3話:着信音
夏菜という少女は本当に僕の事が好きで好きで堪らないのだろうと
前に、校舎裏で問い詰めた事がある、あの日の出来事は・・・忘れよう
結論として僕と夏菜の関係は今に至る
昨日帰宅してしばらく机で日記を書こうとしていると、着信がなった。
夏菜からだったが、僕はなぜか後ろめたくて電話に出ることが出来なかった。
翌日、学校で夏菜に無言で足を蹴られた。
そのことを友絆にグチると、何故かニタニタと笑っていた。
それ以上に昨日、春香と一緒に下校した事は想像以上に噂になっていた。
体育の授業でドッチボールをやっている時は、やたらと殺気の籠もったボールが僕に集中したので早々に当たって退場した。
「秋津くん大丈夫」
「いやこれくらい平気だよ」
席も近いので給食の時に春香さんと一緒なのだ。今まではぼっち席で1人で食事していると夏菜がからかって来たが、
どうだ夏菜ぼっち飯卒業したぞと夏菜の方を得意げに見る。ぷいっとそっぽ向かれてしまったのだが、気にしないぜ。
うちの学校では4人1組で席が近い子達で、囲んで食事をする。
でも人数的に3人になったり5人になったりもするのだが、あの嘘つき事件以来、孤立していた自分は班に入れてもらえなかったが、桜先生はそれを見て
「先生も1人だぞ、一緒に食うか?」
と笑いながら話し掛けてくれたが、さすがにそれはちょっとアレなので遠慮した。
翌日、夏菜と友絆が一緒に食べてくれた。
「先生に言われて仕方なく、仕方なくなんだからねああ仕方なく」
とグチって言って言い争いになった。
友絆はなんでか、あとで聞いたら面白そうだから遠巻きで見るよりもと言っていた。
先生、救いの手なんだけど、このメンツは色々と酷くないかな。
そんなやり取りがあったけど、春香と一緒に飯を食えば、自然と人が集まってみんなと同じ様に飯が食えるぞ。
「おい」
僕は無言で僕の前で食事を続ける夏菜に話し掛ける。
「おーい、夏菜さーん」
さっきの呼び方で、春香が一瞬ビックとして悪いと思ったのでちゃんと名前で呼んでみるが、返事がない。
「なんで、わざわざここで飯食うかね」
「いってぇ」
「このやろうまた、人の足蹴りやがって」 じろりと睨み付けてくる夏菜さん超怖い。
そこで昨日のやり取りを思い出すが、春香が居るのでその内容は言えないし、忠告を無視していた事に気付くが、なんでこんなに怒っているんだ。
かくなる上は仕方ない、今日に限って出ているプリンを献上した。
夏菜はプリンみたいに甘いモノが大好きなのだ。無言でそのプリンを受け取り食べてゴミを僕に返してきた。
そのやり取りを友絆はケラケラ笑いながら春香に話し掛けていた。
できればそっちに混ざりたいのに、春香の無言の圧に負けて旨く入れそうにない。
友絆、頼む僕の入りやすい話題を春香に振るなり、夏菜を茶化して会話に混ぜてやってくれと目配せをするが、こいつは延々と食い物の話をしていた。しかも食料自給率と輸入食品に関するちょっと小難しい話を、役に立たないやつだ。
そして放課後、昨日と同様に春香と一緒に帰ろうとしたとら、夏菜が付いて来たのだった。
帰り道は無言だった。
なんと言うか、昨日とは意味合いが違って、重い空気が流れていた。
「夏菜さんは、もしかして」
重い沈黙を破って春香が救いの手を差し伸べてくれたように思った。
「秋津君の事が好きなの?」
夏菜が無言で春香に睨み付けるけど、僕の足を踏むの辞めてください。本当に痛い。
「大丈夫?」
「春香さんその大丈夫はどういった大丈夫なの、あと辞めてそう言った物騒な発言は」
「春香さん、私の名前は前園夏菜友達はみんな夏菜とかなっちゃんて呼ぶは」
「あら、ごめんなさい、まだクラスの名前半分も覚えて無くて前園さん」
「とりあえず道で言い争いは辞めましょうよ、ちょうど目の前に公園もありますし」
おそらく春香さん公園を見つけてから話しを切り出したんだろうな。
早く家に帰りたいと僕は切に願うのだった。あと夏菜さん足痛いんだけど。
「春香さんこそ、なんでこんなと一緒に帰ってるの趣味悪くない」
「えええ地味に傷つくんだけど」
あと足痛いです。
「えっと、そうかな私はそうは思わないけど、それに秋津くん面白いし」
春香さんマジ天使じゃないかな、でもなんで僕の足踏んでるのイジメなの?
「すいません、春香さん足踏んでるですけど、出来たら退けてもらえませんか」
「あ、ごめん気付かなくて」
言葉で謝罪したが足がどかない、なんだろうこれは、とりあえず。
「夏菜もいい加減に足踏むの辞めてくれ」
夏菜が一瞬ビックとなって、踏んでいた足を解放してくれた。その足が退いてから漸く春香は足を退かしたけど、なんだろう僕は、女の子に虐められる星の下に生まれてしまったのだろうか。
「夏菜さんは秋津くんの事が好きなのにどうして意地悪しちゃうんですか」
「な、旭の事なんて好きでもなんでも無いってのなに言ってのんよ」
「大体まだ名前も禄に知らない癖に知ったような事言ってんじゃねえ」
「えっでも、クラスの子達が言ってたんですけどね、私は言ってないですよ」
「えっえっ」
なんだか気のせいか夏菜の顔が真っ赤になって行くんだけど、真面目に帰りたいわー
「顔がいいからって調子乗ってんじゃねえよ、お前みたいな奴、旭だって嫌いだ」
夏菜は震える手で僕の制服の裾を無意識に掴んでいた。
僕を間に挟んで喧嘩とかマジで辞めて欲しい。あと夏菜、僕の背に隠れる様な形になてるぞ。
「秋津くんは私の事嫌いですか」
「いえ、全然」
とりあえず即答しておく、にっこりと笑った顔が最高にまぶしいな。
夏菜は馬鹿と叫んで僕の背中に靴跡を残して、去って行ってしまった。
「うーん、哀しいですね」
春香が本当に哀しそうな顔をしていた。転校早々に女子と喧嘩になって凹んでいるに違いない。春香の境遇を思えば可哀想ではある。見知らぬ土地で不安なのに早々に人間関係でトラブルになってしまったのだから、でも夏菜の様子もおかしいのだ。普段はあんなか弱そうな態度は取らないし、あんなけんか腰になったりしない。
「なんか夏菜がすいません」
とりあえず、代わりに謝っておく。
「いえ、前園さんの事をすこしからかい過ぎてしまいましたね。本当は私も夏菜さんって呼びたいんですけどね」
うん、どういう意味なんだろう。
「夏菜と友達になりたいんですか?」
「ええ、だってあの子なんだかかわいいんですもん是非是非友達になりたいんですけど
少しアプローチの仕方を間違えてしまいましたかね。」
「かわいいですかね、あんな凶暴な女」
「秋津さんは鈍感ですね」
「よく言われるんですけどね、むしろ敏感な方だと自負しているんですけど」
それを聞いて春香はクスクスと腹を抱えて笑うのだった。
「でも今日は夏菜さんに悪いので解散しますか」
僕は春香と携帯の番号を交換してその場で春香と別れると、ちょうど曲がり角で見えなくなりそうな所で僕の携帯が鳴っていた。道路の先で春香がコチラを向いている夕日に照らされて居るその姿は本当にきれいだった。まるで人間じゃないみたいだった。
「ちゃんと出てくれましたね」
「そりゃ出ますよ」
「じゃあまた明日」
「また明日」
短い会話が終わって春香の姿が見えなくなる。僕は春香の影を目線で追いかけていた。
影は異様に大きかった、夕暮れで影が伸びているんだろうと思ったが、曲がり角から伸びた影は何時までもそこから動かなかった。
着信音が響く、夏菜からだ。