3の1話
「おお、ケンシコ、ワンコよう来たな。まあ、座れ」
ここはホー城からオン川を上流へ一刻ほど昇った場所にあるドゲンの隠居城。
その城内奥座敷に直臣2人が訪ねて来た。
ドゲンはちゃぶ台に手をつき胡座を組む。
ここは城とは名ばかりの、簡単な堀と塀があるちょっと大きめの屋敷といったもの。
ドゲンは息子に家督を譲ってからは政には口出しせず、この城の庭で野菜等を作って日々を過ごしている。
「我らは殿の臣であり、弟子であります。
お呼びとあらば何時でも馳せ参じます」
「如何にも」
勧められるまま忠臣は膝をつくと、そう言ってから座礼をする。
そう畏まらんでいいものをとドゲンは思うのだが。
「うむ、実は2人に頼みがあってのう。
聞いて貰えんだろうか」
主君の頼み事を断る発想などあるはずもないが、そこは口を挟む事はせずただ頷く2人。
ドゲンは気持ちよく話を先へ進める。
ナンバに玉座を渡してしばらく経つが、どうやら奴めは世界を人間に譲るつもりらしい。
まあ、時代は既にワシらのどうこう出来る所を越えておると思う。
仕方のない流れじゃよ。
じゃがな、なんでんかんでん全部人間に渡さにゃいかんちゅう事はない。
いや、渡しちゃイカン物がある。
ワシの所持するマジックアイテムの中でも、特に世に出ては混乱を引き起こすと思われるレアアイテムがそうじゃ。
コイツは悪用されると大変な状況になるのでな、おぬしらに守って貰いたいのじゃ。
これから世界は人間の手に渡るが、ホー城一帯の地域だけはワシらエルフが所領と認めさせる。
して、アイテムは竜王山に封じ、前門をケンシコ、後門をワンコに守護してほしいのじゃ。
ケンシ家とワンコ家。
ドゲンから忠臣への「頼み事」という形の密命を子から孫、さらに何代、何十代も。
実に4千年以上もの永きに渡って引き継ぎ守ってきた。
彼らの守護する竜王山--今のわんわん峠付近に封じられているというアイテム。
そのレアマジックアイテム「ドゲンの杖」が奪われてしまう。
そんな危機が正に、やって来ようとしていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
村長屋敷に駆け付けてみれば、思ったよりも損傷は軽微。
いや、パッと見て皆無。
門の内側からは黒煙がモクモクと、大空に広く立ち登っているというのに。
「何じゃ? どうなっておる」
村長は先程の爆発音と広がる煙にある程度の被害は覚悟をしていたのだが、拍子抜けともいえる光景にかえって妙な胸騒ぎを感じた。
「影虎! 鍵じゃ、奴らの狙いは!」
「何じゃと!」
横に並んで走っていたワンコ村村長の上げた声に、一瞬で背筋が凍りつく。
「詳しく話を」と友の方を向こうとした時、視界の端、屋敷の屋根上に人影が動くのを目に留めた。
アーッハッハッハ!
大きな笑い声とともに、4人の姿が黒煙を背景として屋根の上へ現れた。
「ダイヤモンド盗賊団参上!
ケンシ家、前門の鍵、確かに頂戴した!」
全身黒のボディースーツに身を包んだ、線の細い4人組。
目と口許の出したマスクを被っているが、全員見える部分は端正で女性的だ。
少なくとも今話している真ん中右側の人物は、声とスタイルで確実に女性だ。
「そんなバカな……」
「ええい、遅かったわ! してやられた!」
「椀太夫?」
「影虎すまぬ、後門の鍵は奴らに盗まれた」
「なんと!」
驚愕するエイコ村長を尻目に、盗賊団の女はもう一度高笑いを響かせる。
どうやら彼女がリーダーなのか、笑った後腕組みポーズで話を続けた。
「お前達が楽しげなご遊戯をしている間に、私らは手薄な屋敷から鍵をチャチャッって寸法だ」
「ダイヤちゃん、折角チャチャッと盗ったんだから、ササッと逃げるべきでしょ!」
「カヨ……じゃなくてハートちゃん。
私がそんなコソドロみたいな真似、出来る訳なかろう」
屋敷が手薄な所を盗みに入っておいて、何を言っているんだ? この人。
「とにかく、秘宝ドゲンの杖は我らが頂く! そう宣言しよう!」
ダイヤと呼ばれた女はそう言ってまた高笑いした。
名前からして、やはりこの女がダイヤモンド盗賊団のリーダーなのだろう。
マスクの下から流れる長い黒髪、大きな瞳と艶やかな唇等、見えている部分からだけでも充分にその美貌が窺える。
彼女の左、今ツッコミを入れていた、おそらくコードネームが「ハート」なのであろう女性。
口振りからして彼女と対等な関係に近い様だ。参謀とかだろう。
背が低く黒髪が腰まで長い。
リーダーほど美しさは感じない。が、賢そうな気配はする。
左右の端に立つ2人は背格好がほぼ同じ。
若干参謀側の方が痩せている。が、どちらも胸が出ていないので男女は判断出来ない。
出来ないのだが2人ともに美しい顔なのは分かる。
特にリーダー側の方はマスクをしていても美少女なのがハッキリ分かる。
そう、4人とも若い。
どう見ても高校生くらいの少女達に見えるのだ。
「ナツさん!」
今まで大人しく反省している様だったワン太郎が声を上げた。
「何故だ、何で僕を騙した!」
ワン太郎はどうやら一番右端の、リーダー脇に立つ超絶美人に向かって話している。
たぶんワン太激変の理由が彼女なのは薄々……いや、丸わかり。
「人を平気で騙せる様なあなたじゃない! どうして」
「ご、ごめんね、ワンタロウくん……僕、僕……」
ええ! 僕?
「アーッハッハッハ、馬鹿息子!
お前はスペードを女だと思い、ベーラベラ、ベーラベラ、情報垂れ流しおって」
盗賊リーダーダイヤがまた高笑い。
ちょっと待て、あの美少女が男だと!
やめろ!
テルミーナの存在が、テルミーナの価値が薄れるじゃないか!
『あんた、それどころじゃないでしょ!
何なのドゲンの杖って。
さっきナレーションしてたでしょ、大変な事になるって』
ああ、そうでした。
ヒトゥリ様は冒頭の話が聞こえてるんでしたね。
『今取抑えないといけないんじゃないの?』
いや、無理でしょう。
既に村長の手勢が動いてはいますが。
屋根上4人の盗賊達の背後に同数の影が忍び寄る。
無駄話の間に村の手練れが捕縛しようと、ロープを手に近づいていた。
「おっと、もうそろそろドロン致しますか」
そう言うが早いかダイヤは残像を残すかの如く移動、一瞬で後方2人を弾き飛ばした。
リーダーの言葉を合図に端の盗賊は、それぞれ近くの1人ずつを同じ様に飛ばす。
「煙幕!」
ハートは叫ぶと手榴弾状のアイテムを正面に投げる。
後に続いて捕縛者を退けた3人も放射状に同じ物を投げた。
その煙幕弾は地面に着くと強烈な音とともに膨大な黒煙を吹き出してくる。
「これは先程の! おのれ、馬鹿にしおって!」
村長はそう言って歯噛みした。
襲撃かと思われた爆発音はこの煙幕弾だった。
実際音だけで爆風等もない。
目眩ましだけの目的で殺傷能力は皆無のアイテムの様だ。
「貴様ら、屋敷の回りに逃げ場は無い!
大人しく下りて来い!」
この騒動の間に屋敷にはほとんどの村人が集まっていた。
屋敷は確かにぐるり鼠の這い出る隙もない。
村長は若い盗賊達に投降するよう呼び掛けた。
さっきの捕縛しようとする辺りを見ても、命まで奪おうとは思っていないらしい。
「だからドロンすると言っただろう?」
しかしダイヤは不敵に口角を上げる。
周囲の煙が何かに吸い寄せられるが如く動きを変える。
その動きが激しく掻き乱れ、上空から巨大な扇風機に似た物体が下りて来る。
物資の空中運搬魔道具「どろん」だった。
しかも大型物資運搬用「どろんYS」だ。高級品だ。
「どうだ、私は金持ちだからな!」
ダイヤは勝ち誇ったように言い放つ。
そしてダイヤモンド盗賊団は吊り梯子に掴まり大空高く去っていった。
リーダーの高笑いを残して……
第3章はお宝争奪戦の気配。
綺麗なお姉さんは嫌いですか?
僕は大好きです。
読んでいただきまして、ありがとうございます。
次話もどうか、よろしくお願いいたします。




