異世界転移 1
久しぶりにパソコンにさわれた。
そしたらなんか書いてた 以上
「あぁ、また異世界ものだよ……」
落胆した口調で隣の席からそう聞こえた。
授業中だというにも関わらず持参したライトノベルを読みふける自身の親友がいた。
「題名見て買ったんじゃねぇのかよ、お前」
「俺は題名よりもイラストで決めるタイプの読み専なんだよ。これ重要」
軽くため息を吐きながら自身もまた今読み進めている小説を読み始める。
すると、教壇に立つ英語教師から発音の良い日本語でお叱りを受ける。
「こらー、来栖に天音。対して点数取ってねぇのに喋ってる暇あんのかー?」
間延びするような声と共にクラスの視線の的になってしまう。
だが、特に陰キャラという訳ではない来栖ルイという親友は先生からのお叱りに反応してしまうのだ。
「ハーフの天音は兎も角、俺は点数取ってまーす。先生まさか俺のテスト採点してないんですか?」
「おい俺はクォーターだっつってんだろ。あと、俺を混ぜるんじゃねぇよ」
これから幾つかの理論武装が始まるのが、高校生活での新たな楽しみの一つでもある。
そんな感じでいつもの時間が過ぎていくと、そう思っていた……
◆
高校生活も残り少なくなってきた日々の中、一日の全てが実習という全くもって登校する必要のない今日。
いつもの通り来栖がライトノベルに関しての愚痴をこぼしていた。
「これも外れだぁ!」
来栖は急に叫び出して机の上にライトノベルを投げ捨てる。
「またかよ……いい加減少しは中身も見ろっての」
「そしたら読む気がなくなんだよ、イラストからの内容創造楽しいんじゃ」
「んで、今回は何がダメなの?」
「いや今回だけじゃない。今日この頃のライトノベルは異世界に行ってから幸せになる主人公が多すぎる。ハーレム作ったり、最強の能力がどんどん追加されていきやがる。ワンパターンでつまんねぇわ」
「まぁ分からなくもないわな……、んじゃジャンルを移せば?俺の読んでるホラー系とかさ」
「無理だ。俺はハッピーな感じがしないとグロは無理なんだよ」
相変わらずに我儘な思想だが、来栖の言っていることは決して否定できたものではない。
現にこの世界にはファンタジーが溢れすぎている。
だから今の時代にある異世界転生も異世界召喚も全部が同じように見えるのは仕方がないことなのだ。
「はぁ、どっかにいねぇかなぁ。ガチで異世界にいった人が書いたような小説は」
「ねぇよ。まずこの世界にはそんなものはねぇ」
「んだよ。天音は随分と夢がないこというやん」
「ったりめぇだろ……俺が読んでるような【連続殺人犯の視界映像】みたいにリアリティーがねぇじゃねぇかよ。そっちは魔法、こっちはリアリティー。な?」
「うわっ、出たよ。天音の軽いサイコパス発言」
他愛のない話しをしているうちにクラス内での何かの変化を天音は感じとった。
それは来栖もクラスにいる全員がそうだった。
いつも通りの会話を来栖と天音で行っていたことに、普通通りの対応で済ませていたが故の違和感。
「先生が回ってこない、というか先生が来ない件について」
実習中だとしてもクラスに担任の教師くらいは来てもいいはずだが、一切その気配がない。
と、感じ取った瞬間のことだった。
地鳴りがする間もなく自分が立っている場所が直下に揺れ体制を崩し、首の後ろには感じたこともないような重さの太い鎖を投げつけられたかのような衝撃を受けた。
「ングッ!!」
視界は床一面で真っ暗、声も出すことができないくらいに首の後ろに圧迫感を感じる。
全力で起き上がろうとしても感じたことのない力に成すすべもなく意識を刈り取られた。
「目を覚ませ……」
少しハスキーな声音が鼓膜で響き、完全に目が覚める。
視界は少しだけぼやけているが周りを見渡せばクラス総勢四十八人の全員がその場に倒れていた。
しっかりと隣には異世界ラノベに苦言を物申す親友もいる。
だが、異様な空気に身が包まれ寒気がやまない。
「あぁ、やっと起き上がったか」
空中に背を預け座る褐色の男性。
「っ!?」
声にもならないような悲鳴が喉から鳴った。
「起き上がるのに三分……これは上々だな」
まるで人間を弱者のように語り、蔑みの眼差しが天音を貫いた。
「こ、ここは?」
内心は焦り始める一方で思考回路はクリアになっていき、周りを見渡せばクラスメイトが横たわっている以前の問題だということに気が付く。
「ここは……」
だがそんなことを意に介さずただただ茫然と男を見ると明らかに先ほどまでの記憶にある教室ではないことが男の背景から見て取れた。
周りには木々が茂っているのにも関わらず、この場所だけ何かに抉り捉えれたかのようにその木々がない。
更に言えば何かが地面にクレーターを作っているし、焦げている。
「なん、だこれ……?」
「はぁ……、随分と混乱しているようだな」
褐色の男は何かを数えるように懐中時計を見ながら、天音の反応に返しをくれる。
「お前らは私がこことはまた別の場所から召喚した選ばれし者たちだ」
「……召喚?」
「そうだ。お前らの世界にはなかったのか?この世界には魔法も呪文も存在する」
「異世界ってやつか」
「あぁ、飲み込みが早くて助かる」
男は懐中時計を長いコートのポッケにしまうと、まだ眠るクラスメイトに対して手のひらを翳す。
「そして私の名は語る必要のないことだ」
「な……」
見たこともないほどに綺麗な光が男の手のひらに収束し、空に向かって放たれた。
「どうせ死ぬことになるだろうからな」
「は?」
一瞬だけ言葉の意味を理解できなかったが、一つの魔力の塊が隣に落ちあまりの爆音で瞼を閉じ即座に開くと、親友は地面と共に抉り取られていた。
空を見上げるとまるで雨のように大量の魔力の塊が降り注いでいるのが見えた。
「お前はまだ使い道があるが、他はいらん」
突然胸ぐらを魔法で捕まれ引き寄せられ、そのまま空中で固定される。
両手両足が動させない状態で固定されたため焦ることはなかったが、いつも顔を合わせていたクラスメイトたちが肉片も残さずに消えていく景色を見せられ、胃からこみ上げてきたものをそのまま吐き出してしまった。
「ほぉ、お前は涙も流さんのか?」
「あぁ……はぁ、はぁ。別に」
「この前の奴らには大量にいたぞ?恋人が、友人がだの言って泣き叫ぶやつ。大声で異世界なら俺は最強になれるはず……といった訳の分からないことを言っていた豚もいた。無論のことそいつらには才能がなかったからな、今のように処分したがな」
だからここら一帯が何もないのかと勝手に一人で納得した。
空中に固定されていることから何となく周りを見渡し、冷静に客観的にモノを見れることができた。
「……随分と余裕があるな」
「そう、だな。俺がこれから先に生きている未来が見えないから脳みそが勝手に諦めたんだと思う」
言われてみると確かにそうだ。
こんな状況なのに思考は澄み切っている。
「いや。お前はこれから生きてもらうことになる」
「なんで?」
「私には可愛い妹がいてな、人間を研究したいらしい。これまで無数の人体を与えたがどれもこれも魔力に耐性がなくてな……そこで〈転生魔法〉で別の世界線から無暗矢鱈に人間を読んでいるのだよ」
「要するに人体実験の材料になれってか?」
「その通りだ。本当に話しが早くて助かる」
不思議だ。
これは不思議な感覚だ。
この場所、いや異世界でなら現世で出来なかったことが不思議と出来る気がしてくる。
「あんたは俺ら人間のことをどれくらい理解してる?」
「何も知らん。まぁ妹曰く、〝大量に魔力を吸収するくせに放出できない〟くらいか……」
「そうか……ならその研究は出来ないかもな」
「何故?」
「知らないから教えてやる、帰ってから可愛い妹に教えてやれ……」
天音は自ら舌を出し、思いっきり噛み千切った。
普通ならこれで人生お終い。
毛細血管の塊で治癒が遅く大量の血液を流す、人間に共通する最大の弱点。
大量の血は滝のように天音の口から流れ落ちる。
「おへは、かんはんにひねるぞ?」
あまりの痛みで薄っすら視界が潤み、舌の大半を失ったことで言葉がしっかりと発音出来ていないがこれで勝ったと天音は内心でガッツポーズをとった。
「あぁ、確かに死なれては困る。だがここはお前らがいた魔法も呪文もない世界とは訳が違う」
「ま、」
「知らないようだから教えてやろう、今にも死にそうなお前に教えてやる」
男は指を鳴らした。
すると、口から大量に吐き出した血液が、地面に染み込みもう戻ってくることのなかった血液が……
「は?」
短時間で、いや一瞬で治るはずのないベロは気が付く間もなく再生していた。
「マジかよ」
「どうだ?これがお前らのいた世界にはない力だ」
魔力で動かし
魔力で活かす
「私くらいの魔力の持ち主であれば、これくらい造作もない」
舌を嚙み切っても死ぬことはできない、両手両足は自由は聞かず、いつの間にかクラスメイトは目に映る光景には存在しなくなっていた。
「では、戻るとしよう。ここは如何せん匂う」
足元にはまるで漫画本に描かれているような魔法陣が展開された。
もうどうすることも出来ない。
もうこれからどうすることも出来ない状況まで追い詰められたとき、ふと親友がいた場所を見ると走馬燈のようにあることを言われたのを思い出した。
『いいか?あり得ないことだけどなぁ、異世界にいったら必ずしも最強になれるわけじゃない。だけど考えることはやめるな。そうしないとその世界にはついていけなくなるぞ?』
『だからぁ、もしもって言ってんだろ?もしもだよ』
『おいおい。あり得ないなんてことはないんだぜ天音、これは世界共通でな〝あることを証明することよりないことを証明する〟ことのほうが何倍も何十倍も何百倍もムズイんだぜ?』
頭の良かった親友の言葉はとても心に残っている。
その中でも異世界という新たな世界に、例え二次元の話だとしても一番興味を持っていたのは来栖ルイという青年だ。
きっと来栖は異世界に行けたとしたらという過程でいろんなことを考えていたんだろう。
自分が弱くても、自分が強くても、自分になんの力がなくとも、自分が最強の以下らを持っていても、それはきっと変わらなかったと思う。
「……そうだよな」
この記憶の中にいる親友のおかげで心のどこかが切り替った。
それと同時に感じたこともない重力加重により、意識が暗転した。




