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異世界で笑って  作者: むん
4/10

彼の中には  sideキル

 あのプリエナでの事件はすぐに国内をまわった。国内の最南端に伝わる頃には事実無根なお伽噺にまで着色されたんだから噂話っていうのはすごい。でも、そんな事を気にしていられるほど王宮に余裕はなかった。



「その話は確かなんだな」


「はい」


「だとすればなぜプリエナに……?」


「そのようなことは後でよい! いち早く、御子として迎えに行くべきだ」


「失礼ですが、あいつ……、その少女には記憶がありません。ですから本人かどうか確かめるには至っていません」


「なんと……」


「もはや本人でなくともその存在は貴重だ」


「いや、しかし」



 実りのない会話を続ける国の重鎮たちと向かい合っているこの状況。居心地が悪い。


 話の行く先をながめているような、一段上にある玉座に座る人に目をやる。隣にはよく見知った顔が国王と同じように話の行く先を見定めている。少し下に目線を落とせばまたも話を聞いているのかいないのか話し合いに参加しないで流れを見ている奴らが四人。


 舌打ちが漏れそうになるのを必死で押さえる。この人たちの誰か一人でも口を開けば話はまとまるのをわかってるくせに矢次に質問されて苛立つ俺を楽しんでいるような態度がさらなるいらつきを呼ぶ。



「最後の報告ですが容姿は全くの別人です」



 さらにざわつきををます。


 そうだ。おれがあいつを断定できなかったのは容姿が大きい。俺が知っている奴とは似ても似つかない髪色と目の色。顔も違ければ身長も違った。それにあいつみたいなどこか諦めているような印象を受けるような奴じゃなかった。いつも可能性を模索していて感情が豊かだった。でもあの大人びた表情がダブってみえたのは、



「報告ご苦労。この件については師団の方で少女の観察を続けるように命ずる」



 自分の世界にトリップしていると低いこえが響き渡る。


 やっとか。やっと国王が口を開いたことで今後の方向性が決定した。



「これで朝議は終了とする。キルは話があるから残るように」



 国王の号令に頭を下げて会場を出て行く臣下たち。残ったのは国王とあの五人と俺。



「おー、よく我慢したな」



 クシャクシャと頭を撫でまわそうとしてくる手を弾く。


 それを気に止めないで豪快に笑うアシエ·ルシオン様。銀色の翼の大臣。


 要するにこの国で国王、宰相についで偉い役職にいる四人の誘導師のうちの一人。誘導師っていうのは国王を導く者。国王の知識となって時には盾や剣にもなる。


 まぁ、希代の王は元々宰相の地位にいた人であって特殊な例だけど。国王の地位は就いているものの彼らが王として崇めたのは前国王だ。この事を知っている者は少ないが落ちてきた地位を仕方なく受け取った形なのだ。だから現国王であるクリエス·ジティーム·リン様は玉座に座りたがらない。


 朝議と儀式の時以外はその席に座ることを拒む。



「さてと、案内してくれ。キル」



 今もさっさと王冠を外して高価な国王使用の洋服を脱ぎ捨て楽な格好になってあいつに会いに行こうとしている。



「おい、そりゃねぇだろ。俺も見に行きたいぜ、その少女」


「アシエ、クリエスも……ズルい。ボクも、行きたい」



 独特な間の取り方をしながら口を挟んだのは紅蓮の魂と呼ばれる誘導師の一人であるフラム·パシオン様。相変わらず眠そうだ。半開きの目が物語っている。



「私としては3人も外に出ていかれると仕事が滞って困るんだけどなぁ」



 柔らかな声質が響く。深碧の盾の異名を持つフィシィ·ツァールト様。もちろん誘導師の一人だ。



「だいたい、アシエもフラムもデスクワークが溜まってるだろ?」



 フィシィ様に乗っかるようにして四人目の誘導師である天色の剣で知られるシロエ·ピスティ様が口を開く。



「ちょっとくらい良いだろ?」


「ボクも、行く」


「だから仕事が残ってるって言ってるだろ。終わらせてからにしろよ」


「終わるわけねーだろ。あんな大量の書類。思い出すだけで吐き気がする」


「ボク、行く」


「溜めたお前が悪い。自業自得だ」



 言い合いを始めたアシエ様とシロエ様を困ったように目尻を下げてフィシィ様が眺める。国王は愉快そうに笑って当てにならないし。俺もそろそろ面倒になってきた。



「どうにかしてよ、父さん」


「ここでは宰相閣下でしょう?」



 一向に口を開かなかった最後の一人自分の父親で宰相のウィルズ·ダイトンに声をかける。



「では、私が行きましょう。私なら一度会ったことがありますしね」


「あっ! ずりーぞ!!」


「ですがその少女がもし本当に彼女であるのであれば記憶がない今、初対面のあなたが行くより適任なのは確かですよ」


「ボクも」


「フラム、今回は城に残って仕事をしてください」


「ンー、行き、たかっ、たな……」


「それからクリエス!! あなたが一番仕事を溜めてるのを忘れてませんか!?」


「そーだっけ?」


「そうなんですよ! そのせいで私の仕事が増えてるんです。さっさと執務室に行って下さい!! フィシィ、監視をお願いします」


「了解、大変だね。クリエスのお守りは」


「えぇ。せめて脱走癖が無くなってくれると助かるのですが」



 父さんの怒鳴り声が王間に響く。正論を言われて詰まる誘導師と国王。これが国のトップなんてよく国が保たれてるな。ブツブツとまだ文句を言っているアシエ様とフィシィ様に励まされながら執務室に向かう国王を見送る。



「さて、フウ様は今どこにいますか?」


「とりあいず、アランのところ」



 おかしい。まだあいつと彼女が同一人物であるなんてまだ誰も確信出来ていなかったのに。父さんは不確定なのにフウ様なんて呼ばない。だってフウは先王の唯一の子供、宝だ。亡くなった先王を今でも王と崇めるこの人たちはそれに関するものには過敏だ。だからこそ、断定できないどこの出かも分からない子供をそう呼ばない。



「なら安心ですね」


「父さん、フウ様ってなんであいつとフウが同一人物ってわかるわけ?」


「いえ、そのうち分かりますよ」



 簡単には答えをくれない、か。


 城下に出る準備を始める為に王間後にする。

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