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2の7話

 ランコの父親が村長むらおさを務めるケンシ村は、すぐ前も見えない程に密集した木々を越えた先に現れた。

 村に入った途端、暗闇から陽の当たる場所へ飛び出た様に、一気に視界が開ける。

 おそらく木々の植え方等、外から見つからない工夫があるのだろう。


 村の中心部に向かっていると思われる道を3人進んで行くと、先頭を歩いていたランコを見つけた村人がいたらしく、

「いたぞーっ」とか「ランコだーっ」という声が聞こえてくる。

 彼女は本当に敵前逃亡していたらしい。


 やがて奥の方から慌ただしく、十数人の村人たちが砂埃を上げながら駆けてきた。

 全員手には太刀を掴んでいる。

 近付くにつれ、険しい表情もはっきりと見えてくる。


「ランコ、どういう事じゃ!」「お嬢、何しておる!」

「後ろの2人は何者じゃ!」「何処をほつき歩いて!」

「ワンコの連中はもう待っておるぞ!」


 様々な言葉が様々な角度から降って来た。

 まあ、どれもランコへの非難だというのは直ぐ分かる。

 姿を消した彼女を、今の今まで必死になって探していたのだろう。


「皆の者、悪かったのじゃ。すまぬのじゃ」


 ランコは深々と頭を下げ、集まったみんなに謝った。

 

「ランコ様、道場でワンコ村の者達が待っておりますが……

 して、此方こちらのおふた方は?」


 集団の中から割って出るようにして、落ち着いた雰囲気の肩幅広い若者が声を掛けてきた。

 が、直ぐにランコの後ろの僕らに気付くと、こちらをいぶかしむ様に見詰め尋ねてくる。

 そう、この村は隠れ里なのだから。


「この者は客人で、わらわの恋人役じゃ」


「「「はあああああ?」」」



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 とりあえず、広場に場所を移して皆に説明をする。

 ふたりはホーの友人で、今日の仕合を心配して駆けつけた事。

 恋人ではないが、結婚にはまだ早いと阻止する為に立ち合ってくれる事。

 すごく綺麗だけど男だという事。


 最後が一番驚かれた。


「しかしお嬢、隠れ里に部外者を入れるのはどうしたものか」

「いやいや、真剣勝負を軽く見てもらっては困る!」

「おいおい、女子おなごみたいな御仁に死合いが出来るのか」


 またもや、一斉に言いたい事を言い出した。

 これは埒が明かんと、先程の美丈夫が一歩前に進み出た。

 が、その時……


「何じゃ、騒々しい!」


 通りの奥の方向から、野太い、だが威厳のある声が響いてきた。


ランは帰ったか! どうじゃ?」


「ち、父上じゃ……」


 僕らの前に詰め寄る様に集まっていた人垣が、サーッと2つに割れた。

 その真ん中を筋骨隆々な中年手前といった男性が歩いてくる。

 その足運びだけでも只者ではないと分かる。


獰虎ドウコどうなっておる!」


「ハッ! そ、それが……」


 ドウコと呼ばれた美丈夫の若者は気まずく返事を濁した。

 代わりに視線をチラとランコに向けて、それを追った村長らしき人物は我が娘をそこに見止める。


「ラー、ンー、コーッ!」


 広場全体を震わせる怒声が、ケモミミのじゃっ娘ランコを襲う。

 瞬間、彼女の耳がペタンと折れる。

 その耳を庇うかの様に両の手で頭を抑え、すぐにその場へしゃがみ込んだ。


「父上ゴメンなのじゃあ~っ!」


「謝るなら、初めからやるでないわっ!」


「ひいいいいいいっ」


 ズシン、ズシンと地響き上げて此方へやって来た村長。

 地に伏せた娘の後ろに部外者を発見する。

 見目麗しい黒髪美少女と、あまりの展開にどうする事も出来ずにキョドっている……

 ビクビク、キョドってオロオロしているエルフ娘に目が止まる。

 そしてその目は驚愕に見開かれた。


「ヒ、ヒトゥリデ様!」


 村長は声を上げるや否やその場にひれ伏し、他の者にも平伏を促す。


「者共、この御方はドゲン様の御令孫、ヒトゥリデ・ショルトカ様じゃ! 頭が高い!」


 ほんの一瞬の静寂の後、


「「「ははーーーーっ!」」」


 広場に立つ姿はヒトゥリデ主従ふたりだけであった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「この度は、このバカ娘の我儘わがままで、このような、ったく、このっ!」


 村長はやたらコノコノ言った後、ゴチンと娘にゲンコした。

 ヒトゥリデはうずくまるランコの頭を擦りながら、フォローを入れる。


「いえいえ、私もランコちゃんの力になりたいのです。ホホホホ」


 ケンシ、ワンコ両家は代々ドゲンじいちゃんの直臣で、ナンバ様の代になってからはドゲンじいちゃんの陪臣ばいしんみたいな関係だったとの事。

 因みに陪臣っていうのは、家臣の持つ家臣という意味。

 人間の世になる直前にじいちゃんからの密命を受けて、4千年もこの地を守っているのだとか。

 今でも家長の代替わりや年始などには登城し、挨拶するらしい。



 場所を更に屋敷へと移した後、基本ランコの言っていた話に口裏を合わせた。

 テルミーナはケンシ村長を後ろ楯に出場できる事に。

 気功の達人の彼には刃物は通用しないので、しばらく戦った後引き分けて帰ってもらう、という感じで行く事を話した。

 恋人役で現れる為、ランコにはしっかりと許嫁へのフォローを頼む。

 そこはランコが手紙にて子細を伝えるとの事。


 一応この作戦で、後は臨機応変とする。

 なんじゃそりゃ。


 だがもうかなり先方を待たせている。

 早急に作戦を決行しようではないか。


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