3の5話
僕の見廻り当番は土日のお昼過ぎから夕方まで。
まだまだ半人前なんで、夜はやらせてもらえない。
今は経験をしっかり積んで、1日も早く夜のチームに入れる様にならないと。
僕は椀子椀太郎。
村の男として、勤めは一生懸命にやる。
村長の息子だからって特別扱いされてる訳ではない。
お勤めが土日だけなのは学校があるからだ。
僕は4月からコウカ東高校、カヒガシへ通っている。
本当は父さん……いや、父上みたくコウカ高校へ行きたかったのだが無理だった。
進学校だとカヒガシは2番手。
3番手のホー高校は伝統だけで、進学がホー大学ほぼ一択なのでヤメにした。
まあ、生徒が8割エルフなのでそれを理由に行きたがる者もいる。
従兄弟の椀吉なんかは、
「来年絶対ホー高入って彼女作る!
エルフだったら誰でもいい」
とか言っている。
じゃあ男でもいいんだろうか。なんてね。
エルフだから男も美形なんだろうなあ。
イヤイヤ、さすがに男は無理だろう。
一旦村の外に出れば、瞬く間に辺りはただの森林となる。
祖庸調の時代から、僕らの村は世界から自らを隔離させてきた。
あ、まあ、だから祖庸調は納めてないんだろうけど。
その先人たちが綿々と紡いできた、この村の秘匿性を僕らも継いでいかなくてはならない。
だから見回って、人が偶然村に入ってしまう事を防ぐのだ。
最近この峠が心霊スポットになっちゃって、気を抜くとワラワラ辺りに人が寄ってくる。
休み前の夜なんか相当なモンらしい。
だから先輩方は、相手がケガしない程度に怖がらせて追っ払う。
ってか、それで余計評判になって、次から次へとお客さんがやって来ちゃうんだろうけど。
いっそ入山料でも取って商売にすれば大繁盛だと思うんだよな。なんちゃって。
僕はそんな取り留めの無い事を頭に浮かべながらも勤めをこなしていた。
まあ、走るだけなんだけど。
この時間ははっきり言って暇だ。
だから半人前の僕が担当している。相棒もいない。
こんな明るい時分に肝だめしもないだろう?
とは言え、たまにチラホラ現れはする。
昼でも薄暗い森の中。
夜は入れない女子学生なんかがこの時間帯に数人でやって来たりする。
だから丁度いい経験値稼ぎの相手になるのだ。
心霊スポットの「崖道の手前」に着いた。
ここは国道から旧道の小道に入ってすぐの場所。
崖道は急斜面で足場も悪いから登って行こうとする者はそういない。
道を登りきると結構見晴らし良くって、違った意味で人気スポットになると思う。
さてさて、この心霊スポットでの噂は確か……
ここ「崖道の手前」に来ると、峠の名前でもある犬の鳴き声が聞こえて来る。
てか犬じゃないから。狼だから。
厳密にいうと狼でもなく、真神といって信仰の対象にもなる聖獣ですから。
んで、崖道の斜面の上に人影が見えて……来る……
んん? 何だ?
人影が……見えて来た!
いや、落ちて来た!
「いかん!」
僕は思わず叫んで、人影が落下すると思われる場所に駆ける。
あれだけ地面と離れているのは、一番角度のある箇所で跳ねるか何かしたのだろう。
このまま落ちれば確実に死ぬ。
この地は恐怖されるのはいいが、調査されるのはマズイ。
かつては命を断って侵入を阻んだ時代もあったらしい。
だが現代では事故死したって調査が入る。
警察やら消防やら。
僕が怒られるっ!
落下予想地点には間に合った。
しっかり身構える余裕もある。
相当な衝撃が予想されるが、生半可な鍛え方はしてきてない。
ショックを吸収するシュミレートも脳内で完了。
落ちてくる影は大きくなり、姿もはっきり見えてくる。
どうやら女の人らしい。
どうやら若い女の人らしい。
どうやら、すごく、美人、らしい。
ゴメン、ランコちゃん。
美人、抱き締めちゃうけど、浮気じゃないから。
僕は心の中で、大好きな許嫁の少女に謝罪しながらジャンプした。
落下する縦方向の威力を、斜め上に力を与えて横に勢いを逸らす。
抱いて衝撃を緩和してから、崖道の斜面を数歩真横向きに駆けてもう一度跳ぶ。
足腰腕にかなりの負荷がかかるが、父さんのシゴキに比べればっ!
空中でふと腕に抱いた女性を見た。
……美しかった。
綺麗だろうと予想してはいたが、それ以上だった。
何故だろう。
胸が……
締め付けられる。
着地で絶対彼女に傷ひとつ付けない様、僕の体全体を使いショックを吸収する。
草地に足を着き、膝で衝撃を吸収。尻、腰、背中と地面に着け、スライドさせて彼女を守る。
腕の中に目を移すと、気を失っている彼女が、着地の振動で目を覚ましそうだ。
僕は心底安堵した。
ゴメン、ランコちゃん。
僕は浮気じゃない……
本気でこの女性に、恋をしてしまったらしい。
薄れゆく意識の中で、大好きだった許嫁に僕は謝罪した。
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「何よ! ワン太イイ奴じゃない」
え?
女性的には浮気っぽくないですか?
ちょっとだけの美形に目が眩んで軽薄じゃないですか?
「人命は何物にも代えがたいでしょ。違う?」
……まあ、だから言ったでしょ、根はいい奴っぽいって。
「ナツキ君が美少年過ぎるのが罪なんじゃない? ププッ」
……ところでヒトゥリ様、このどうでもいい会話、居ますよアピールでの発言ですか?
このままじゃ存在感消失という。
「バ、バッカじゃないの!
そんなわっけないじゃない!
超絶美少女の私が、存在感無くすなんてあっりえないから!」
もうキャラ、ブレまくってますね。
「キャラ言うな!
貴様こそ、超絶美少年の登場でキャラ薄くなっちょるクセにっ」
う、薄くないもん! 全然薄くないもん!
………………。
「……やめよ。不毛すぎる」
同感……
それはそうと、覚書の「お」も出なかったですね。
「うん。でも前の回想シーンでミチ君? 彼が言ってたでしょ。
ナツキ君が切っ掛けで今回の騒動が起こった、みたいな事」
そうですね。
もう少し先に何かあるんでしょうね。
このあとも続けて見てみましょう。
ではヒトゥリ様、今回の回想シーンで注意すべき点は?
「ええっ!
……椀吉、アイツ来年入ってきたら潰す」
ある意味正解!




