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異世界で笑って  作者: むん
5/10

知らないこと

 SIDE フウ




「おはようございます」


「あぁ、おはよう……お前ッその髪!?」


「……髪?」



 眠たい目をこすってアランさんに朝の挨拶をする。目覚まし時計がないせいで完全な寝坊だ。この世界に来て間もあなくて、居候させてもらっている身なのに図々しいことこの上ない。



「………顔、洗ってこい」



 驚いた表情を浮かべたままのアランさんに促されて洗面所に向かう。洗面器の前で立つと鏡に白銀の髪の毛が映る。……誰?



「なに、コレ?」



 昨日までの私の容姿が見当たらない。日本人らしい黒髪はどこの国にもいないような白銀に変わって、茶色がかった目は薄く赤みがかった目になっている。肌の色だって心なしか薄くなった気がする。


 鏡に映る自分をペタペタと触った後ゆっくり髪に毛にも触れてみる。鏡の向こうの自分がおんなじ動きをしているのを確かめてやっと現実味を感じる。



「アランさん!! どうしよう!? 姿が変わった!」


「そうだな。……でも本当は、」



 アランさんが言いかけたところで玄関の扉が叩かれる。



「アラン、いるだろ?」


「この声……キル?」


「だな」



 アランさんは玄関に向かい私は朝食の席に着く。うん、美味しそう。



「おはようございます」


「ッ!? あんた!?」



 部屋に入ってきたキルに頭下げて挨拶をするとキルが目を見開く。まぁ、当然の反応といえばそうだ。昨日の夜会った時からこれだけ容姿が変われば驚くだろう。



「あぁ、やはりそうだったんですね」


「……ウィルズさん!?」



 今度は私が驚く番だ。キルに続いて入ってきたのはあの大きな家からこの世界に私を飛ばした張本人。次に会ったら恨み言の1つでも絶対に言ってやろうと思っていたのに、ウィルズさんがあまりにも柔らかく微笑むから言葉が出てこなくなる。



「二人は知り合いか?」


「この人は、」



 言いかけて止まる。なん言えばいいんだろう? 地球から私をこの世界に呼んだ人です、そんなの誰が信じる。そもそもウィルズさんとアランさんやキルとの関係がわからないし。どこまで話していいのか悩む。



「すぐにお会いすることが出来なくてすみません。随分と魔力を必要としたので安定せず予定の場所に呼ぶことが出来なくて」


「いや、えっと?」



 色々飲み込めないことが多すぎてついていけない。



「話は朝食をとりながらで構いませんので」



 机の上に並ぶ色とりどりの食べ物達。小さな机を4人で囲む。



「容姿の方は戻ったようですが、記憶の方はまだのようですね」


「戻った?」


「その姿は元々のフウ様の姿ですよ」



 元々の姿……?? 柔らかく微笑むウィルズさんからあの懐かしい香りが香る。グチャグチャになる頭の中を落ち着かせてくれる。



「どういうことか説明してもらえますか」


「もちろんです。フウ様にはその権利があるのですから」



 ちぎったパンを口に入れる。いつも以上に力がこもる歯で噛みしめる。



「フウ様は元々この世界の住人です。3年前にこの国を襲った大災厄と呼ばれる事件が起きるまではこの国の第一王女として過ごされていました」


「私が、この世界にいた? 王女?」



 困惑中でアランさんとキルを見る。2人とも難しい顔をして何も言わない。それが余計に現実味を帯びさせる。



「大災厄の際、フウ様のお父上、つまり国王夫妻は死去。フウ様はあの地球という世界に飛ばされました」



 言ってることが理解できない。ウィルズさんがなんと言おうと私は地球で過ごしていて、私の両親はあの人たちで、あの無機質な家で、ルイとして生きていて、それが全てでしかないのに。ルイとして生きたことに強い思入れがあるわけではないけれどそれでも、私を型どっているのはそれしかないから。それを否定されたら私は何もなくなってしまう。



「でも私は確かに地球でルイとして生きていた!」



 叫ぶように訴えてもウィルズさんは静かに首を振る。



「フウ様が地球に飛ばされたとき、交通事故で東根 涙(あずまね るい)さんは亡くなっていました。そこにフウ様の魂を結びつけて肉体を一時的にお借りしたということです」


「肉体を借りる……?」


「もちろんそんなことは許されていません。そもそも、それ自体が様々な条件を満たさなくてはならないので禁忌とされていている上、実現不可能なことなんです。ただ、運よくも成功したのはフウ様のお父様が膨大な魔力をお持ちだったからこそでしょう」



 ウィルズさんはゆっくりと息を吐いて話を区切る。理解できないことが多くて、一つ一つ噛み砕いて解釈していく私を待ってくれているあたりやっぱり優しい。



 つまり私は元々この国の第一王女で大災厄と言うものに巻き込まれて一時的に地球にいたということ。……だったら私の帰る場所はこの世界にあるのだろうか。




「……私はこれからどうすれば?」



「現在、この国を治めているのはフウ様の叔父に当たるクリエス・ジティーム・リン様です」



「……叔父」




 質問の答えはくれない。これはしたいようにすればいいってことなの? じゃあわざわざ叔父が国王ということを知らせたのはなんで? 測るようにウィルズを見る。



「さて、君達も聞きたいことがあるようですね」



 ウィルズさんが目線をそらす。仕方がないといったように肩をあげてキルとアランさんを見る。



「すみません、ちょっと外に出てきます」


「はい、どうぞ」



 三人の話を聞けば色々わかるのかもしれないけど、今の私にはそれを受け止められそうにない。


 外に出て大きく息を吸い込む。目に映る景色は何もかもが違う。私が知ってる景色はどこにも無いのに、私はここにいたらしい。街の様子を流れるように見ながらあてもなく歩く。人の話す声、獣と人が融合した姿の種族、所々で見られる魔方陣。街の活気が眩しくて裏路地に入る。



「お嬢さん?」


「ッ!? 誰?」



 後ろから肩をつつかれる。ビックリした。


 たっているのは白銀とまではいかないけど私の髪と近い銀髪を持つ人。嬉しそうにニコニコしている。



「俺はクリエ……クリスだよ。」


「クリス?」


「そ。お嬢さんは?」


「フウ」


「フウ、ね。こんなところでなーにしてんの?」


「街を見てた。私ね、覚えてないんだけど小さい頃この街にいたらしいの」


「良い国だろ、ここ」



 確信めいた声色で自慢してくる。きっとこの国の住人として誇りを持っているのだろう。



「そーだ! 俺が直々に案内してやるよ」


「案内?」


「知りたいんだろ? この国、ジティームを」


「私、何にもわからない。知りたいけどきっと混乱するんだと思う」


「あー、んなことごちゃごちゃ考えてたら身が持たないだろ。混乱したならキルにでも八つ当たりすればいんだよ」


「キルの知り合い?」


「まぁ、ちょっとな」



 手を引っ張られて路地から出る。日陰になっていた路地と違って通りは眩しい。



「被ってろ。俺の髪もお前の髪も目立つからな」



 近くの小物屋で帽子を買ってきて私の頭に被せる。色違いの帽子を自分の頭にものせて歩き出すクリスの後を追う。



「あそこに城があるだろ」



 首を傾けて上を向くと大きな城が見える。



「あの城に国王とか誘導師とか偉いやつがいるんだよ」


「誘導師?」



 ということはもしかしたら私が以前住んでいたかもしれない場所ということだ。



「誘導師ってのはこの国の守護者みたいなもんだよ」


「じゃあすごいんだね」


「そうでもないぞ。筋力バカと万年居眠りと花畑と口うるさい奴ら」



 そんな人たちが国の守護者で大丈夫なの? 戦争でも起きたら3日で落とされそう。



「この世界には魔術の属性が光、闇、炎、緑、空、鋼の6つなんだよ。で、基本的には産まれたとき反応を示した属性しか使えない」


「何でも出来るって訳じゃないんだ」


「まぁな、何でもできたら世界が滅ぶ」


「そっか」


「それに魔術の源になるマナは地脈に沿ってるからこの国では炎緑空鋼の四属性以外を持ち物が生まれることはまずない」



 話が難しくなってきた。つまり光と闇の魔術の反応は出ないってことか。



「属性っていうのは召喚契約魔術で契約出来る神獣を限定してんだよ。だから一致する属性じゃないと契約出来ない。」


「炎起こしたりとか水を操ったりとか出来ないの?」


「できない訳じゃない。でもそれには神獣の力を借りる必要性がある」


「と言うと?」


「つまりだな、俺たち魔族が使う魔術っていうのは神獣と契約するための手段のことを言うんだよ」


「ふーん」


「まぁ面倒なことはおいおいわかっていけばいんじゃね」



 軽く流してコロッケのような食べ物を渡してくる。



「うめぇよ、おすすめだから食ってみな」


「おいしい!」



 コロッケより甘くて外側がカリッとしていておいしい。今まで食べたことのない味だ。



「こっちもうめーぞ」



 次々と渡される食べ物を完食する。どれも美味しい。



「あー、食った。な? 良い街だろ」


「うん」



 自信満々に自慢してくるだけのことはある。すっごく良いところだ。



「時間帯も良いしな、いくぞ!」


「えっ、ちょっと待って!!」



 いきなり腕を引っ張られて体がもたつく。待って待って、転ぶ。必死に足を動かしてなんとか追い付く。



「見てみろよ」



 呼吸を整えるために下に向いていた目線を上にあげる。



「……きれい」


「ここは水の祠って言って太陽が真上にくる時間と潮が引いてる今だけ現れんだよ」



 連れてこられたのは洞窟みたいなところでドーム状の形をしてる。中は真っ暗なんだけど真上だけポッカリ穴が開いていてそこから入る光が海に反射して輝いている。神秘的で言葉が出てこない。



「おい! 居んだろ?」



 神秘的な空間に目を奪われていると洞窟の奥までクリスの声が木霊していく。次の瞬間ブクブクと水が膨れ上がってくる。なに!? 何がおきてんの!?



『なんだ、何用だ?』


「用は特にないけど暇しってかなーと思って」


『暇じゃない。即刻帰れ』


「待て待て、用はちゃんとあっから」


『なら早く言え。暇ではないと言っている』



 水の中から出てきたのは亀と蛇が合体したような生物。多分、玄武だと思う。朱雀の次は玄武。混乱して頭が痛くなってきそうだ。でも大分耐性がついたのか最初の頃みたいに驚かない。あぁ、そうかって処理できる。



「気づいてねーの。お前らの待ち望んだ御子が帰って来たんだよ」


『何?!』


「一応伝えておこうかと思って」



 玄武の視線がゆっくりとこちらに向く。神獣たちがもっている射ぬくような視線が向けられる。痛い、空気の緊張が肌に刺さる。



『……確かに強いが何も感じんぞ』


「まだ完全な状態じゃないからな」


『あぁ、炎のやつか。御子よ、我の声が聴こえているか?』



 何かに納得すると視線が私の方に向けられる。御子って私のこと……だよね。


 クリスを仰ぎ見ると柔らかに微笑まれる。きっと大丈夫ってことなんだろう。一つ小さく深呼吸をする。



「聞こえるよ」


『そうか、久しぶりだ』


「……記憶がないから、久しぶりかわからないや。ごめんね」



 嘘をついても仕方がない。記憶がないのは変わらないし、玄武のこの瞳に嘘をついてはいけない。勘みたいな直感的なものがそういっている。朱雀を助けないといけないと感じた使命感とよくにている。



『そうか』



 短い会話を終えて今度はクリスを見据える。



『他の者には伝えておこう』


「それは助かる」



 背を向けてまた水の中に沈んでいく。


 よかった、なんとかなったみたいだ。力が抜けて座り込む。朱雀の時と同じですっごく神経を使う。御子とか神獣とか聞きたいことはいっぱいあるけど口が乾いて舌が回りそうにない。



「あー久々だけどスゲー圧だったわ」



 同じように隣に座り込んで息を吐くクリス。



「俺、今日一日分の仕事はした」


「仕事ってなにしてるの?」



 少し落ち着いて来たので息をつくクリスに尋ねてみる。



「発見しました!! 国王陛下です」



 洞窟の入り口から声が響く。



「クリエス!! また脱走しましたね!?」



 続いてウィルズさんの怒鳴り声も響きわたる。

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