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春香さんがやって来る!!  作者: 潜行花火
5/6

5話:日記

あの日に戻れるなら、と想う人は多いと思うがもしも

そんな日があるなら僕にとってはいつになるのだろう。

 僕は過去と向き合う為に、今まで避けていた事をやろうとしている。

それは今ある幸せを無くす愚かな行為なのかもしれないし、散々苦労しても

今以上のモノが得られる保証なんか、これっぽっちも無いのに


 僕は前に進み続けないといけない。

とりあえず、僕はあの山についての事を過去の自分の日記を通して

今一度知らなければならないと想い。日記を探して読みふける。


 日記より抜粋


 今日は  ちゃんと一緒に山に入った、二人でここに秘密基地を作ろうと誓った。

 まるで二人の秘密のお城を作ろうねと言ったら  ちゃんは大変喜んでいた。


 今日は  ちゃんと一緒に秘密基地を作る為に草刈りをした。  ちゃんが新聞紙に包んで鎌を二つ持ってきた。


 今日も  ちゃんと草刈りをしている

 今日も  ちゃんと草刈りをしている。

 今日も  ちゃんと草刈りをしている。

 今日も  ちゃんと草刈りをしている。

 今日も  ちゃんと草刈りをしている。 

 

 すこし来れなかっただけで、草がボウボウになっている  ちゃんがぶち切れていた。


 今日は  ちゃんが灯油を撒いて草を根絶やしにしてやると息巻いたが、僕は必死に止めた。


 灯油を持って行った事がバレて  ちゃんはしばらく外出禁止になったので、  ちゃんの家に行って遊んだ。

 今日も  ちゃんの家に行って遊んだ。

 外出禁止が解けて  ちゃんはとても嬉しそうだった。  ちゃんと除草剤を何回も何回も運んで辺り一面にぶちまけた。

 後日  ちゃんは除草剤の中身をお酒に変えていたことがバレてまた何日が外出禁止になった。

 秘密基地の草むらが無くなって居た。

すごいすごい  ちゃんはやっぱり凄い。


 こんな調子で徐々に秘密基地が発展していく様子が書かれていた。

 だがある日を境に日記は書かれていない。

そして中学生になってから日記が再開されるのだが、  ちゃんの事が書かれていないのだ、不自然な程に、まるで居なくなってしまったように、気持ち悪いぐらいに。

 僕は途切れていた記憶を思い出そうとする。だけど残念な事に僕は何も思い出す事が出来ないのだ。


 だから今日、僕は学校を休んであの秘密基地があった場所に行く事を決めた。

 山に入る前に一応念のため、夏菜に電話をした。

 夏菜なつなに電話をするとすぐに電話は切られてしまった。少ししてから夏菜から折り返しの電話が鳴った。

 「どうしたのあさひ

 小さな声だったが、おそらく学校のトイレだろう。悪いことをした気分になる。

 「悪いな、授業中だったな」

 「別にいいわよ、なに私の声が聞きたくなっちゃったの?」

 「まあ、そうかもな」

 「///やけに素直ね、どうしたの今なら告白でもしちゃうのかな」

自分で言ってもだえて電話を切ってしまったのか通話が途切れた。

 すぐに夏菜から着信が来た。

 「ごめんなさい、今のは聞かなかったことにして」

 「いや、よく聞こえなかったんだけどなんか言ったの?」

 「いえ、なんでもない・・から大丈夫」

 「わるいんだけど、今日って春香はるか学校に来てる?」

 「来てるよ、なにそんな事をわざわざ確認するために電話したの切るよ」

 「いや、ちがうんだ、ごめん切らないで夏菜の声を聞きたくて電話したんだ」

 「///じゃあ仕方ないから許す」

 「僕と夏菜っていつ出会ったんだっけ?」 「さあ正確な日なんか覚えてないけど小学校の時にはもう友達だったでしょ」

 「小学生の時ってなにして遊んでたっけ」 「どうしたの、後でお見舞いに行ってあげるから、おとなしく寝てなさいよ」


 電話が切られてしまい再度鳴らしても、夏菜が出ることはなかった。


 僕の中であの秘密基地に行く事に対して最大級の警告音が鳴っている。でもそれでも僕は行かないと行けない気がしてならない。

  たとえどんな事が待ち望んでいようともあの時みたいに振り向く事も出来なかった。あの時みたに見ない振りしてこのまま楽しい学校生活を過ごしたらきっと幸せなのかもしれない。そんな事を思いながら僕は山の中をどんどん進む目的の場所に一歩一歩進む。

 例の嘘つき事件の場所にたどり着いた。

 「やあ春香でいいのかな」

 僕の目の前にあの日見た少女が立っていた。あの日とは同じ赤いワンピースを着て僕の前に立っていた。

 「今日は家で寝てないと駄目だって言ったでしょ」

 目の前の人物の顔が一瞬夏菜に見えた。

目を擦って再度見るとやはりあの日見た春香だった。

 「やっぱりそういう事なんだね」

 僕は全てを知っている風で春香に話し掛ける、もちろん何も知らない。なぜあの時の夏菜との会話を知っているのか、僕にはわからない。無論スパイ映画みたいに盗聴したのかもしれないが、わざわざ授業中に電話をしたのに、そんな事は可能なのだろうか。

 そもそも本来は学校に居るはずの春香が山の奥から現れる事自体がおかしいのだ。

 「さあどうゆう事なんだろうね秋津くん」

 春香はクスクスと笑う、次の瞬間視界から消えていた。でも僕の耳元で春香は囁く。

その場に居ないはずなのに直ぐ耳元に春香の声が聞こえてくる。

 「この先に行かないなら今日の事は忘れさせてあげるよ、これが君の帰還不能限界点だよ、最後に選ばせてあげる」

 「きかんふのうげんかいてん?」

 「日常に戻る事が出来る限界点ってことだよ、ここから先に行くともう君は昨日までの楽しい生活とはお別れしないといけなくなるって事なんだよ理解した」

 そう言って春香は居なくなった。元々声しか聞こえていなかったわけだけど

 このまま帰った方が絶対に良いのは考えるまでもない事のはずなんだけど

 「このままじゃあ日記が書けないんだよ」 僕は意を決して前に進もうとするが、足が動かない何かに引っ張られる様に進まない。 いくら鈍い僕でもいい加減気付く、これはきっと夏菜への想いが足をひっぱているのだ。僕は今、名前も顔も思い出せない相手の為に、夏菜と決別するだろう道を進まないと行けないのかと想うと足が鉛の様に重かった。でもそれでも僕はこのまま、あのまま全てが中途半端でうそに満ちた世界では、夏菜に自分の想いも伝える事は出来ない。


 僕は漸く、先に進めたのは夕方近くなっていた。数歩進むと景色がぐにゃりと変わった僕はなにかに足を取られて転んでしまった。 なんだ、木の枝にでも足を取られてしまったのかと後ろを振り向くと僕はそれを見てしまった。確かに春香の言う通りだ。

 春香は僕に確かにこう言った。

 「ここから先は帰還不能限界点だと」

 春香はその言葉の意味がわからない僕に春香は優しく教えてくれてた。

 「ここから先は日常生活に戻れるなくなってしまうよ」と丁寧に説明してくれた。


 僕はぬるりと手に付いたモノが血だと気付くのに少し時間が掛かった。僕が足を引っかけたそれは僕自身だった。

 数ヶ月は優に経っているはずなのにその僕はまるで眠っているようだった。

 血もまるで今流したばかりの様だし、自分自身とは言え気持ち悪かったが触ってみるが、堅くも無い、死んだおじいちゃんはあんなに堅かったのに、もしかしたらと、首筋を触って見るが、脈は打っていなかった。


 僕自身の遺体にばかり気を取られていたが、そこは先程まで居た場所とはまるで異質だった。本当に僕が居た場所なのか、信じるのに少し時間が掛かった。

 僕の遺体以上にその周辺はめちゃくちゃだった。木々は倒されて地面は抉れている。

大きな岩が綺麗にチーズでも切るように切断されている。そんな風景が飛び込んできた。

 僕は僕の遺体が大事に抱えている血だらけのノートを手に取ってふらふらと家に帰るのだった。



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