3の3話
前王ドゲンに最も忠誠心厚き2人。
その意思を引き継ぎ子々孫々。
4千年間、たったひとつの命令を真面目に守った臣下の鑑。
まあ、真面目と言うより生真面目、クソ真面目、愚直、馬鹿真面目。
自分達が守っている物の重要さとか、世に出た時の危険性とかを理解した方がモチベーション上がると思うけど。
いや、そもそも守る事自体に使命やら誇りを感じてんのなら関係ないのか。
やはり帰ってドゲンのじいちゃんに聞くしかないかな。
問題はじいちゃんが4千年も前の事、憶えてっかってとこなんだけど。
『え? その辺りの話題、いつもお父さんと言い合いしてるじゃない』
ナンバ様と言い合いしてるからこそ、記憶がはっきりしているのでは?
『た、確かに』
取り敢えず、帰ったらドゲン様には聞いた方がいいでしょうね。
ダメもとで。
『うん、ダメもとで』
「憚りながら……」
先程の表情と同じく、申し訳なさそうにワンダユウさんが手を挙げる。
「わしがまだ若き頃、我が屋敷の書物蔵の奥で見たのですが」
皆の視線がワンコ村ワンダユウ村長に集まる。
「初代椀太夫覚書にて、僅かに記述があった様に思います」
「「「おおーーっ」」」
「それには能力の事が書いてあったの?」
「臣下の身にて不遜とは思えど、好奇心を抑えられず……」
「で、あったの? 記述」
「はい。しかし畏れ多くチラとしか見ておらざれば……」
「ええい! 勿体ぶるな! わしらも文句言わん」
そうそう、引っ張り過ぎだぞワンダユウ!
こういうのはどうせ詰まんないオチなんで、溜めずにスパって言っちゃわないと。
『お前がうるさい!』
……スミマセン。
「うむ……その覚書にて初代様が記すには……」
視線はもう一度ワンダユウに集まり、沈黙にて静寂が周囲を包む。
皆固唾を飲んで、ただ次の言葉を待つばかり。
ワンダユウは記憶のままにゆっくりと、その記述を申述べた。
「ソノ杖ヘンゲノ杖也……と」
「「「おおーーっ!」」」
『変化の杖キターーーーーーーーッ!!』
みんなの感嘆の声よりも、ヒトゥリデの心の歓声はテンションが上だった。
無理もない。
エルフだって……猫耳できる!
ってアイテムかもしれないからだ。
『私はね、自分以外に変身しようとは思わないの。
でも変化のメカニズムとか調べて、自分の魔法に活かせると思う』
ヒトゥリデは事この野望に関しては、至って真摯。
エルフ耳を愛しつつも、猫耳を愛し、真面目で一生懸命。
何処かで聞いたようなフレーズだな。
昔のアニメか。
『とにかく! 私が先にいただくわよーーーっ!』
いやいやいやいや、盗っちゃダメでしょ。
あ、いや、いいのか?
『取り敢えず研究して、んで、おじいちゃんに返すから。OK?』
まあ身内ですからね。
ではワンダユウさんには書庫をもう一度調べてもらって、ニャンダユウさんにはケンシ側の蔵にもないか探してもらいましょう。
『ああ、そう、それ私もね、思ってた』
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といった回想シーンを交えてみても、ほんと、ワンダユウさんに聞いといて良かった。
『ほんと、おじいちゃんを当てにするだけだったら大変だったわ』
何にも得るもの無しですもんね。
「「あははははは」」
思わず声に出して笑う主従。
「ヒトゥリデちゃん……ずいぶん、楽しそうなのじゃ……」
あ! 忘れてた。
僕らから少し離れてポツネンと寂しそうに佇む影。
御供に連れて来てたランコをすっかり失念してました。
「「イヤ~~ン! 何この子~~っ!」」
うん。
間違いなく友人2人の反応はそうだろう。
「や~ん、モフッ娘よ」「超可愛い」
ランコはサーベルタイガー化して数時間。
獣化に時間を掛けなかった為、人化はゆっくりと行うらしい。
急な変化は体への負担が大きいのだとか。
今現在、牙と爪は元に戻ったが体毛はフサフサなのだ。
「な、何じゃ? 何なのじゃ?」
「2人とも違います。モフッ娘のじゃ子です!」
「「イヤ~~ン!」」
「やめろ、やめるのじゃーっ」
やはりランコは愛されキャラなのだ。
4人の愛情表現をたっぷり身に受け、ノコノコついて来たのは間違いだったのかと少し後悔するランコであった。
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「椀太郎、其方も行かんでよかったのか?」
「はい。今のままでは申し訳なさ過ぎて。
せめて手土産のひとつなりと持って行かねば」
「フフフ、さもあろうな」
ここは椀子家書物蔵。
仕事の手を休める事はせず、久しく出来ていなかった親子の会話をする2人。
少し心穏やかなのを不敬だなと、心で苦笑する椀太夫。
あの後、自分の村へと戻った椀子家一行は、それぞれがやるべき行動を取る。
配下は交代で峠道のコウカ側を今まで通り監視するものと、竜王山の周囲を警戒するものとに分かれた。
いざダイヤモンド盗賊団が侵入して来れば、広い竜王山の麓で彼女らを捕らえる事は容易でない。
だが何もしないよりは、少しでも可能性のある事をやっておきたいのだろう。
村長親子はヒトゥリデに頼まれた、ドゲンの杖に関する資料を探すべく蔵へと直行した。
膨大な量の書物がこの書庫にはある。
代々椀子家はインテリが多いようで、蔵書は年々増える一方なのだ。
こちらもやはり簡単な事ではないらしい。
忠臣の心得として、主命に疑いを持つかの様な行動は取れないのだ。
端から見れば、杖の詳細を知る事が不忠に繋がるとはとても思えないのだが、当人達にとっては主の裁量を疑う行為に等しいのだろう。
本のほとんどが、杖とは無関係だった。
「んん?」
椀太夫は見覚えある一冊の書物を手に取る。
導源公記と書かれた手記だった。
若き日に読んだ、例の覚書だ。
「これじゃ!」
急ぎ頁をめくり杖の能力を記す箇所を探す。
竜王山の記述、この辺り……
「なっ!?」
「父上?」
「おのれ、女狐めっ!」
憤慨する椀子椀太夫は思わず怒声を上げた。
震える椀太夫の手にある書物、その開いている頁、そこには紙の破られた形跡が小さくしっかりと残っていた。
ダイヤモンド盗賊団行動の発端は、おそらくこの場所だったのだろう。
この破り盗られた紙片の内容が彼女らを突き動かした原因なのだ。
変化の杖。
現時点でのヒトゥリデ側が知る情報は、変身するんじゃね? その程度だった。




