表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/72

2の4話

「な、生ネコミミ!」


 森の中にヒトゥリデの声が響く。


「しかも、のじゃっ娘!」


 ヒトゥリデの声、さらに追加。


 わんわん峠に何故か現れたケモミミ娘。

 わんわん峠に、にゃんにゃんネコミミ。


 さっきまでガクブル状態だったヒトゥリデは、鼻息荒く僕の背中脇から謎の少女を見詰めている。

 少女が脇差を抜いていなければ飛び掛からんという勢い。

 僕の状況説明を心で聞いて、幽霊ではないと分かったからだ。


「何なのじゃ、何なのじゃ!

 神妙にせんと痛い目遭わすのじゃぞ!」


 刃物を見ても怯えない僕らに戸惑う少女。

 最初は同じくらいと思ったが、仕草や雰囲気からして2つ3つ年下っぽい。

 この可愛らしさは確かに飛び掛かりたくもなる。


「テルオ、あいつを捕まえて」

「はあ?」

「研究材料」


 どこかのマッドサイエンティストか!


「こ、この、あやしい奴ばらめっ」


 ヒトゥリデの発言が聞こえたのか、少女が斬り掛かって来た。

 踏み込みから斬りつけまでの動作が速い。

 幼いが相当鍛練を重ねた所作だ。


 ドスッ!


 切っ先が僕の左太股にめり込んで止まった。

 女装してスカートの為、素肌に直接当たっているのにだ。


「なっ!」


 少女の目が驚愕に大きく見開く。 

 彼女のイメージでは膝の前面を斬り、素早く後退する。

 威嚇が目的で、その辺りなら大動脈を切る事はないだろうから。


 だが現実は、ゴムの塊に打ち付けた様な感触が手に伝わる。

 一瞬刃先が止まった所を、むんずと相手に掴まれた。

 素手で!

 刀身を!


 これはいかんのじゃ。


 野生の勘か、咄嗟に脇差を手放し後方に飛び退すさる。

 ある程度の距離を取り思案する。

 退くべきか、もう少し攻撃してみるか。

 脇差は無くとも、スピードと体術には自信があるのだ。


「この綺麗な刀、高価たかかったでしょう?」 


 テルミーナは無用心に少女へと近寄って行く。

 右手に刀身を掴んだまま、彼女の方につかを向けて、

「お返ししますよ」とニッコリ笑顔で差し出した。



「何じゃ、何なのじゃ!

 ワシは油断せぬぞ、人さらいめ!」



 完全に警戒している。

 あと一歩で刀を取れる距離で僕は止まり、少女の好きにさせる。

 が、「フーッ!」っと言って手は出さない。


「もう! ヒトゥリ様のせいですよ。

 完全に悪い人じゃないですか」 


「んもう、そんなんじゃないってば。

 お嬢ちゃん、私達は人さらいじゃないわよ」


たばかられはせぬ!

 うぬらはさっき言っておった、人体実験と!」


 やはりヒトゥリデのせいだった。

 彼女の横柄な言葉遣いは毎回その場を拗らせる。


「横柄やなかろうが! あっちの聞き間違えやろが!」


 そしてすぐ怒鳴る。

 しかも考えなしに。

 のじゃ子ちゃんが余計警戒するんじゃないの?


「んぐっ。

 ……お嬢ちゃん、誤解よ。

 私は研究材料って言ったの」


「似たようなモンじゃ」


「違うわよ!

 別にさらったりなんかしない。

 研究に協力してもらいたいだけ」


「…………」


「本当よ。

 私はあなたと仲良くしたいだけなの」


 珍しく真剣な眼差しのヒトゥリデは、相手を黙らせる声音で話し掛けた。

 それは真摯しんしさだ。

 真面目に向き合う態度は、そう無下にはしにくいものだ。


「私はね、獣人族の人達の耳、ケモノミミが大好きなの」


「はあ?」


「でも私エルフでしょ。しかも普通より耳長いし、似合わないの」


 ここだけ聞くと実におバカな台詞。

 だがヒトゥリデはいたって真剣。

 その言葉に嘘、偽りはない。


「そうじゃ、そなたはエルフなのじゃろう? 誇り高い」


「そこが嫌なのっ、嫌いなの!」


「…………」


「エルフ、特に私の様なハイエルフはプライドが高いの。

 神は自らを似せて人を創った。その人ってのはエルフでありハイエルフなの」


 ホーに住むエルフの心深い所にある感覚、いや、観念の様なものはこれだろう。

 しかし、この世界の人類が発生した経緯を考えれば仕方がない。

 先ずはエルフが誕生したのだ。

 誕生して支配していたのだ、ほんの4千年前までは。


「その神の子である象徴みたいな物がこの耳なの。

 長く尖った、ハイエルフの耳なのよ」


 そう言いながら自分の耳をそっと触れてみせる。

 その仕草にはいとおしさをも感じる。


「私はね、自分の耳が大好きよ。

 でもそれは宗教や種族の誇りやらで思いたくないの。

 私は私の心で、自由に、好きだから好きって言いたいの」


 ヒトゥリデはエルフの耳が嫌いなのではない。

 凝り固まった因習に似た考えが嫌なのだ。

 自分等を特別だと思う、その象徴とするのにずっと嫌悪している。


「でもそれで、何でワラ……ワシが研究の対象になるのじゃ?」


「そうそう!

 私はエルフだからって変に固執しないで、ファッションを楽しみたいの。

 つけ耳だって自由に楽しめる環境に変えたいの」


「ん?」


 のじゃ子ちゃんの質問には答えてる様で答えてない。

 ちゃんと答えてあげりゃいいのに。


「あ、ああ、ごめんね。

 要は一時的に部分的な、幻視か変化へんげ魔法を開発したいのよ」


「ほ~、それで?」


「んで、ちょこっとだけ、採血とかいい? あなたのネコミミの」


 ホントはちょこっとだけ、肉片で欲しいのだが、それを言うと折角作った今の空気を壊してしまいそう。

 それで妥協した様だ。

 上手く行けばコッソリ頂いちゃおう、とかも考えている。


「無礼者!」


 のじゃ子が怒った。

 ヒトゥリデの浅い考えが見透かされたか?


「我が一族を猫呼ばわりするのは許さんのじゃ!」


「えええええええーっ!」


 そこだった。

 ネコミミという言葉がダメだった。

 冒頭一発に生ネコミミってヒトゥリ様は叫んでいたけど……


「我らはサー……」


 んん?

 止まってしまったぞ。


「「サー?」」


「サー……バル?」


 いやいやいやいや、出来れば、それはやめて欲しい。

 

 

やっと少しフレンドリーになった気がした「のじゃ子」ちゃん。

ネコミミかと思ったら違うみたい。

一体なに耳なのか!

ってか先に名前聞きなさいよ。


読んでいただきまして、ありがとうございます。

次話もどうか、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ