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2の2話

 ヒトゥリデ・ショルトカは主人公である。


 この世界は彼女を中心に動いている。

 たとえ一時的に他の人物にスポットが当たったとしても、最後にはその事も彼女の物語を彩る一部となる。

 それが主人公という存在だ。


 僕、栗原テルオはナレーターであって主人公ではない。

 役柄的に先を見通し、いや見透視、他の人物の心が読めても動かせない。

 着地予定に向かっての操作は出来るが、着陸地点を変更する力はない。


 だから急なヒトゥリデの行動や発言には、見透す能力はあまり機能を果たさない。

 ずっと先の方、それによっての状況や結果は何となく見透視できる。

 だが直近の彼女を予測するのは能力以外、自力で考えないと。

 まあ、本来それは普通な事なのだけれども。





「うーん」


 ヒトゥリデは女装させた己が執事を見詰めながら唸っている。

 見詰められる若き執事テルオ、もといテルミーナは居心地悪く座ったまま静止している。

 ヒトゥリデの右隣にはカーナ。

 テルミーナの左隣にはセシリー。

 2人掛けシートの向きを変え、4人向かい合う席にして座っている。


 カーナとセシリーも思わずヒトゥリデの視線の先を見てみる。

 それはテルオことテルミーナの髪の毛。

 マッシュルームカットに似た、男子にしては長めの黒髪。

 そこにカチューシャで前髪を押し上げ、軽くメイクした顔をよく見える様にしていた。


「やっぱ、ちょっと短いかなあ」


 ヒトゥリデは呟く。

 男にしては長くとも、女の子だと物足りない。

 確かにそうだ。理解できる。

 せめて横髪が頬にかかる位は伸ばしたい。


「ウィッグとかあれば良かったのにね」


 セシリーが応える。

 そりゃあ都合よくあればいいのだろうが、3人の家族に持ってる者がいなかったのだ。


「今でも充分可愛いと思うわよ」


 カーナは現状で大丈夫派だ。

 僕は今の髪型だとほとんど変わってない気がするので、あれば使用してほしかった。


「うーん、しゃあない、伸ばすか」


「「!?」」


 不意にヒトゥリデはそう言うと、両手の平を胸の中心にそっと当て目を閉じる。

 何事か小さく呟く様に口許は動いているが、何を言っているのかは聞こえない。

 やがて手の平と胸の間から僅かな、極々僅かな輝きがこぼれてくる。


「「おおっ!」」


 カーナとセシリーは思わず声を漏らす。

 が、ヒトゥリデはそれに構わず右手の平を僕の眼前に向けた。

 広げた右手はポウッと淡く光っている。


 しばらくその姿勢を続けていると、手の光が伝わって来るのか、僕の髪の毛全体に淡い輝きが覆い出す。

 すると僅かにその髪の毛が伸び始めた。

 少しずつ、少しずつ、ゆっくりとだが確実に伸びている。

 そしてついに僕の横髪がふんわりカールに肩まで伸びた。


「「凄い、凄い、凄い!」」


 カーナとセシリーは大興奮。


「フフン」


 ヒトゥリ様は鼻をならす。

 彼女は精霊の魔法を使ったのだ。

 彼女はファッション、特に髪の毛に関する魔法を研究している。

 ネコミミが似合う様にと研究した成果なのであった。


「「メッチャ可愛いテルミーナ!」」


「そっちか!」


 どうやら2人は髪が伸びた経緯より、伸びた結果を評価した。

 カーナの祖父母は魔法を使える世代だし、セシリーはエルフ文化に詳しくない。

 ヒトゥリデがちょっと魔法を使えても、それ自体へのリアクションは薄いのだ。

 テルミーナの可愛さアップの方に何倍も興味が湧くらしい。


「僕ってわからない?」


「テルりんって分からないレベルじゃないよ」

「そうそう、ドクモにスカウトされちゃうかもよ」


 なんか複雑な心境だが、まあ、学校の人達に知られさえしなければいい。

 出発の時点でも、爺ちゃんには気付かれなかったけれど。


「ナニ? 毒藻?」


 ファッション雑誌でなく、ファッションに関する魔法書しか読んで来なかったヒトゥリデには何の事やら。

 笑われながら、簡単にカーナから教えてもらっている。


 だがそんな事より、といった感じでまだ気になる箇所があるらしい。

 またジィ~ッと僕の髪を見詰め出した。


「後はカラーリングよね」


 僕は典型的日本人の髪色、黒だ。

 ヒトゥリ様とカーナさんは金、セシリーちゃんは赤い髪色。

 そういえば黒ってホーではあまり見ない気がする。


「へえ~、ヒトゥりん、色も変えれるの?」

「ホント? ヒトゥリちゃん凄い!」


「!!」


 さっきは肩透かしを食らったせいか、今回の反応には一瞬驚き、すぐに表情を綻ばす。

 もちろん、ツンデレらしく、あからさまに笑顔を作っているわけではない。

 隠してるのがバレてる所に3人萌えた。


「と、とにかく、カラー変えるからっ」


 みんなからニンマリ顔を向けられて、ちょっと焦り気味に魔法を掛けようと、ヒトゥリデは胸に手を当てる。


「あ! じゃあこれ着けてからやって」


 セシリーがバックの中からアクセサリーを出して、僕の頭にセットした。

 カラーとの相性を見ようというのだろう。


「ほら、私とお揃いなんだけど」


 と、セシリーは自分の頭頂部にも同じであろうアクセサリーを着けて見せた。

 それは「着け耳」だった。

 一番人気「ネコミミ」の「着け耳」だった。


「!!」


 ヒトゥリデの胸から膨大な光が溢れ出し、車両の中は光で何も見えなくなった。

 光は直ぐに収まり、皆の目がじんわり回復してくる。

 カーナとセシリーの視力が戻った時、其処にヒトゥリデとテルミーナの姿はなかった。

 忽然と2人がその場所から消えたのだ。

 

うん、ちゃんと冒険しないとね。

たぶん……冒険する。


読んでいただきまして、ありがとうございます。

次話もどうか、よろしくお願いいたします。

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