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2の8話

「これはどういう了見じゃ、ケンシ殿」


 広い庭に面する縁から一歩入った座敷で、初老手前といった身なりの男が不機嫌に尋ねた。

 その男の脇で控える数人の男達も、口々に不平を漏らしている。


 ここはケンシ村の道場。

 先程奥の間よりこの座敷に通されたのは、ワンコ村の村長むらおさ椀子椀太夫わんこわんだゆうとその一行。



 ワンダユウは向かいに座した、この村の長である旧友を睨み付ける。

 そして己が家人に分からぬ様、ひとつ溜め息を吐きながら彼は思考を巡らせた--



 本来、形だけの立ち合いになるであろうと、屋内で行われるはずだった嫁取り仕合。

 それが急遽、庭先で仕合うと言い出した。

 どうやら嫁に恋人がいたとの事だ。

 そしてその男は死合いを望むのだという。


「バカにしおって!」

「当家を愚弄しておる!」

「そっちがその気ならば上等じゃ!」


 家中の者共の気持ちは分かる。

 散々待たされた挙句、手の平を返された様なものだ。

 わしも正直、不愉快極まる。

 もとを正せば、椀太郎めの我儘を許したわしが悪いのかもしらんのだが。


「ワンコ殿、相済まぬ。

 わしの目が届かなんだ」


 影虎エイコの奴が謝ってきた。

 かつての友でありライバルも、互いの立場が邪魔をして、腹を割って話す事もなくなってしまった。


「そもそも、斯様かような争いにせんが為と、貴公が申してきた縁組ぞ!」


 わしはつい苛立ちをおもてに出し、きつい口調で申してしまった。

 此処はなるべく穏便に済ませておきたいのだが、わしもまだまだじゃの。


「いやはや、仰せの通り。面目御座らん」


「んな、何とも軽く……」


 奴とはまだ椀太郎、獰虎という名の頃に、ドゲン様の元で一緒に修行した仲。

 昔からあまり深く物事を考える男ではなかったが、死合いになろうかというこの状況でこれは。

 どうにも解せんな。


 ワンダユウは心でそうひとりごち……


『ねえ? これ続くの?』


 ………………。


 ヒトゥリデが割って入って来た。


 ワンダユウなんてふざけた名前の村長視点っぽくナレーションしてたんですけど。

 いや、実際ワンダユウさんの心の声をちゃんとそのままお伝えしてましたよ。

 あのですね、今、私、お仕事してるんですけど。


『何かここだけ時代劇やってんだもん。

 私は目立たない様に隅っこでランちゃんと見学だし。

 あの、私、つまんないんですけど』 


 仕方ないでしょ。

 ヒトゥリ様がランコの味方しちゃったら、あっち側は逆臣みたくなっちゃいますよ。

 ワン太夫さんもニャン太夫さんも大事おおごとにはしたくないみたいですし。


『分かってるわよ。

 暇だからさっさと戦って』


 ………………。


 はい。仰せのままに。


『ねえその台詞、ちょっと前から言ってるけど、あんた従者だからね。

 執事気取ろうとしてるかもだけど、従者だからね』


 分かってますよ。

 うるさいなあ。

 邪魔しないで下さい。



 道場の表門から入り建物を左手へ回って行くと、道場と母屋で囲う様な庭先に出る。

 初めから人数が打ち合えるよう造られており、地面に砂利等敷かず土が固めてある。

 かつてこの庭土に何人の血が吸われて来たのであろうか。


 そして今日もまた一人。

 おそらく血泡を庭に広げるのはこの者であろう。

 皆がそう思える風貌の若者。

 女子おなごの様な顔に華奢な体躯。

 白装束に身を包んだ、テルミーナこと栗原テルオがそこにいた。


「私の名はテルミーナ! ランコ殿の仕合、認める事は出来兼ねる。

 よってその仕合、私が代わってお受け申す」


 僕は嫁取り仕合の、恋人が阻止する時の口上を述べた。

 ケンシ側では予定通りの為、そう心に乱れはない。

 だがワンコ家の者達の心中は騒しかった。


 あやつめ、本気だったか!

 何じゃ、美しいおなごのようじゃ……

 ふざけおって、死を以て詫びよ!


 無用な争いは好まぬ者、誇りを汚すなと苛立つ者、仕事上仕方なしに見てる者。

 様々な思考が渦巻いていた。

 

 ケンシサイドではランコひとり、ちょっとキュンと来たらしい。

 それは置いといて。


「私は正直、あなた方を傷つけたくはありません。

 ですから素手で、お相手いたしましょう。

 もちろん、そちらは斬り捨てるつもりでどうぞ」


-なにい?-


 ワンコ側の人間全ての感情がカチンとなった。

 全員テルミーナを睨み付ける。

 さらに構わず、


「私に傷のひとつでも付けてみよ!

 負けを認めてその場で腹を切ってやろう」


 と、挑発してみたり。


「ぬかしたな!」

「勘弁ならん!」

「青二才が!」


 我慢ならんと一斉に座敷から罵声が飛んできた。

 会場の興奮はピークに達し、一触即発って雰囲気だ。


「やめい!

 ……そなた余程の自信じゃが、この場にて一度出した言葉は戻せぬぞ」


 村長ワンダユウさんが静かだが凄まじい怒気を孕んだ口調で言ってきた。

 その言葉で一息に、緊張と静寂がこの場を支配してしまった。

 

「まあ親父、このオカマ野郎ボコりゃあ、ランコは俺のオンナ。

 それでイーんじゃネ?」


 折角の空気を壊してしまったのは、茶髪、鼻ピアス、青サングラスと、どう考えても不良ザコキャラ。

 何でコイツがこの場所にいるの、って奴が僕の正面に歩いてきた。


 彼の名は椀子椀太郎。

 ワンコ家の次期当主。

 ランコの許嫁、ワン太君だった。



 

何か違う小説っぽくなってますね。

うう、悪ノリかなあ。

実は僕、藤沢作品が大好きなのです。


読んでいただいて、本当にありがとうございます。

次話もどうか、よろしくお願いいたします。


もうちょこっと、時代劇テイストにお付き合い下さいませ。

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