表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
春香さんがやって来る!!  作者: 潜行花火
2/6

2話:帰り道

彼女との帰り道を振り返るとなんだかザワザワする。

これがなにか僕にはまだわからない。

 彼女は休み時間になる度に、クラスメイトに囲まれていた。僕の居場所が無いような気がしてそっと席を離れた。

 先程握手した手をぼーっと眺めて居ると、友絆ともきが僕の手をぎゅっと握ってきた。

 「はじめまして、南雲なぐも友絆ともきです、南の雲に友に絆で南雲友絆ですよろしくおねがいしまーーす」

 友絆はヘラヘラと笑っている普段絶対手なんか繋がないくせにこいつ

 「気色わるいんだよ、離せよ」

 長々と僕と春香はるかの倍ぐらいもう手を繋いでいる。本当に辞めて欲しい。

 「いやー凄い人気だよねあの子」

 みんなが春香を中心に輪っかを作るように人垣が出来ていた。僕たちみたいに遠巻きから見ている子達も併せたらほぼ全員が彼女に注目をしていた。

 「そうね、あの子と握手した手をニヤニヤ見つめてあさひが気持ち悪かった」

 夏菜なつながまた酷い言葉を投げてくる。本当にこいつは

 「いつまで男同士で握りあってるのよ」

 と夏菜によって解放された僕の手、くそ今日は手を洗わないつもりだったのに洗ってくるか悩むところだ。

 「それにあの子、旭以外の子とは握手してないのよね、からかってやろうかしら」

 よし、今日は手を洗わないぞ。

 「へぇーそうなんだ、なんでだろう」

 思わずにへらと顔が緩みそうになる。

 「だいたい自己紹介で手なんか繋ぐ、こうやって手なんか繋ぐの」

 「夏菜さんあの手握ってるんですけど」

 「初めまして夏菜でーす」

 と言ってさっと手を離した、念入りにスカートの裾で手を拭うのは、酷いと思う。

 「でも、そうなるとおかしいんだよな」

 友絆がすこし不思議そうな顔をして、春香さんの方を向いて考えこみながらスマホを弄る。今は昼休みで弄っても多分見つからなければ取り上げられないだろう。

 「なにがおかしいんだ、お前が男好きになった事がか」

 「ちげえよ馬鹿、お前なみたいな馬鹿にぜってえおしえないからな」

 夏菜なつなが友絆と一緒にあさひは馬鹿だなと茶化してくるけど。

 「お前だって、馬鹿じゃん絶対何も解ってないだろ」

 大きく手を広げてやれやれと首を振りながら夏菜は僕に説明を始める。


 「いいかよく聞けよ、旭、一度しか言わないからな、お前は町から森の中に入って行ったんだよな」

 「なんだよ、あの話聞いてたのかよ」

 「いいから黙って私の話を聞け」

 夏菜なつなはちらりと人に囲まれてる春香はるかの方を向いてから小声ではなしを続ける。 

 「あの森の奥はな山につながってるけどな、山道からは離れてるし本当に獣道だし、誰も、いやあさひみたいなモノ好きしか入らないんだよ普通はな」

 「悪かったなモノ好きです」

 夏菜が僕を睨み付ける。

 「わかりました。わかりましたよ黙って夏菜先生の授業を聞きますよ」

 「よろしい、つぎ茶々を入れたら校庭十周走らせるからな、返事は?」

 「はい、はい」

 「はいは一回だ」

 「・・・はい」

 「でだ、旭が声を掛けるまで気付かなかったって事は、彼女は森の奥から現れたって事だろう」

 「話を聞くと山登りしてた服装でも無いみたいだし」

 徐々に鼓動が早くなって行くのが聞こえる。言われてみればその通りだ、あの場所は林道からも外れて道無き道を進まないとたどり着けないような場所なのだ。

 「そしてあの場所から先は本当に道がひどいというか、あの馬車が唯一開けた平らな場所だけど、あそこから先は下手に進めば遭難しそうなほど危険な場所なんだ」

 なんで、夏菜はそんな事を知っているんだろうか少し疑問に思うのだが、

 「日焼け痕もないような子が山に詳しいとも思えないし、一番不気味なのは」

 「服装が汚れていなかったんじゃないか」 言われてみれば、違和感が確信に変わっていく。彼女の透き通るような肌に合っていた赤いワンピースはまるでおろし立ての様に鮮やかで、まるで現実味がなかった事を僕は、思い出して、手足が震えてくる。


 僕は念入りに手を洗った。

洗っても洗っても彼女との握手の感触がまだ手に残っているようだった。

 それはさっきまではホワホワとした気持ちにさせてくれていたが、今はそんな気持ちになれそうにない。

 夏菜なつな友絆ともきが言う様に僕は大馬鹿だ。まるでなにも疑問にも思わなかったのが、不思議で堪らない。


 普通に考えて人気の無い山の中で異様な少女に相対したら、それではまるで階段話では無いか、言われるまでその異常に気づきもしなかった僕は大馬鹿だ。

 「秋津あきつくん、秋津くん」

 「あさひくん」

 振り向くと春香はるかが居た、彼女は少し脹れ面をしている。

 「秋津あきつくんってばいくら呼んでもずーーっと手洗ってるんだもん」

 「ああごめん、ごめん」

 やっぱり足もちゃんとあるし、とても幽霊とかには見えないんだよな。

 「どうしたのそんなに手を洗って」

 春香はるかが不安そうに僕の方を覗き込んでくる。

 「いやーさっき掃除してたら犬のうんこ触っちゃってさ、本当ついてないよ」

 「秋津くんばっちいよ」

 ああ、やっぱり僕は嘘つきだなあ

 「じゃあちょっと手を見せて」

 春香が僕の手をマジマジと見つめてくる。 「うん、きれいになってるよもう大丈夫だと思うよ」

 「そうかな、じゃあ握手できる?」 

 「いや、それはちょっと」

 春香は、少し困ったような表情を浮かべる。

 「ほらやっぱり僕は女子と手を繋いで下校することももう出来なくなってしまったんだヨヨヨ」

 と少し大げさに項垂れてしまう。

作戦通り、犬のうんこを触ったと言われて握手が出来る中学生女子などなかなかいない。 「そんな事ないよ」 

 「え、じゃあ春香はるかさんが僕と一緒にお手々繋いで下校してくれるの?」

 わざわざこんなウザいキャラを演じて自分が嫌いになりそうだよ。さっさと君を待っている沢山の人のところに行ってくれないかなと僕は心にも無い事を思う。

 「いいよ、一緒に下校してあげるよ」

 なにやら怒った感じで、春香は告げた。


 僕と今日学校に転校してきた、息を飲む様な美少女の春香は並んで歩いて下校している。一体これは何なんだろうと思う。

 夏菜の言ってた事なんか正直どうでも良くなってくる。

 無言で歩く、歩くただそれだけなのに、僕の顔が赤いのはきっと夕日のせいに違いない。春香はるかの顔も気のせいか赤くなってる気がするが、きっと夕日のせいだろう。



 気付けば駅に付いていた。彼女は電車通学らしい。僕は本当は自転車通学なので電車は使わないのだが、今日は歩いて駅まで来ていた。

 「秋津あきつくんはどっち方面」

 「上り、春香さんは?」

 「わたしは下りだよ、残念だったね」

 「そっかあ、でも明日学校でからかわれるかもね僕たち」

 「私はそんな小さな事は気にしないのだよ少年」     

 春香さんは自身満々な顔でそんな事を言われたら男として引き下がれない。

 「僕だってせぇんでん気にしないよ」

 「噛み噛みだよ大丈夫かい少年」


 クスクス笑いながら春香は僕の問いかけてくる。クスクス笑われる事は過去にもあったけど、春香はるかの笑いは全然嫌な感じはしなかった。むしろなんだか、

 「なんだよ少年少年ってお姉さんぶるなよ」

 「いやだって君、かわいいんだもん」

 はっきりと耳まで赤くなったような気がした。僕は春香から目を逸らす。

 「おやおや少年、私の目を見れないようじゃ、君はまだまだ少年だよ、秋津あきつ少年だよ」

 今度はケラケラと笑いながらからかう。

 そんなやり取りをしていたら、2両編成の電車が駅に着いて、またあしたと言って、春香は下りの電車に乗って去ってしまった。



 僕は家に着くと、今日の出来事を日記に書こうとした、僕は楽しい事があると日記を書くようにしている。

 だから今日起きた事は日記に書く長文になりそうだけど、今日起きた事を思えば、何も苦にはならない。

 そのはずなのに僕は日記を書けなかった。あの日からずっとそうなんだ、あの日から、今日は楽しい事があったはずなのに、長らく書いていなかったので、怠け癖が付いたのかもしれない。

 

 電話が鳴った、見ると夏菜なつなからだ、とりあえず無視した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ