2の1話
第2章です。
冒険、旅立ちの章、です。
ホントに?
今思えば栗原テルオは美少年……だった……と思う。
15才頃の記憶は、退院してしばらく日常生活をつづけるも再入院、の繰り返し。
もやしっ子。
いや、豆苗を食った後にもう一回生えさせて出てきた若い芽っ子。
いやいやもっとひょろっとした、その中で生え損なった縮れ毛みたいな白い芽っ子。だった。
そんな青っ白い奴が度の強いメガネ掛けてんだから、顔がどうだの気になる者など誰もいない。
ひとり鏡を見て、悪くはない顔だろうと思うだけ。
幼馴染みのトモちゃんの方が女の子みたいな顔してたんで、さすがに可愛いとは思えなかったが。
ともかく、自分に向かった視線に外見的な評価はない。
「テル坊、今朝は大丈夫か?」
近所の人達は挨拶と気遣いを同じものとして口にしていた。
まあ、そんな子供時代だった。
「ほら、どうよ!」
ヒトゥリデは2人に対して、胸を反らしながら腰に手を当てそう言った。
カーナとセシリーは一瞬、あんたが何故威張る。と思いはしたが言葉に出来なかった。
テルオの顔を目にした途端、思わず違う台詞を2人同時に口にしてしまったからだ。
「「可愛い~い!」」
マッシュルームカットみたいな髪型の前髪をヘアピンで上げて、軽くメイクしただけ。
普段表情があまり見えないが、綺麗な顔立ちだとは皆分かっていた。
それが前髪をどけて、更に唇を少し色付けしてやっただけで、可愛らしい少女が目の前に現れたのだ。
あくまでこの描写は彼女らの心情をそのまま言ってるだけで、盛ってないし、良しとも思ってない。
まあ事実として語っているだけである。
『男の娘はメイクだけじゃ不完全でしょう?
見た目全て女の子になってもらわないとねえ』
心の中でほくそ笑み、ヒトゥリデは自分の服をクローゼットからチョイスして何点かベッドへ放る。
それを2人手に取り、あーでもない、こうでもないと言い合っている。
やがて僕は大きな着せ替え人形となって、美少女3人から何度も何度も衣服をコーディネートされる事となった。
興が乗った3人のいいおもちゃにされて1、2時間……
もう晩飯でお開きにって時、調子に乗ったヒトゥリデが一言。
「今度の日曜日、この格好でお買い物ね」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
日曜日の朝8時。
気の早い観光客が並び始めている正門の反対側、僕らにとっては玄関の様な裏門入ってすぐ……
綺麗に着飾った美少女が4人、いや、3人+男の娘が家を出る所だった。
「お前達、車に気ぃつけるとぞ」
わざわざ見送りに出た爺ちゃん……ドゲン様は、本当に心配そうだ。
ちょっと孫に過保護気味なのは、何処の世界でも一緒なんだろうな。
先日の川土手の一件は絶対に言えないな。
「それにしても」
ふとドゲン様はキョロキョロ辺りを見回す。
「今日はテル坊は居らんとか?」
その言葉に3人の女子は顔を見合わせププーッと吹き出す。
そんな彼女らの反応に僕はムッとし、爺ちゃんは頭に疑問符。
気付かれてないのを幸いに、早く出発しようと僕は急いだ。
「ほらね、これだったらイヅィーカでも大丈夫だったよ」
カーナの言うイヅィーカの街とは反対方向へ歩く一行。
旧王城のもうひとつの最寄り駅、テンドへと向かっているのだ。
一番近い駅はイヅィーカなのだが、自分の希望で遠い方のテンド駅を利用させてもらう事になった。
我が主ヒトゥリデの命による女装外出が決められてしまった時、せめてクラスメートに見られにくくして欲しいと懇願した為だ。
普段ショッピングはイヅィーカに行くのが同年代の主流だ。
だが今回は願いを聞き入れてもらえて、テンド駅から列車に乗ってコウカに行こうか、って話になったのだ。
「うん、イヅィーカの街で誰かに会っても、絶対テル坊君だって気付かれないよ」
「う~ん、でもちょっと不安ですねえ」
セシリーが優しく声を掛けてくれたが、本来この格好で外を歩く時点でアウトなのだ。
せめて遠出位させてくれ。
まあ、遠出って言っても小1時間でコウカの街に着いちゃうんだけど。
「テルオ、人生、冒険しないとつまらないわよっ!」
ヒトゥリデがそう言ってニヤリと微笑む。
えええーっ! 冒険ってソコ?
実際に冒険に出る訳じゃなくって?
冒険心って事?
ダメだろう……
第2章のタイトルに使っていい内容じゃない。
ま、まさかね。
そんなつまんない内容じゃないでしょう。
きっとこれから……
読んでいただきまして、ありがとうございます。
次話もどうか、よろしくお願いいたします。