダイヤと悪魔が戦っていると伝えた。
先方を救出したら、ナンバ様に言われた通り撤退しようと。
階段を上りきると、もう例の部屋は眼前に。
扉は開いたまま。
「さあ、オイシイトコ頂くわよ」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「おほほほほ。
麿はまだ指一本触れてもいないでおじゃるよ」
僕らカ東美術部の皆は為す術なく、この悪魔人形の威圧のみで、ジリジリ入口の扉へと後退していた。
部屋から逃げ出すにはこの状況は好都合。
だが、この部屋を出たからといって、あの悪魔が「ハイ、サヨナラ」となる気がしない。
「それにしても、美しきオナゴばかりよのう。
器量良しは麿は大好きでおじゃる」
これまでを振り返ると、ゴーレムは行動範囲が限定されている様だった。
何度か先輩はそれを利用して休憩を取ってもいた。
しかし、この悪魔人形がそうなるとは思えない。
第一奴はゴーレムでもないのだ。
「おほほほほ。
そなたは既に、セクシイショットで挑発しておじゃるし」
もうすぐ扉に辿り着く。
そうなれば仕方なく、僕らは全員部屋を後にする。
そう。
ダイヤ先輩を除いた全員がだ。
あの人は絶対扉を閉める。
僕らを外に出し、扉を閉ざし、それを背にして戦うだろう。
そんな事、だれも求めていない。求めてはいないが、それに抗う事も出来ない。
「あらあらあらら、もうすぐ出口でおじゃるよ。
果たしてそこが出口になるでおじゃるかの?」
もう、あと数歩で扉に背が触れる。
ああ、悪魔がいるのなら……
神様……神様……あなたがいたっていいじゃないか!
助けて。先輩を助けて。僕を助けて。
お願いします。
誰か、助けて下さい!
とん、と扉に背中が当たる。と同時に--
ビュッ!
一陣の風が肩を掠めて前へと吹き荒ぶ。
黒い風。
それは人影だった。
信じられない速さで風と化し、悪魔人形にぶつかった。
ガシッ!
「な、なんでおじゃる?」
さすがの悪魔も狼狽している。
僕も、いや、僕ら一同、何が起きたか理解できない。
「離すでおじゃる、離すでおじゃるよーっ!」
どれだけの力で抑えているのか。
ジタバタもがく悪魔人形がやたら滑稽に見えてしまう。
自らの、先程までの恐怖心がすうっと薄れていくのを感じた。
「僕も女性以外に抱擁するのは嫌なんですよ。誤解されますし」
謎の人物は軽口まで叩いている。
これは、僕達、助かったの……
「ヒャッホウ!
ドゲンの杖は私が頂くわよっ!」
なっ!!
僕らみんな息を飲む。
この混乱に乗じて、杖に向かってまっしぐらの3人組。
中には何故かワンタロウ君の姿も。
この部屋の、悪魔も含めて、全員が完全に出し抜かれた。
「させん! させませぬぞ!」
悪魔人形が今までにない真剣な怒気をも孕んだ叫び声を上げた。
更にウガガガガと叫び続けている。
心なしか部屋が明るくなってきているような……
「いかん! 全員跳べ!」
ダイヤ先輩の切羽詰まった声で思い出し、即座に横っ飛びに悪魔から少しでも離れる。
時間切れだ。
マジックキャンセラーの電源が切れたのだ。




