正体
「ヤッベ。見つかった!」
「えっ?」
国王陛下……? 脱走……?
「すみません。失礼します」
降りてきた従者みたいな人がクリスの両サイドを抑えて連行する。まるで罪人みたいだ。
「王女殿下もこちらへ」
言われた通りクリスの後を追う。洞窟から出て上に上がるとこめかみに青筋をうかべたウィルズさん。
「何かいいわけはありますか?」
「……アリマセン」
「仕事はもちろん終わらせたんですよね」
「あーと、大体は?」
「クリエス!!」
叱るウィルズさんに対して不真面目なクリス。周りの従者も冷汗をかきながら困った顔をして見ている。
「いや、でも今仕事してるだろ」
「フウ様を連れ回して遊ぶことが仕事ですか!?」
「ちげーよ。四神に挨拶に行ってきたんだよ」
「フウ様はまだ事態を飲み込み切れていません!! それは今じゃないでしょう!!」
「変わんないだろ。力がある限り、絶対にどこかで接触するんだからよ」
なんだか話題が私のことに変わってきてるけど全然ついていけない。御子、力、挨拶? 訳がわからない。
「えーと、聞いても良いですか?」
「すみません」
「おーよ、なんでも聞けよ」
言い合いをしている二人の態度がコロッと変わる。申し訳なさそうに目尻を下げるウィルズさん。多分ウィルズさんが責任を感じる必要はないと思う。態度というか、行いというか、ウィルズさんがきっと正しい。
「この状況を説明してくれると助かるんですけど……」
「そうですね」
観念したように目を伏せるウィルズさん。それからゆっくりと私の前に膝を折る。
「改めまして、私はこの国で宰相を勤めております。ウィルズ・ダイトンと申します。申し遅れましたこと申し訳ありません」
「俺はお前の叔父のクリエス・ジティーム・リン。職業は王様な」
えっ? ウィルズさんが宰相……なのはまだ理解できる。なんかあるだろうなとは思っていたし、私のことにも詳しかったし。
でもクリスが叔父で国王!? 嘘でしょう!? 衝撃が大きすぎる。そう言えば国王陛下って呼ばれてた。まじまじとクリスを見る。信じられない。クリス……クリエスが国王。
「国王、なんだ」
「まーな。俺、国王陛下。敬って良いんだぞ?」
「はぁ、ウィルズさん大変ですね」
急に胸を張り出すクリエスに冷たい目を向けながらウィルズさんの心中を察する。
「…………いえ、役目の一つですので」
「おい!どういう意味だよ!?」
しばらくの間のあとに一瞬クリエスに目線を向けて諦めた目をする。こんな国王持ったら臣下は大変だ。
「見つかったなら連絡してよね」
ウィルズさんと目線で会話しているとキルが現れる。足場の悪い岩場をうまくバランスをとりながらキルが近づいてくる。
「キル、正式に名乗りなさい」
「……はぁ、そういうこと」
すぐに状況を読み込んで一つため息を落とすとキルもウィルズさんの隣にひざまづく。
「魔法師団第3部隊隊長キル・ダイトン。改めましてよろしくお願いいたします」
ダイトン? ということは、
「親子!?」
「はい、愚息がお世話になっています」
「世話になんてなってないから」
確かに世話になんてなってないけど、むしろ私が世話してもらったけど。言い方ってものがあると思う。
にしても親子って言うわりに似てない、本当に似てない。容姿とかだけじゃなくて、話し方からなにまでも。ウィルズさんはいつも丁寧な敬語で話すけどキルはなんでもズバズバ言ってくる。超がつくほど毒舌だし。会ったばっかりだけどそのくらいはわかる。
「どうかしましたか?」
二人のことを見すぎたのかウィルズさんが心配そうに声をかけてくる。
「ど、どうしてここに?」
考えてたことがバレないように慌ててごまかす。
「あぁ、クリエスには脱走癖があってよく政務を投げ出して城下に逃げるんですよ。今日も脱走したみたいでちょうど城下にいた私たちに捜索の要請がかかってクリエスを捕獲しに来たところです。」
なんとなく察しはついてたけど本当に思ってた通りだ。