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3の8話

 私が「その話」を初めて聞いたのは、いつだったのか憶えていない。

 おそらくは婆さんの昔話のひとつだろう。

 桃太郎やかぐや姫などと一緒に、いつの間にか頭に入っていた物語。


 うちは両親が忙しく、家の事は全て婆さんがやっていた。

 世間でいう母娘の姿とは私の場合、婆さんと同じ光景だったのだと思う。

 まあ金持ちなんで、直接的な家事なんかはチネッテがやっていたのだろうが。


 だからといって、それで両親を悪く感じてなどいない。

 私はおばあちゃんっ子だったからな。

 ちっちゃい頃は矢鱈べったり、婆さんに貼りついている記憶ばかりだ。

 やっぱり少し、淋しかったのかもしれんな。


 婆さんの思い出で、寝る前にしてくれる昔話が大好きだったってのも憶えている。

 幼い私は「ドゲン王シリーズ」がお気に入りだったみたいだ。

 エルフ王ドゲンの大冒険、蛮族退治、反乱鎮圧……


 このシリーズは自分で本を読む様になってから、詳しく読んで更に好きになった。

 中でも私は隠居後の世直し旅編が一番好きで。

「その話」というのもそれらの旅を終えた後のエピソード、後日談的な内容だったはずだ。


 世直し旅編は、ドゲンが息子に王位を譲り隠居して、世界中を旅する物語だ。

 ともにトラさんとワンコさんを連れての御忍び旅。

 各地の悪徳領主らを懲らしめながらの世直し旅。


「ストロガノフ、儂の顔を見忘れたか!」

「んん? ハッ! ドゲン様!?」

「「控えい、前王の御前なるぞ! 頭が高い!」」

「ええい、斯様かような場所にドゲン様がいるはずがない。

 斬れ! 斬りすてい!」

「うおっほっほっほ……成敗!」

「「ハッ!」」 


 くう~っ!

 このお決まりのクライマックスがいいのだ。

 たまらん、このワンパターンさが、たまらん。


 ……何はともあれこの物語の後、世界は人間族に譲り渡され人間の時代が始まるのである。

 旧エルフ王家は旧王国首都周辺のみを自治領とし、現在に至るまで人間世界との友好的関係を築いている。


 私の憶えている「その話」は、この「大禅譲だいぜんじょう」直前の話だろうと思う。

 ドゲンは旅を終え、隠居城にて畑を耕す余生に入る。

 そして共に旅したトラさん、ワンコさんに密命を託した。


 世直し旅道中、ドゲンの手にはひとつの杖が握られていた。

 杖は世界にふたつと無いオリジナルのマジックアイテム。

 この杖の特殊効果は世に混乱を引き起こすという。

 ドゲンは忠臣2人にマジックレアアイテム「ドゲンの杖」をある場所に封印し、護らせた。


 私は「ドゲン王シリーズ」を読み漁ったのだが、このエピソードが一文も見当たらない。

 世に出ている新刊、古書、私が知り得たすべてのドゲン本に目を通した。

 だがやはり「ドゲンの杖」の話を見つける事は出来なかった。

 これはかなり婆さんの二次創作臭いな、とも思ってはいるのだがな。



 コミケで妖怪物のコスプレがちらほら目についた。

 カヨちゃんに聞いてみると、最近ちょっと人気が出てきたとの事。

 良し悪しを知らずに判断するのは、自らを愚者と認める様なもの。

 先ずは本物を知るところからと、近くの心霊スポットとやらを軽く回りに聞いてみた。


 ダントツに、いや、一択で「わんわん峠」だった。

 美術部の連中でさえ知っていた「わんわん峠」の恐怖体験や噂話の数々。

 その話を聞きながら、ふと、婆さんの昔話「ドゲンの杖」の事が頭に浮かんだ。


 ミチが口にした、山に近づくと聞こえる犬の遠吠え。

 たったそれだけだが、やけに引っ掛かった。 

 ワンコさんは狼の獣人だったはず。

 ひょっとして……


 私は婆さんの書斎から、エルフ王国時代の封印や結界の事が書いてある本を調べた。

 もしもあの場所に「ドゲンの杖」を封印した場合、どう守ろうとするかを想像する。

 山に結界を張り、麓の峠道両方向を忠臣それぞれが守り侵入者を阻む。


 これはひょっとしたら、ひょっとするぞ!


 私は皆を誘って肝だめしの名目で、調査に向かう事にした。

 噂のスポットは崖道入り口前だが、私だけ興味本意とか言って頂上を目指してみよう。

 そう考えていたが、本当の興味本意で皆も登ると言い出した。

 まあ、私が着いていれば人狼の数人ならば追い払えるし、ナツキとミチならふたりで1体位は相手を出来るだろう。

 昼間に不覚はそう取るまいと、皆で登る事にした。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 目の前のベッドで若い男が寝息を立てている。

 ワンタロウ・ワンコ……

 間違いない。忠臣の末裔だ。


 思わず摘まみ食いしたくなる可愛い寝顔だが、私はそんな欲望と本能にのみ生きる畜生ではない。

 好みもちょっと違うし、ナツキの命の恩人だしな。

 そう、ナツキを助けてもらった……


 今回の目的、結果はビンゴであったのだが、内容の方は実に情けない。

 危うくナツキが物の例えでなく、本当に命を落とす所であった。

 結果オーライだった。


 この少年には大きな借りが出来てしまった。が、それと我が野望とは別問題だ。

 延滞料をたっぷり付けて返してやるから、しばらくは我慢してもらおう。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「おおっ、出て来たじゃない、ドゲンの杖」


 おー、出て来ましたねえ。 

 やっぱり最初っから主犯を見ときゃ良かったんですね。

 えらく遠回りしてしまいましたよ。


「……いや、あんた、わざと回り道したんでしょ」


 ギクッ!


「なにがギクッよ、それもわざとらしい。

 どうせ分かってて勿体ぶってんでしょ」


 さすがヒトゥリ様、僕は流れが全部見えてますからね。

 まあ、小出し、小出しって感じで。


「コメディアンのキンチャーンって人がね」


 ああ、ちょっと昔に大人気だった方ですね。


「そう、その人がね、引っ張れば引っ張るだけ客は期待する。

 大した事ないネタは、溜めずに即言えって」


 ………………。


「ってか、期待もしてないけど」


 この時は、まさかダイヤ一味いちみの過去に、自分が絡んでくるとは思ってもいないヒトゥリデなのであった。


「ええっ! どゆこと?」

 

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