4の1話
「只今からダイヤモンド盗賊団対策会議を始めます」
ここはホー城円卓の間。
輝く朝日が白いカーテンの隙間から、風の入る度にチラと瞳を刺激する。
普段の観光スポットは、今回の騒動を解決すべく集まった有志により、何千年振りにか本来の使われ方をしている。
昨夜ヒトゥリデが「円卓会議よ!」とほざいたら、ランコとワン太が目をキラキラさせて喜んでいた。
バカを言え、と喉まで出ていたナンバ様だったが、あまりの忠臣の可愛いさに思わず許可してしまった様だ。
いいか、オープン前30分には完全撤収だからな! と、ヒトゥリデが釘を刺され、制限時間付ではあるのだが。
「ちょっとその前にっ」
場を仕切る僕をショッパナ遮ってのヒトゥリ様。
はいはい、何でしょう。
「なんであなた達まで居るのよ」
円卓の玉座には家長のナンバ。
時計回りに爺ちゃん、婆ちゃん、奥様、先輩執事のセバスチャン、カーナ、セシリー、ワンタロウ、ランコ、僕、ヒトゥリデ。
セバス先輩とカーナの間はかなり空席にして、玉座寄りの半分を使っている感じだ。
ヒトゥリデがあなた達と言っているのはクラスメートの2人、カーナとセシリーの事である。
「ヒトゥりん、水くさいじゃない。私も一緒に行くわよ」
「わ、私もお手伝いさせてほしい。だってお友達でしょ」
「ゴーレムとか出て来るんだから、危ないのよ!」
「私はヒトゥりんより運動神経あると思うんだけど」
「私はゴーレム超見たい!」
どうも御学友は遊び半分でいらっしゃる。
「うちの会社の魔道具でマジックキャンセラーってあるんだけど。
ゴーレムに効果ないかなあ、ってのも超気になる!」
「マジックキャンセラー?」
「工場の非常時用アイテムだけど、魔力供給を強制カットするの」
「「「すごーい!」」」
セシリーの家は世界規模の家庭用魔道具メーカー。
その工場に配備してあるアイテムで、暴走した魔力を霧散させてしまうアイテムらしい。
どうやらセシリーは先夜遅くに駆けつけたワンタロウとの会話で、自分なりに友の力になれる事を考えてくれていた様だ。
「ヒトゥリちゃんがゴーレムを操れたら必要ないとは思うんだけど」
「そこなのよねえ、ヒトゥりん運動音痴だから」
「それ関係なかろーもん!」
「「「あははははは」」」
最初は父ワンダユウと共に資料を探していたワン太であった。が、肝心な「ドゲンの杖」が書かれてあったであろうページをダイヤ一味に破り盗られた事が判明。
急ぎワン太は山を下り、ヒトゥリデのパーティーに加わったのだ。
ワン太の報告は既にヒトゥリデも知っていた事なので、ほんとは意味がないのだけれど。
いや、セシリー含め、他の連中にも状況が伝わったので良かったと思う。
結界やゴーレムの情報は、うちの資料から予測して、という風に僕の口から皆に伝えた。
「うちの結界だとおそらく昨夜言っていた感じで合っていると思うが、念の為にマジックキャンセラーを借りた方がいいだろうな」
ナンバ様はそう言い、しかし、と続ける。
「そもそも父さんが命じた事なんだろう?
ちょっとは思い出さんとかね」
「おおっ?
わしも昨日からデタン考えよるばってん、ちっとん出てこん」
デタンとはすごくって意味。
ほんとにすごく考えてんだか。
「まあ、爺ちゃんもすっかり忘れている位だ。
現代にはさして問題ない力だとは思う。が、一応確認のつもりで見て来てくれ」
家長のナンバ様が会議の終了の言葉に入った。
忙しい父に代わって私が行くというヒトゥリデに対し、敵が来る前に一度見に行った方がいいという話になったのだ。
杖も可能なら、回収して調べてみようという事に。
「いいか、お前はどん臭いんだから、絶対無理はするなよ。
テルオ、頼んだぞ。以上!」
うん、キッカリ9時30分。オープン前30分だ。
今日は祝日なので、外ではもう観光客が列を作っている事だろう。
ドゲンの杖云々などというのは、世間様には何ら関わりのない話なのだ。
いや、本当はあるかも知らんのだが……
「殿、私は開城の準備をいたします。
テルオ君、今日はもうヒトゥリデ様とご一緒して下さい」
では、とセバス先輩はいの一番に部屋を後にした。
いつもはオープン時間の10時まで、僕も先輩を手伝っている。
昨日の様に用事がある日以外の休みは基本、昼までヒトゥリデは寝ているからだ。
「じゃあお母さんも。
あ、カーナちゃん達はお昼どうするの? 外で食べるの?」
「どうする? ヒトゥりん」
「みんなの分用意しといて~」
はいは~い、と奥様、お婆ちゃんも出て行った。
「ほら、時間だぞ! お前達も居間かヒトゥリデの部屋にでも行っとけ」
僕らも全員、円卓の間を追い出されたのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「き、緊張したのじゃ~」
「うん、緊張したあ~」
みんなで居間に入った途端、獣人のふたりはペタンと座り込んで大きく息を吐いた。
「うふふふふ、そんな大袈裟な。
でも言ってはみるものね、ウシシシシ」
思いがけず実現した、数千年振りの円卓会議。
許嫁獣人コンビでなくとも皆少なからず、緊張と興奮は持っていた。
それが一息に解放され、今居間にいる全員は床にへたり込むのであった。
もちろんヒトゥリデ以外は、であるのだが。
『ちょっと! なんか私が無神経みたいじゃない!』
いえ、そんな事全く全然これっぽっち、欠片も思ってはおりません。
『だって、私にとっては生まれた時からうちの部屋なんやぞ!
私が緊張する訳なかろーもん!』
いや、だから分かってますってば。
ヒトゥリ様は無神経なんかじゃないですよ。
ほら、家の人間として、不馴れな子に気遣ってあげて下さい。
『おっ、そうね』
「ふたりとも、麦茶淹れましょうね。ちょっと待ってて」
ヒトゥリデは優しくランコとワン太に声をかけ、くるりみんなに背を向けた。
「あ、ヒトゥりん、私のも」
「ヒトゥリちゃん、私のも」
「あ、じゃあ僕のもお願いします」
『……だれが無神経なんだかね』
心でため息をつく様にして、我が主人は麦茶の用意に向かうのであった。




