初対面の再開
『フウ、早く私のところに来て』
「誰?」
『あと少しだから』
「何?誰?」
『あともう少しで会えるから。その時にわかるわ』
「私は、あってもきっと、」
『大丈夫よ。あなたの記憶は私のところにあるから』
「どういうこと!?」
『だから、早く私のところに来て』
「どこに行けばいいの?」
『ここは灯火が集まる場所。人々の願いを乗せる所』
「わかんないよ!」
『灯火と情熱の実がなる所』
「灯火と情熱……?」
『そうよ。この世界は美しいわ。それを誰よりも知っているのはフウよ』
「私は、何もわからないし、知らない」
『怖がらないで、そしてどうか恨まないで』
「なんでそんなこと言うの?」
『フウは優しい子だから』
「私は……」
『そして忘れないであなたは誰よりも愛おしい子よ』
「待って!! あなたは誰!?」
__________________________________
SIDE フウ
聞いたことの鳥の鳴き声と強い光に重い瞼を開ける。
「灯火と情熱……」
ポツリと漏れた言葉に違和感を覚える。
なんのことだっけ。夢の中で何か大切なことを教えてもらったはずなのに、記憶が薄くて思い出せない。何かを、誰かと話していたはずなのに。でも嫌な感じはしないからきっと優しい夢だったんだと思う。晴々とした空が目に入って不思議と気持ちも軽くなる。
「入るよ」
ノックの音が聞こえキルが入ってくる。
「おはよう、キル」
「ん、あんたもう起きてたんだ」
「うん、よく寝たからかな。昨日はごめん。眠気に耐えられなくて」
「別に。気にしてない」
キルの無愛想な態度はこういう時は助かる。これで昨日のことを色々言われたら恥ずかしくてたまらない。
「ところでさ、キルは今日時間ある?」
「なんでそんなこと聞くわけ?」
「アランさんのところまで案内してほしいなぁって思って」
恐る恐る聞いてみる。出来ることなら一人で行きたいけど、城下といえど空中を飛んできたから道がわからない。
「一応キルが言ってくれたけど、私からもお礼が言いたいし!」
畳み掛けるように続けてキルを説得する。
他に方法がないわけじゃない。多分だけどウィルズさんに言えば送ってもらえると思う。けど宰相というのを知ってしまった手前、お願いしにくい。
「わかった。一時間後にヴァート庭園にきて。」
「ありがとう!!」
ため息をついて部屋を出て行ったキルの代わりに朝食を持った侍女が現れる。持ってきてくれた朝食を温かいうちに食べて、ついでにヴァート庭園の場所を聞く。
よし、準備を整えて外に出る。教えてもらった通りに足を動かしてヴァート庭園を目指す。
………着かない。多分、いや確実に迷った。でも、しょうがない。だって、この王城は大きすぎる。
侍女に聞いた話だとヴァート庭園にたどり着くまでにシーフ小庭園、ウィーフ小庭園、アルバの花道を突っ切らないと行けないらしい。
慣れてしまえば平気らしいけど、記憶のない私にとってはこの庭園は森と同じだ。
なんでも、この王城が建っている所はマナが集中していて、王城の敷地内にも多くの神獣が住み着いている。だから神獣が住みやすいためにもなるべく自然はそのままにしているとか。そのおかげで、庭園と名前はつけられていても手入れはされてないから森だ。
……わかんない。本当にここはどこ? 同じところを回ってる気もするし、進んでいる気もする。歩くのを諦めて地面に座り込む。
諦めて空を見上げると空を隠すように人の顔が映る。
「ッ!?」
驚いて後ずさる。
「どう、して……ここに、いる……の?」
私の驚きをよそにふわふわとした声で話しかけられる。
「えっと、迷ちゃって……」
「どこ、行きたい……の?」
「ヴァート庭園」
「こっ、ち」
手を引かれて再び歩き出す。少し先を歩く赤い髪が揺れるたびに太陽の光を反射する。
「ここ、まっすぐ、……着く」
「ありがとう!」
「ん」
お礼を言うと赤い髪の男の子の顔に笑顔が浮かぶ。
「また、ね」
「うん。またね!」
最後に浮かべた笑顔が可愛くて、花が咲いたような笑顔ってああいうことを言うんだと思う。
お礼を言ってキルがいるヴァート庭園に急ぐ。
「キル!」
ペガサスをさすっているキルを見つけて見つけて名前を呼ぶ。
「遅いんだけど」
不機嫌をあらわにするキルに謝る。
「どうしたらあんたの部屋からここまでこんなに時間がかかるわけ?」
「迷ちゃって……」
「イエルの花道をの方から来れば一本道でしょ」
「イエルの花道……?」
「あぁ、そっか」
キルの眉間にシワがよる。何を思ったのか細める。
「キル?」
「なんでもない。さっさと行くよ。昼までには帰んないと行けないから」
キルに手伝ってもらってペガサスに乗る。二度目となるとそんなに怖くない。キルが後ろにいるから安心できるし。
「キル、気持ちいいね!」
「前回は怖がってたけどね」
「それは初めてだったから」
「……初めてじゃないけどね」
風の音でキルの声が聞き取れない。
「何か言った?」
「別に」
「ジン! 止まれ!!」
キルの声が空中に響いてじんがのけぞりながら急停止する。いきなりのことで体がふらつく。キルに支えられてなんとか落ちずにすむ。
「なに!?」
理由はキルの答えを待つよりすぐにわかった。目の前に現れたのはペガサスの何倍もあるドラゴン。行く手を阻むように立ちふさがって、鋭い目をこちらに向けてきてる。赤褐色の鱗に燃え上がるような赤い眼。
「ここはドラゴンの縄張りじゃないはずなのに……。俺が合図したら、ジンから飛び降りて」
「え?」
「大丈夫。すぐに受け止めるから」
「……わかった」
キルの合図に集中する。
『久しいな、御子よ』
聞こえてきた声に驚いてドラゴンを見る。今のはキルでも、ジンの声でもなかった。だとすると、やっぱり。
「私に話しかけてるのは、君?」
「あんた、もしかして!?」
「うん、多分そうだと思う。大丈夫そうだから待って」
「わかった」
『御子よ、後ろの者は?』
「私の……味方」
『そうか。して、我と共に来てくださるか』
「私が?」
『うむ』
返答に困る。キルの方を向いて助けを求める。キルはドラゴンを警戒するように視線を鋭くさせている。
「なんだって?」
「一緒に来て欲しいって」
キルが瞳に驚きを浮かべる。
「キルも一緒でいいなら」
ドラゴンを見据える。怖いけど、キルがいるなら心強い。
『かまわぬが辞めておくことが賢明だ』
「なんで?」
『これから向かうは炎の祠。そやつには少々辛いだろう』
「キル、炎の祠って知ってる?」
「こいつがそこに行くって言ってんの?」
「うん」
「…俺はそこには行けない。炎の力って言われてる、赤のマナが集中してるところ」
「なんでキルは行けないの?」
「俺は純粋な赤じゃないから、そこに行くと体が持たない」
「それなら、私だって純粋な赤かわからないよ!?」
「あんたは大丈夫、特別だから」
『して、御子よ。そろそろ良いか』
「え、ちょっと待って!」
「今はコイツに従って。炎の祠でしょ。すぐに信頼できるやつを向かわせるから」
「……わかった」
不安を覚えながらも赤褐色の鱗を持つドラゴンの翼に乗り移る。ドラゴンの背中の上は大きくて私が一人乗るのは余裕だ。感触も鱗があるから硬いのかと思ってたけどそんなことなくて少しブヨブヨしてる感じ。
「おい、そいつにもしものことがあったらたとえ祠の番であってもジティームは容赦しないから」
『心得ておこう』
キルにはドラゴンの声が聞こえないはずなのに、反応を見て何かを察したのか視線をドラゴンから私の方へ視線をずらす。
「あんたも、何にもわかんないくせに突っ走るようなことしないでよ。後から応援が行くまで大人しくしててよ」
「う、うん」
キルにすごい剣幕で言われて思わず頷く。そんな心配されるようなことしたつもりはないんだけど……。
「あんた本当にわかってんの!?」
「は、はい!」
不満が顔に出ていたのかキルに念をおされる。
『では行くぞ、捕まれ』
最後の一言が聞き取れる前にドラゴンの羽が風をきってもの凄いスピードで進みだす。思わずドラゴンの首にしがみついて振り落とされないようにする。




