2話
古都、エルフ自治区「ホー」
その中心は観光地であり、ショルトカ家の住居でもある旧王城。
その脇を堀の様に流れるオン川があり、橋を渡りまっすぐ2キロも無いくらいに、自治区で最も賑やかな商業都市「イヅィーカ」がある。
そのイヅィーカとホー城を繋ぐ道が、この自治区のメインストリート。
かつての城下町の佇まいは今もなお残っており、城に近づく程立派で閑静な住宅地になる。
無論、メインストリートには絶えず商店等が並んではいるが。
とまあ、歴史が古いだけの旧王都には、これと言った目玉があるわけでなく。
その古さがいいという人にはいいのだろう。
旧王城から少しだけ川に沿って下った所に建つ、周りより大きな邸宅、いや豪邸と言うべきか。
月の光を反射する川面と、その上にせり出す形のバルコニー。
窓の外には、風に髪を泳がせている少女の姿がひとつあった。
長い赤髪は部屋から漏れ出る光を受けて輝き、美しく整った顔とともに、夜の闇の中で淡く浮かび上がっている。
彼女はひとりため息をついた。
「絶対あの女、許さない」
美人が雰囲気出して立っていると思ったら、なんか眼光鋭く恨み言を吐いている。
「あの泥棒猫、いや、あの耳長ネズミ!
私からあの人を奪いやがってええっ!」
ここはエルフ自治区だというにも拘わらず、その少女はエルフでなく人間。
父の仕事で首都「コウカ」からこの地へ越して来た、学校では数少ない人間の少女。
住む場所、建物からも分かる通り、父親の仕事も地位も学校では数少ない側の少女。
名前はセシリー・マツシマ。
大手家電メーカー社長マツシマ・コウスケの一人娘。
そう、御令嬢なのだ。
「キター! 悪役令嬢キター!」
叫ぶエルフ娘。
「いいよね、イケるよね、キーワード」
喜ぶエルフ娘。
「はい。一応フラグ的なの立てといたんで、キーワードには書かれてる様です」
「うん、いいよ、作者!」
おいおい、あんた何様だよ。
って、大体登場人物が知っていい情報じゃないと思うんだけど。
「私くらい高い精霊力があると感じちゃうのよ、あんたの思考が」
「はあ?」
今の世代にそんな力ある訳ないじゃん。
おっと。
人間に政を譲る事にしたエルフ王は、王都「ホー」とその周辺の統治のみを求める。
政権委譲は平和裏に行われ、世界中のエルフ族はこの自治区「ホー」に集まり表舞台から退いた。
それはもう4千年も前の話。
現代の人間社会に染まった世代に、もはや魔法を使いこなせる者などほとんど居ないのだ。
「ヒトゥリ様に僕の声が聞こえるのは、一応召喚者だからじゃないの?」
僕は推論を言ってみた。
根拠はないけど、他に思い当たるフシがない。
僕のナレーションをヒトゥリデ以外の者は聞こえないのだから。
「一応じゃないでしょ! ちゃんと召喚しましたっ!
わ・た・し・がっ!」
やたらムキになっている。
ただでさえ19にしては幼い顔が、もっと子供っぽく見える。
「どうやって?」
「ムムッ、そりゃあ、魔法陣書いて、さ。
ぐるぐるって……」
「精霊魔法って魔法陣書いたっけ?」
「書くもん! 書いたんだもん! 私的なやつ」
言った後、プクーッと頬を膨らませ顔を真っ赤にしている。
耳の先まで赤くなっていた。
まあ何魔法かは分かんないけど、ヒトゥリ様は魔法の勉強を一生懸命やってはいる。
やってはね。
やってもセンスが無いのだ。
勿論精霊力も。
「貴様に分かるとかっ? 精霊力が見えるとかっ?」
またムキになっている。
ホント、折角可愛い顔してんのに、怒るとエルフ語で捲し立てる。
もったいないなあ。
「…………あ、ああ。
セシリーちゃん、悪役令嬢とは、思わなかった、なあ~」
唐突に話題を変えてきた。
まあまあ、そこはつっこまず。
確かにセシリーさんは僕も驚いた。
学校ではお淑やかというか、オットリといった感じ。
僕も同じ人間族なので、何かと接する機会が多い。
「エルフに彼氏を取られたみたいね。
これから嫌がらせやるのかしら……」
ヒトゥリデの表情にも疑問の色が浮かぶ。
彼女がそんな事をするイメージが湧かないからだ。
とまれ、悪役令嬢候補が見つかった。
彼女がそうであったなら、何とか仲間に引き入れよう。
見ず知らずの人物じゃないので、ちょっと気持ちが楽になった気がする。
家電の電化製品は魔道具から進化して電気を利用するようになっております。
純粋な魔道具店もあるんですよ。
ボインな駄目店主の店、あってほしいなあ。
読んでいただきまして、ありがとうございます。
次話もどうか、よろしくお願いいたします。